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No.148 新型コロナウィルス感染症:診断検査の問題点


2021年3月3日


 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は, SARS-CoV-2と呼ばれるウィルスによって引き起こされる感染症です。ウィルス粒子(ビリオン)のサイズは、50-200nm(ナノメーター)。

他方、肺炎球菌のような細菌の大きさは0.2-2μm。(1nm=0.000001mm, 1μm=0.001mm)。


通常の肺炎は、症状、経過、診察による身体所見、胸部画像検査、血液検査などを行ったあと、抗生物質を選択する際に、どのような細菌が炎症を起こしているのかが問題となります。ところが、COVID-19の診断は、最初に感染ウィルスを証明するところから始まる点が、特徴的です。


「生命は通常、親から子、孫と垂直に遺伝子を伝えていくがウィルスは水平に遺伝情報を渡し、しかも種を超えて伝えていく」、科学評論家の福岡伸一さんは、感染ウィルスの伝わり方を解説しています(朝日新聞、令和3年2月28日)。

 水平に伝わることが感染の拡がりですが、これを知るための手法も細菌とは異なり、ウィルスの一部を検出するか、感染が起こったという印として体内で生成される抗体の有無でいわば間接的にみることになります。


 その検査方法の一つ、PCR検査の実施は、政治的な問題ともなりました。最近のNature で科学評論家、Guglielmiは、COVID-19で実施される検査法についてのさまざまな問題点を専門的に指摘しています。

 その中には、PCR検査は重要であるが、どのくらいの精度で実施されるかが問題であり、間違って判定して陰性の判断が出た場合、かえって感染を広げてしまうのではないか、という議論もあることを紹介しています。また、抗原検査は、精度と誰がその判定を行うかで結果に差がでることが問題点です。

 ここでは、他の診断検査をふくめ、どのような問題があるかについての議論を紹介します[1]。




Q.3種の検査方法とは?


PCR法、抗原検査、抗体検査の方法がある。




Q.英国での検査の問題点?


簡単にすぐ結果が出る抗原検査の導入が議論された。


・2021年初頭、英国ではCOVID-19が急増したため、安価な(信頼度の低い)抗原検査を数百万検体で実施した。これらは30分以内に結果が得られるという利点はあるがSARS-CoV-2のウィルス量が低い人では見落としが多くなる。無症状の感染者を見落とす危険がある。


・その導入には、英国内部でも大きな議論があった。バーミンガム大学グループのJac Dinnesらは、数百万人単位で実施したときに見落としが多くなること、陰性の結果に誤って安心して行動する結果、さらに感染を拡大させる危険性を主張した。


・他方、これらの意見にはハーバード大学グループのMichael Minaは、実施しないのは無責任すぎるという理由で反論した。




Q.PCR検査法の問題点は?


SARS-CoV-2のウィルスRNAを検出する。

 鼻腔、咽頭粘膜からの検体より➡RNAを抽出し、対応するDNAを作成➡

PCRにより増幅させPCR機器で測定➡LAMP, CRISPR,その他のものを増幅させるリスクあり

 ➡ウィルス量の測定はSARS-CoV-2の量が少なくともDNAを測定している。

 ➡測定に時間がかかる。費用が高い。

 ➡非常に精度が高い。




Q.抗原検査とは?


・ウィルスの表面にある蛋白を検出する。


・鼻腔、咽頭粘膜のスワブ法


・採集サンプルに少量の液体を加える➡検査セットのカートリッジに載せる

 ➡POCT (Point-of-care)として実施される。


 注)POCTとは、患者の傍らで必ずしも専門的な検査技師ではない医療従事者が行う検査であり、迅速に結果を知ることができる。


・ウィルスが高濃度で存在するかどうかを知ることができる。検査担当者が感染するリスクが高い。


・結果は数分間で出る。


・ウィルス量が少ないときには感染を見落とす。




Q.抗体検査(血清学的検査)とは?


・免疫反応によりウィルスに対する免疫学的物質を検出する。


・血液を用いる。


・血液を検査用のカートリッジに載せ判定する。

➡POCT (Point-of-care)として実施される。


・感染の急性期の検出ができない。


・数分間でできる。安価。


・検査キットの製品によっては特殊な検出法の場合がある。




Q.感染後のウィルス量の変化は?


・SARS-CoV-2の感染後、身体におけるウィルス量は急速に増加し、経過とともに低下する。


・PCR検査はウィルスの少量遺伝性物質を検出する方法なので感染が停止(stop)した状態でも陽性になりうる。


・抗原検査は、ウィルス由来の蛋白質を検出する。そのため感染力のもっとも強い段階で陽性となる。


・問題点➡ウィルス量が減少し、感染の危険がないというレベルがどこに相当するか、が不明である。




Q.PCR増幅サイクルの問題点は?


・PCR検査における検体の増幅(倍増)回数はCt値と呼ばれている。


ウィルス量が少なければCt値を増やしていかなければ検出できない。

➡Ct値が25以下の場合には生存ウィルスの量は多く、感染する可能性がある。

逆に、上昇すると迅速検査では感染の見落としが起こる可能性がある。

➡英国政府が米国Innova Medical社製の迅速診断キットを11億米ドル、支払い購入したが、Ct値が25~28のレベルでは感度は88%に低下、28~31では76%に低下した。




Q.迅速テストの比較は?


・抗原検査は迅速に検査結果が出るので便利であるが、製品による検出感度に差がある。




Q.抗原検査方法の問題点は?


・スイス、ジュネーブにある非営利団体であるFoundation for Innovative New Diagnostics(FIND)では数百のCOVID-19アッセイを世界保健機構(WHO)と協力して精度の高いPCR法による測定値と比較、再評価した。


・結論的には、バラつきが大きく、責任者のCatharina Boehmeは、「診断における西部開拓時代である」というコメントを出している。信頼性に高度のバラつきがあるということである。




Q.誰が検査を行ったときが正確か?


・抗原をチェックする迅速検査では、検体採集を行う人が誰かによって精度が異なる。


・研究室できちんとトレーニングを受けた研究者➡訓練を受けた医療者➡自己訓練の順に測定の精度が低下する。


・米国では、食品衛生局が13の抗原検査の緊急使用許可を与えているが、症状のない人に使用できるのは1種(ElumeCOVID-19 Home Test)のみであった。




 COVID-19の拡がりを完全に抑え込むには、無症状者をできるだけ早く診断し、隔離することですが、抗原による診断方法は、製品により差が大きいということです。

英国は、この簡便な診断法を導入して対策を立てましたが結果的には莫大な患者数となりました(令和3年2月28日現在、感染者数は、約417万人、死亡者12万人)。無症状者の見落としが多くなったせいか、変異株まで問題となりました。結果的には、バーミンガム大学グループが危険性を主張していた通りとなりました。科学の信頼度と政治的判断の折り合いの付け方が問題となった例だと思われます。




参考文献:


1. Guglielmi G. Rapid coronavirus tests: a guide for the perplexed. Nature 2021, February 09. https://www.nature.com/articles/d41586-021-00332-4


※無断転載禁止

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