• 木田 厚瑞 医師

No.119 フレイルを起こすCOPD


2020年11月17日


 高齢になって自分のことが自分でできなくなる、寝たきりになる。私は高齢者の方をたくさん診ていますが、どの人もそのような状態になるのが一番、怖いといいます。

 「フレイル」は、英語の「Frailty」が語源となっている和製英語です。「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。多くは、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢患者が多いCOPD(慢性閉塞性肺疾患)では、特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。高齢者が増えている現在、フレイルに早く気付き、正しく介入(治療や予防)することが大切です。

 ここでは、最近の論文を参考に、老化の特徴、肺の老化、高齢者に多いCOPD, その治療としての呼吸リハビリテーション、それを中断させる要因、解決策、の順に話を進めていきます[1,2]。




Q.老化の特徴は何か?


・若いころと比べ生理学的な完全性が失われること。すなわち、若いころにはできたことが高齢になりできなくなること。

 

・身体を一定に保つ恒常性が低下すること。


・身体の各組織が進行性に変性していくこと。しかし、各臓器の変化の起こり方は必ずしも一定ではない。


・能力の低下で環境の変化についていけなくなること。特に新しい環境に慣れるのに時間がかかる。




Q.肺に起こる加齢変化とは何か?


・加齢とともに肺機能は健常者でもゆっくり低下する。しかし、20歳と80歳では後者では低下しているが80歳としての健常な生活は可能である。


・さらに加齢とともに胸壁の弾力性が失われるがこれも肺機能の低下の原因となる。胸壁は若いころのようなしなやかさが失われていく(胸壁コンプライアンスの低下)。


・肺は呼気―吸気で収縮、拡張をくり返しているが弾力性が失われ、ゴム風船のように伸縮ができたものが呼気の際に紙風船のように収縮できなくなる。


・高齢者で特に女性では肺胞は丸いブドウの実のような形は押しつぶされ扁平な形となる。その結果、肺胞の表面積は減少し、酸素の取り入れの効率が低下する。


・肺を動かすに必要な横隔膜などの筋力が低下する。




Q.COPDは高齢者に多い?


・COPDは、圧倒的に高齢者に多い病気である。米国で1万人のCOPD患者の内訳を調べたデータでは、45歳未満は約200人であったが、45歳以上では1,200例、65歳~74歳が大多数を占めている[1]。




Q.フレイルを伴う高齢者COPDの特徴は?


・COPDは肺の老化が加速した状態と考えられる。


・多発性疾患が併存する。COPDの60%が2つ以上の病気を合わせ持っている。頻度が高いものには循環器疾患、骨粗しょう症、肺がんなどがある。


・COPDの人は無い人で同世代と比較すると2倍の確立でフレイルを起こす可能性がある。

 フレイルは合併症と考えられる。  


・フレイルは予備能力の低下と外界のストレスに対する抵抗性の低下を特徴とする多次元症候群である。


・フレイルの特徴は身体の強度と持久力および生理学的機能が低下することである。COPDの19%にフレイルがあり、さらに56%がその予備軍である。


・フレイルを伴うCOPDは、死亡率が高くなり、再入院が多くなる。


・身体機能の低下、健康状態、日常のQOLの悪化があり不安、欝症状が増加する。




Q.COPDのフレイルを予防、治療するには?


 英国でCOPDの治療として呼吸リハビリテーションを進めている専門家グループによる共同研究の報告[1]。


研究の目的フレイルを伴うCOPDの患者では呼吸リハビリテーションが奨められるが一定のコースを修了できるまで継続できる人は少ない。

実際に外来通院でリハビリテーションを開始するために紹介されてきた患者がどのように受け止めているかについての研究は乏しい。

そこで、フレイルとなっているCOPDの人たちが呼吸リハビリテーションをどのように考え、受け入れ、継続あるいは中止となっていったか、継続を阻害する因子は何かを明らかにする。


研究の方法ロンドンにある2つの病院で研究目的を理解し、協力してくれるフレイルを伴うCOPDの患者49人を公募。フレイルかどうかを厳密に検査し、研究目的に合致する19人がインタービュを自宅でうけた。平均78歳(58歳―88歳)。


研究結果19人のうち9人は予定のリハビリ・コースを修了できず。5人は途中で脱落。2人は体調悪化でリハビリを中止。3人とは連絡が取れなくなった。


・次の問題点が判明した。

呼吸リハビリテーション継続を阻害する多様な問題点があることが判明した。それらは機能的な能力の低下、医療者との関係、自分の自信の喪失など次元の異なる問題が含まれている。

多くの場合は、息切れが続き次第に動けなくなることであったが、その他には、継続しようという意欲の低下や、関節痛など身体の痛み、あるいは喉に関連した症状などCOPDと直接関係するものではない理由があった。

記憶力の低下、認知力の低下、不安および体力低下、身体バランスの低下という理由もあった。


・自分自身が独立して生活すること、周囲の支援とのバランスを保つための緊張感がありその中で自分自身がリハビリテーションに継続できるかどうか予測できない,また混乱が起こると克服できない。


・リハビリテーションの必要性と利用が可能なサポート体制が必ずしも合致していない。


・予測できない複数の混乱状態が自分の周囲におこり、翻弄されてしまう。


・患者はリハビリテーションをできれば続けたいという希望は強いがそこの施設まで通うことが難しいこと、経済的な負担など解決できる範囲を超えた問題があり、その結果、意欲が低下し、結局、脱落していく。


・整形疾患や循環器疾患など併存する病気の治療がうまくいかず脱落することもある。


・解決策として広く患者全体を診るという目をもつ老年医学の専門家を入れ、フレイルの要因で治療可能な部分を抽出してそこだけ解決するか、多種の服薬がある場合にはその整理、積極的な栄養指導を入れる、あるいは運動療法の代わりに作業療法を組み込むこと、在宅リハビリテーションも解決策である。


結論フレイルを伴うCOPDでは多次元の問題点が重なりあうことが多い。意欲があっても健康状態が変動し、予測できないため追加のサポートと柔軟な対応策が必要となる。




 フレイルを伴うCOPDの治療は、この論文が示しているように薬の処方だけでは決して効果を挙げることはできません。重症COPDでは在宅酸素療法を必要とすることが多くなりますがフレイルを予防し、治療する体制は決してうまくいっているとはいえません。ここで紹介した論文に書いてある重症COPDの患者さんに必要な呼吸リハビリテーションの体制は、経験が豊富な著者らのグループでも困惑している状況は極めて納得できます。私たちが診ている患者さんも同じような問題を抱えているからです。

COPDでは新薬が次々に上市されています。新しい薬が最大の効果を挙げるようにするためにはキメ細かな治療方針を個別に作り上げる必要性を感じています。




参考文献:


1. Brighton LJ. et al. Experiences of pulmonary rehabilitation in people living with chronic obstructive pulmonary disease and frailty. A qualitative interview study.

Ann Am Thorac Soc 2020;17: 1213-1221.


2. MacNee W. Is chronic obstructive pulmonary disease an accelerated aging disease?

Ann Am Thorac Soc 2016; 13 Supplement 5: S429-S437.


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