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No.70 新型コロナウィルス感染症の治療戦略の情報は

2020年6月11日

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染者数は全世界で670万人を超え、死亡者数は39万人に達しています(2020年6月6日, 現在)。しかし、他方で研究論文も急速に増え、問題点がかなり整頓されてきました。感染予防策➡早期診断と抗ウィルス治療薬➡多臓器の合併症の治療➡回復とその後のリハビリテーション、という段階的な治療法の態勢が整いつつあります。

 臨床現場では一人ひとりの患者さんについて、症状の経過、身体所見、検査データを総合的に判断し、どのような治療戦略を組むかは、他の多くの病気の治療方針と共通しています。

 最近、発表された論文では[1]、多くの研究結果をもとに現在、考えられている病気の進行過程とこれに合わせた治療戦略を分かりやすく解説しています。



Q. 新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染のスタートは?


・感染した人が咳により吐き出したエアゾル、あるいは指先の皮膚に付着したSARS-CoV-2が物に付着する。それを吸い込む、あるいは触れた人が次の感染源となる。

鼻腔や咽頭の粘膜に付着したウィルスは細胞の中に入りこみ、急速に増える。



Q. ウィルス血症を起こす


・感染したウィルスは血液中に入りさらに増え続ける。


・血液中はウィルス血症の状態となり、ウィルスは全身の臓器に広がる。



Q. どの臓器が攻撃されるか?


・細胞にアンギオテンシン転換酵素受容体2(ACE2)を多く持つ臓器が攻撃されやすい。受容体が鍵穴となり、コロナウィルス(SARS-CoV-2)が鍵となる。


・ACE2が多い臓器は、心臓、肺、胃腸、腎臓である。


・感染後、2週間前後に症状が急に悪化する時期は各臓器でウィルスが一気に増殖する時期と一致する。



Q. さらにどのように進行するか?


・身体の炎症反応の進行と並行して血液凝固能が高まる。これは血管の内側を構成する内皮細胞をウィルスが破壊し続けるためである。小さな血栓が肺や心臓などの臓器で多数、作られ、肺や心臓の本来の働きが行われなくなる。検査ではDダイマー高値、フィブリノーゲン上昇、抗リン脂質抗体が陽性となる。


・感染により免疫を担当するリンパ球(Bリンパ球数、Tリンパ球数)がウィルスにより壊され減少する。


・悪化とともに血中では炎症のマーカーが上昇する。これらには次の項目がある。CRP、フェリチン、IL-6、TNFαなど。



Q. 重症期とは?


・ウィルス量が増え、臓器の炎症が進み、臓器の機能が破綻する。


・肺では強い炎症が起こり、その結果、低酸素血症が強くなり、二次的に多数の臓器が傷害を起こす。


・ウィルス量はピークに達するが身体の免疫機能が回復し、この時期を乗り切り、各臓器の機能が回復すれば回復期となる。


・心臓に強い炎症を起こすと不整脈、心不全となり、急変する。

(図1)

出典:Cao, W. et al. COVID-19: Towards understanding of pathogenesis. Cell Research 2020; 30: 367-369を一部改変

 図1は経過を示す。



Q. 感染を起こしてからの経過と治療薬の関係?


・感染初期の対策は抗ウィルス薬の効果が期待される。


・急性期(肺炎期)では免疫能を高める免疫グロブリンの投与、血液凝固を抑える低分子ヘパリンが効果的。


・重症期では低酸素血症を改善し、各臓器の機能を回復させる治療として人工呼吸器、膜型人工肺(ECMO)による治療が行われる。

(図2)

出典:Cao, W. et al. COVID-19: Towards understanding of pathogenesis. Cell Research 2020; 30: 367-369を一部改変


図2は治療を示す。

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19) は、コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染により引き起こされる全身の臓器の強い炎症で、これに伴い臓器の機能が失われていきます。


 最重症から回復する患者さんは次第に増えてきています。欧米では、回復期のリハビリテーションの態勢が整えられつつあります。重症から回復した患者さんがどのように社会復帰していき、快適な元の生活に戻っていくかのデータは不足しており、サポートの態勢は出来上がっていません。わが国でも回復者は1万5,000人以上に達しています。精神的な落ち込みや診療面でのフォロアップの態勢を作り上げていく必要があります。



参考文献:

1.Cao, W. et al. COVID-19: Towards understanding of pathogenesis. Cell Research 2020; 30: 367-369. (28 April, 2020)

https://doi.org/10.1038/s41422-020-0327-4


※無断転載禁止


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