2021年1月18日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の抑制策は、3密を避けるという日常行動の制限から、病気を引き起こす重症急性呼吸器症候群コロナウィルス2(SARS-CoV-2)の感染を抑制するワクチンによる予防策に急速に移りつつあります。
最近、New England Journal of Medicineがワクチンの安全性について総説を掲載していますので紹介します。
Q.ワクチンの副反応は?
・米国、ファイザー社(Pfizer-BioNTech社)、モデルナ社によるmRNAワクチンの開発は、サクセス・ストーリーとして評価されている。mRNAワクチンとしての最初の製品であり、短期間に完成された。従って、副反応やアレルギー反応の発生機序についての詳細は不明である。
・進行中の第3相臨床試験では、注射部位の痛み、発赤、腫れなどの軽度の副反応はプラセボよりもワクチンの方の頻度が高かった。
・また、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛や関節痛などの全身反応もワクチンの頻度が高く、接種後、24~48時間に発生した。
・先の2社のワクチンの第1~第3相臨床試験では、アレルギー反応の既往がある人は全て治験からは除外されていた。
・英国、医薬品医療製品規制庁(MHRA)は、ファイザー社のワクチンの緊急使用を承認した最初の機関であるが、2020年12月8日、医療従事者と高齢者を対象として実施したワクチン接種開始後、24時間以内の早期に40歳女性、49歳女性のワクチン接種後、アナフィラキシーショック疑いを報告した。
・米国、食品医薬品局(FDA)は、12月11日、ファイザー社の緊急使用許可(EUA)を発行し、医療従事者の予防接種を12月14日に開始した。既知のアレルギ―反応を有しない32歳、女性のアナフィラキシーショック例を報告した。これ以降、医療従事者における同様な副反応の例が報告されている。
・他方、モデルナ社製のEUAは、12月18日に発行されたが、アナフィラキシー反応が少数例報告されているが厳密な因果関係は不明。
➡これまでに使用されてきたワクチンでは副反応の発生率は100万分の1とされてきたが、2社のアナフィラキシーの発生率は約10万分の1と推定されている。ただし、治験では可能性が疑われる人は除外されていた。
・英国は、ファイザー社のワクチン接種を一時、停止。米国、疾病管理センター(CDC)は、2社のワクチン接種の1回目および2回目の接種前の問診を強化し、重度あるいはアナフィラキシーショックの既往のある人では除外するよう指示した。
・アナフィラキシーショックは、ワクチン製造過程で賦形薬として使用されているポリエチレングリコール(PEG)およびポリソルベートなどのPEG誘導体を含むワクチンに関連して発生するアレルギー反応と推定されている。
Q.ワクチン接種によるアナフィラキシー反応とは何か?
・急速に発症する深刻な身体の多系統反応である。
・窒息、心血管虚脱、その他の合併症による死亡につながる可能性がある。
・迅速なエピネフリンによる治療が必要である。
・アナフィラキシー反応の原因は、IgEの抗原結合と架橋による肥満細胞の活性化であると考えられているがIgEを介さない肥満細胞の活性化、あるいは補体の活性化のリスクがも推定されている。両方ともエピネフリンにより改善、緩和されるという点では共通している。ただし、前者では、前歴がある場合に起こるが後者の場合は初回でも起こる危険性がある。
・症状の発現は、ヒスタミン、プロテアーゼ、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどのメディエーターの放出に対する組織の反応に起因し、通常、紅潮、蕁麻疹、喉頭浮腫、喘鳴、悪心、嘔吐、頻脈、低血圧、心血管虚脱などがある。
・以前の抗原への曝露によってIgE感作となる。
・治療はエピネフリン投与で、先の英国、米国で発生したワクチン接種によるアナフィラキシーは、いずれもこれにより救命されている。
・アナフィラキシー反応を100%予見する検査方法はない。
Q.ワクチン製造過程における賦形薬PEGの役割は?
・ファイザー社、モデルナ社により開発されたmRNAワクチンは、脂質ベースのナノ粒子担体システムを使用して、mRNAの急速な酵素分解を防ぎ、体内での送達を容易にしている。さらに親水性層を作り出し、半減期を延長するPEG2000脂質コンジュゲートにより安定化させている。
・PEG成分を含む注射薬には、酢酸メチルプレドニゾロンや注射可能なメドロキシプロゲステロンなどPEG3350を含む場合にアナフィラキシー反応を起こすリスクがある。
・現在、治験中の他社のワクチン製剤にも賦形薬は添加されている(下記、参照)。
Q.COVID-19に対するワクチンの効果の疑問点は?
・ワクチン接種により、社会生活の中での感染がどの程度、確実に抑え込むことができるかは不明。
・ワクチンによる免疫作用はどのくらいの期間、継続するかは不明。
・多くの人に接種した場合に、集団感染を抑え込むことができるかは不明。
・ワクチン接種でアナフィラキシー反応を起こすことがあるがどの成分によるかが確定されていない。
・副反応が少ないワクチン開発は可能か?
Q.現在、米国で治験が進行しているワクチンは?
・現在、接種が開始されている2社、ファイザー社、モデルナ社以外に下記の4社のワクチンが臨床治験に入っている。
・アストラゼネカ社。英国では使用開始。
・ヤンセン社。
・ノババックス社。
・サノフィ、GSK社。
Q.使用中および治験中の各社のワクチンの違いは?
・ワクチンの基本設計および安定性を保つ賦形薬としての添加物質の違いは以下の通りである。
・接種回数はいずれも2回。
・ファイザー社:RNA base, PEG
・モデルナ社:RNA base, PEG
・アストラゼネカ社:Adenovirus vector, polysorbate80
・ヤンセン社:Adenovirus vector, polysorbate80
・ノババックス社:protein subunit, polysorbate80
・サノフィ、GSK社:protein subunit, polysorbate20
Q.ワクチンの効果発現の機序と問題点は?
・ワクチン接種による抗体産生の機序と、接種に関わる問題点を図に示した。
出典:Castells MC et al. Maintaining Safety with SARS-CoV-2 Vaccines. New Eng J Med, December 30, 2020,DOI: 10.1056/NEJMra2035343より一部改変
重症急性呼吸器症候群コロナウィルス2(SARS-CoV-2)の感染を抑制するにはワクチンが最も効果的であり、その開発が急がれてきました。
新薬が臨床現場で使用されるようになるまでには、臨床治験が重ねられ、それにもとづいて安全性が確認されます。そのため、開発から実際の使用までに長いものでは10年近くの年月がかかることがある、とも言われています。
すでにパンデミックに近い状態で緊急的に開発、使用されるようになったワクチンには、データ不足は避けられません。判明しているデータをできるだけ開示し、ワクチン接種のリスクと効果を、納得した上で、自分で決めるという点は、これまでのインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの場合と共通しています。
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