• 木田 厚瑞 医師

No.58 新型コロナウィルス感染症―集中治療室からの回復


2020年5月8日

新型コロナウィルス感染症(Covid-19)で最重症となった患者さんは集中治療室(ICU)で、かなりの期間、人工呼吸器やECMO(膜型人工肺)による治療を受けます。治療が奏功し、ICUから一般病棟へ移ってからも酸素吸入などの治療は必要となります。


危機的な状況でICUに入室となり、その後、無事、退院となった患者さんの約半数は、自宅へ退院してからもいくつかの問題を抱えていることが多く、この解決策が問題となっています。これはICU後症候群(Post-intensive care syndrome=PICS)と呼ばれCovid-19だけが抱える問題ではなく、急性心筋梗塞など他の重い急性疾患から回復した退院後に見られる状態です。

ここでは米国胸部学会が患者さんへのメッセージ[1]を参考に紹介します。




Q.PICSとは何か?


ICUやそれに近い重症状態で入院治療を受けた場合の半数は以下の項目のうち少なくとも一つの症状が持続すると云われている。

  • 歩行が困難となるような身体的な機能低下が起こる。

  • 精神面で不安や恐怖を感ずる、あるいは思考能力の低下が続く。

  • 日常的な行動での活動度が低下する。

  • 多くが発症前にはできた仕事ができなくなる。




Q.PICSの身体症状とは何か?


  • 疲れやすさ、息切れ、身体の痛みなどのほか少しの労作や運動が困難となる。




Q.PICSのメンタル面の異常?


  • 考えること、記憶、集中力の低下。

PICSでは、身体症状、メンタル面での症状がミックスして起こることが多い。これらは発症前には認められなかったものが多い。




Q.患者へPICSを説明する場合


  • ICUで救命治療を行った後に新しく生じた身体能力、メンタル機能、認知機能などの混乱や低下が生じている状態である。そのために発症前に戻すためのリハビリテーションを家族と協力して継続していく必要がある。




Q.PICSの医学的な判断方法?


特殊な血液検査やCTなど画像検査は不要である。

  • 6分間平地歩行テストなど時間内での歩行テスト。

  • 握力測定など筋力測定。

  • 歩行などによる持久力の検査。栄養状態のチェック。

  • 肺機能検査などによる呼吸障害の把握。

  • 問診票などを利用した不安、欝症状、息切れ、入浴など日常生活の把握などによる日常生活におけるQOL評価。

これらの情報に加え、医師による問診が大切である。



Q.どのような人がPICSになりやすいか?


  • 重症で、ICUなどで治療を受けた患者。入院する前は元気で普通の生活を送っていた人。

  • ICUで治療を受けた患者にもっとも多いがそれ以外にも重い病気で治療を受けた患者で起こりやすい。

  • 入院する前に慢性呼吸器疾患などで治療を受けていた人で起こりやすい。

  • 精神疾患、認知機能障害がある場合にはPICSが起こりやすい。

  • その他、起こしやすい疾患ではCovid-19のような感染症、急性呼吸窮迫症候群や血中の酸素が高度に低下した場合、急性心筋梗塞などで血圧が急に下降した場合、ふだん、譫妄と呼ばれる軽度の意識障害を起こしやすい人。




Q.PICSは予防できるか?


  • 日常生活で呼吸困難が強いなど慢性の呼吸器疾患がある場合にはICUでの治療期間をできるだけ短縮できるように治療スケジュールを組む(医療者側の問題)。

  • できるだけ早期に運動療法を開始し、日常の活動度が低下しないようにする。

  • 入院中に退院後の生活の在り方を決めるため、家族や地域の訪問看護などを入れ、支援体制を作っておく。

  • 入院中に安定すれば患者と家族、友人と会う機会を多くして、記憶が途絶えてしまわないよう努力していく。



Q.PICSはどのように治療していくか?


  • 重い疾患の治癒に近い状態に近いが新たに生じた症状に対して治療を行う。

  • 筋力低下や機能障害では運動療法を実施する。

  • メンタル面での鬱状態や不安、不眠などは薬物治療とリハビリテーションの組み合わせで治療する。

  • 認知機能障害がある場合、記憶障害、集中力の低下がある場合には神経内科医を受診し、原因について相談する。その場合には脳のCT, MRIなどの画像所見が必要となることが多い。

  • チームを組んで治療にあたる。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、ケースワーカー、など。その場合、担当医の指示の下にチーム医療として進めることにより効率を高める。



Q.PICSは治せるのか?


  • 入院から1年後、もしくは数か月間以上続くことがある。

  • 回復過程に個人差が大きい。

  • 症状の一部は数週間内に改善することがあるが中には回復が遅れる症状がある。

  • 回復が遅れている場合には介護者のQOLを考慮した治療計画を立てる。これが配慮されないと介護者が鬱状態、不安神経症など外傷後ストレス症候群(Post-traumatic stress syndrome; PTSD)に陥る危険がある。

  • あくまでも患者の症状改善を目標に治療を進めるのが良い。


Covid-19で救命できた人でも重症で長い闘病生活の後、すぐに発症前の職場に復帰することは困難と思われます。PICSは、今後、そのような人が増えることを予想した注意と言えます。Covid-19から治癒した人たちの社会復帰の態勢の整備を急ぐ必要があります。PICSは、高齢者では起こしやすいが若年者でも同じことが起こることを予測してします。

PICSのポイントは以下の通りです。

  • PICSは重症から回復した後、身体的、精神面、認知能力の低下を来した状態を指す。

  • 診断により身近な、かかりつけ医が症状を安定させる目的で治療を継続していく。

  • PICSは、介護にあたる家族などへの配慮が必要である。

  • 長期の治療計画は必要に応じて加えたチーム医療として進めるのが良い。



参考文献:


1. Kosinski, S. et al. What Is Post–Intensive Care Syndrome (PICS)?

ATS Patient Education Series, American Thoracic Society

Am J Respir Crit Care Med 2020; 201:P15-P16.


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