2020年4月28日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のハイリスク・グループは、高齢者で複数の合併症を持っている人たちであることは中国からの論文でも早い段階から指摘しています。
ここで紹介する論文は[1]、いま流行の火中にある米国での介護施設で起こった集団発生の解析です。集団生活が危険であることはクルーズ船の経験からも明らかですが、本論文では、査読を担当した編集者が、米国のCOVID-19対策の弱点部分を指摘し、「アキレス腱」と表現した[2]ことからネットでも話題になりました。
感染初期に多くは無症状であり、しかも感染初期のウィルス排出量が多いのでこの無症状の人たちを早期に発見しなければ終息させることは難しい、と結論しました。
感染初期の無症状の人たちが、あちらこちらに出かけ、それが拡散の理由になっていることは容易に想像できます。
Q. 本論文の概要?
ワシントン州の介護施設で実施。利用者 計89名を2回に分け、第1回目は、3月13日に綿棒による⿐咽頭スワブのリアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)によって、COVID-19を引き起こすウィルス(SARS-Cov-2)の有無を調査。この段階で陰性であった52名を3月19-20日にかけて再検査。最終的な検査対象者は76名。第1回目の検査で陽性者は23人。そのうち、無症状が12名。咳、痰、発熱などの典型的な症状ありは9人。2人は、症状はあったが典型ではなかった。第2回目は1回目で陰性だった52名を対象。24名が陽性となった。うち、無症状は24名。7名が症状あり。2人は非典型的な症状だった。
1回目および2回の検査での陽性者47名でそのうち典型的なCOVID-19の症状があった人は16人に過ぎない。27名は陽性でも無症状であり、4人は陽性であったがCOVID-19の症状とは一致しなかった。以上より、感染しても無症状者が多い。このことは、現在、検査を進めている対象者が発熱、咳、咽頭痛などの症状を持つ人だけにしているのでこれが米国のCOVID-19対策の「アキレス腱」であると表現したのである[2]。
Q. 本論文の問題点は何か?
たぶん、この論文の結論は、米国だけでなくわが国でも危惧されるCovid-19対策の弱点をついている。
しかし、一読者としてこの論文を読んだ時に多少の違和感を感ずる。
第1は高齢者集団を対象としている点である。陽性者の平均年齢は78.6歳、陰性者は73.8歳であり、合併症はほぼ全例が複数個を有していた。頻度が高いのは慢性呼吸器疾患、糖尿病がそれぞれ約40%、心血管疾患は約20%であった。なかでも認知症がある陽性者は58%、陰性者で46%であったことである。認知症を有する患者から正確な症状の聞き取りは困難であり、また不正確であろう。
第2は、施設内で感染を広げたのは担当の職員の可能性が高いことである。論文には短く、職員は検査していないと記載してある。同じ時期に施設内の別の病棟でも発生があることが記されており感染した患者が動き廻って感染を広げたのではなく職員であった可能性が高い。全体の死亡者は26%という高率であり、職員の感染動態のデータが追加されておれば別の問題点が指摘された可能性がある。
第3は、高齢者の疾患の特徴は、例えば肺炎を例にとると典型的な症状は乏しく、また非典型的であることが多い。高熱とならず重症でも微熱のことはしばしば見られる。例えば腸閉塞の症状が肺炎の初発症状であることも経験される。高齢者の肺炎では合併症が多いこともこの論文と同じ傾向であることは古くから知られている。高齢者のCOVID-19の早期発見を若年患者と同じ基準で探すのは無理であろう。高齢者集団を検討したこのデータをもとに是非、若年者でも同じことが言えることを実証してほしいと思う。
感染初期にはウィルス量が多く、この時期をいかに早く診断するかについては今の政策の最大の弱点であるように思われます(参考、No.54)。
治療薬と平行してワクチンの開発が急がれています。インフルエンザの予防のようにワクチン接種で予防できるのかどうかの結論を早く知りたいと思います。
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