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No.94 新型コロナウィルス感染症はどのような機序で重症化するか


2020年8月12日

 新型コロナウィルス感染症 (Covid-19)の患者数は、全世界で1,950万人を超え、死亡者数は70万人以上に達しました(2020/08/09 現在)。猛威は、いつ、どのような形で終息するか、予想ができない状態になっています。

科学雑誌、サイエンス誌が、どのような機序で発症するかを詳しく解説しています。同時にどこが、まだ解明されていないかについても述べています。難解な専門用語が出てきますが、全体のアウトラインを知って頂く、という目的で紹介します。

著者らは、新型コロナウィルスが細胞にどのように感染するかの機序を知ってもらい、さらに重症化させないような治療法の工夫、最終的にはこれによって死亡率を低下させる治療を開発することが解説の目的であると、述べています。




Q. 7種類あるコロナウィルスとは?


・新型コロナウィルスの正式名称は、SARS-Cov-2である。


・ヒトに感染するコロナウィルスは、7種類が知られている。そのうちの3種は病原性が高く、他方、4種は毒性が低く、感染してもカゼ程度の症状で終わる。SARS-Cov-2は前者である。



Q. 細胞が持つACE2を利用して感染する細胞内に入り込む。


・SARS-Cov-2は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を持つ細胞を選択して細胞内に入りこむ。


ACE2を利用して生体の細胞に最初に結合するコロナウィルス3種のうちの1つが

2003年に流行し問題となったSARS(サーズ)-Covである。


・ACE2は、レニン-アンギオテンシン・システム(RAS)と呼ばれる代謝経路に深く関係する。


・ACEは肺の血管内皮細胞で高い発現を呈している。


・RASは、血管収縮、抗炎症作用、抗線維化作用、利尿作用など生体の維持に深く関わっている。


・RASは、腎臓、心臓、血管の生理機能の調節に重要な役割を果たしている。その活性化は、高血圧、心不全、腎疾患を含む多くの病態に関係している。すなわち、ACE2は、これらの病気を持つ人に深く関わっており、またCovid-19のハイリスク・グループとなっている。




Q. 肺炎を起こす機序は?


・発症後、3~5日以内に胸部CTでスリガラス陰影が出現する。これは、症状がある場合では約90%で認められる。


・スリガラス陰影はII型肺胞上皮細胞がSARS-Cov-2に感染した状態とほぼ一致している。陰影は、この細胞を取り巻く構造の炎症と考えられるが、このような初期病変はほとんどの患者で回復する。


・実験的には、感染、4日後のカニクイザルでの組織病理学は、肺胞の浮腫、⽑細⾎管からの血液成分の漏出、炎症性細胞の浸潤、間質の肥厚、および細胞融合(コロナウイルス感染の特徴)を伴うウイルス性肺炎を示し、肺胞上皮細胞ではウイルスのスパイク発現が認められる。


上気道の細胞における初期の感染では無症状のことが多いが、この段階でも他に感染させる可能性がある


Q. 重症となる機序は?


・COVID-19肺炎患者の約80%は、特定の治療なしで回復する。


・肺炎を起こした患者の一部では、正常な肺胞上皮細胞-血管内皮細胞を構築しているバリア構造の破壊、および多臓器病変を伴う重篤な疾患に進行する。


・患者の約20%は症状が発症した7〜10日後に、しばしば急速に悪化する。


・これは、発熱、低酸素症、リンパ球減少、種々の炎症マーカーの上昇(C反応性タンパク質(CRP)、インターロイキン-1(IL-1)、およびIL-6)、血液の凝固障害、が関与しておりさらに心血管病変の発症を来すことによる。


重症者の約25%は人工呼吸器の装着を必要し、死亡率が高くなる(50〜80%)。


Q. 悪化で不明な点は?


・悪化は、SARS-Cov-2に対する抗体、またはT細胞の免疫システムの関与を示唆しているがその詳細は不明。


・免疫異常による炎症としての多くの特徴がある。その問題点の一つとして、血管の内皮細胞の損傷は、補体の活性化、抗体に対する依存性が増強、サイトカイン放出に伴う免疫が関与する組織の損傷に起因する可能性があるがこの詳細は不明。


・重症化する明白な原因は、SARS-Cov-2自体の特性にあり、これが免疫異常を起こすがその機序は不明である。


・肺の上皮細胞と血管内皮細胞により正常な肺胞の構造が成り立っているがそのバリアの破壊が起こり、さらに感染を広範に広げていく。その結果として、血管の内皮細胞の損傷とウイルスの感染の拡大を引き起こす。


・ウイルス量が疾患の重症度と相関している可能性がある。大量のウィルスがより重症の肺病変を起こす。重症化すれば、ウィルスのRNAが陽性のままで長く経過する。この期間は他者への感染のリスクとなる。


・重篤な疾患のある患者の肺でアクティブなウイルス複製がどれほど長く持続するか、血管の内皮細胞などでACE2が発現する肺以外の部位でウイルスの複製がどれだけ頻繁に発生するかが不明である。

感染後、重症化していく機序を示したのが以下の模式図である。


図:Matheson, NJ. et al. How does SARS-CoV-2 cause COVID-19? Science 2020; 369(6503); 510-511. より一部改変



Q. 予防の戦略は?


・感染力は症状の発症前にピークに達する。したがって感染の可能性がある場合には症状が出る前の隔離が必要であるが実際にはこの点の対策が難しい。


・発症前であっても、接触の追跡と検査により重症化する危険性のあるこれらの「リスクのある」患者を特定することが大切である。


・逆に、患者が重度の肺損傷を起こし入院するまで候補の抗ウイルス治療を遅らせるのは遅すぎる場合があり、この段階では免疫調節薬の併用が必要になる可能性がある。


・ワクチン候補は主に中和抗体を誘発することを目的としており、ウィルスのスパイクがACE2に結合するのを防ぐ作用がある。


・抗ウイルス薬を使用して、RNA依存性RNAポリメラーゼなどのウイルス酵素を標的とすることもできる可能性がある。インフルエンザなどの他の感染症の経験では、抗ウイルス薬による治療が感染後のできるだけ早い時期に投与された場合に最も効果的である。



 著者らは、どのように発症するかを、理解することが予防につながり、死亡率を低下させる戦略につながると述べています。

しかし、PCR検査を症状がある人たちに行うという戦略は、陽性が判明した時点ですでに他者に感染させている可能性があります。

症状を目安に予防戦略を立てることが難しいとすれば、全ての人たちが、患者になりうる可能性があるという前提で対策を立てる必要があります。3密を避ける、手洗い、うがいの励行が予防の原点であることには変わりはありません。




参考文献:

1.Matheson, NJ. et al. How does SARS-CoV-2 cause COVID-19? Science 2020; 369(6503); 510-511.

DOI:10.1126/science.abc6156


※無断転載禁止

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