2021年3月5日
家庭用の消毒薬を誤って使用すると喘息発作を起こす危険性が指摘されています。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、消毒薬の使用が大幅に増加しており、その弊害として喘息の悪化が増えているという研究論文が発表されました[1]。
米国では物体の表面を消毒する薬は、「農薬」とみなされ米国環境保護庁(EPA)の管理下にあります。詐欺まがいの消毒剤製品が多数、出回っている現状からウォルマート、アマゾンなどの小売店業者に安全性が確認されない消毒薬などの販売禁止に積極的に協力するよう依頼をしています[2]。
デンマークの研究者たちは、COVID-19に関連して喘息だけではなく呼吸器系全体に悪影響を及ぼす消毒剤やスプレー製剤を多数、検討してその危険性を指摘しています[3]。
EPAでは、消毒薬の正しい使用法についても述べており[2]、わが国でも厚労省のホームページでは、同様の危険性を警告しています(https://www.mhlw.go.jp/index.html)。
Q.どのような研究を実施したか?
・米国で実施。2020年5月に実施したオンライン調査。18歳以上の成人で喘息の治療を受けている人を対象とした。
・物体の表面を消毒するために、消毒用ぬぐい取り布、消毒用スプレー、漂白剤、消毒用水溶液、その他の、消毒液を使用しているか?使用頻度は週に5回以上か、以下か?
・喘息は、管理が十分にされていない人を含めた。
・年齢、受けた教育程度、性別、人種差、居住地域、持ち家かどうか、を調査した。
Q.調査の結果は?
・対象は、795人。平均年齢43.9歳、女性が81%、白人が83%、4年以上の大学卒が71%。都市またはその郊外など環境の良い地域の居住者62%、自宅所有が54%
➡約40%が過去4週間にコントロール困難な喘息を経験していた。
・COVID-19のパンデミック以降に清潔習慣の変化あり➡95%以上で手洗い習慣が増加。89%はアルコール含有の消毒薬の使用が増加。拭きとり型消毒液使用は流行前と比べ138%に増加、消毒剤スプレー使用は121%、漂白剤、その水溶液使用は155%、その他の消毒液使用は89%増加。
・週5回以上の家庭内での消毒薬の使用は、教育水準が低い人、小さな街や農村地域の居住者、白人以外、家族や友人と一緒に住んでいる人で高かった。
・教育水準が低い、非白人、または小都市や都市部以外の地域の居住者では消毒薬の使用頻度が高い。拭きとり型消毒薬やその他の消毒液の使用の増加と喘息コントロール不良は有意に関連していた。
Q.結論は?
・医療者は、喘息のある人、特に漂白剤や、その他の消毒剤など、既知の喘息誘発薬の使用の影響に注意をはらうことが必要である。
Q.米国EPAによる警告事項は?
・環境中にある物体表⾯の細菌またはウイルスを殺すまたは撃退すると主張する製品は農薬と見なされ、配布または販売する前にEPAによって登録される必要がある。
・消毒薬は次の順序で行うことを推奨する。
Step1:EPAが認可している物質か?(注。許可を得た製品には必ずその表示がある)
Step2:使用上の注意文書を丁寧に読むこと。
Step3:物体の表面が汚れている場合にはまず、水、石鹸水で汚れを取る。これが基本原則である。
Step4:消毒液で拭いたあと、乾くまでの時間を待つ。
Step5:消毒液使用ではゴム手袋をする。手袋を脱いだあと手洗いを丁寧に行う。
Step6:消毒液は使用後、強く栓をして液が漏れ出ないようにしておく。
Q.消毒薬スプレー製剤の危険性は?
・最近、デンマークの研究者グループは、COVID-19の流行を受けて身近なところに危険性の高い消毒液、スプレーなどの薬品が増加していることを指摘し、呼吸器系に傷害を与える可能性があり、注意を喚起している[3]。
・化学物質は、酸、塩基、消毒剤、香料、有機溶剤、噴射剤、および界面活性剤に分けられた。さらに、スプレー製品に含まれる洗浄剤および消毒剤の中には危険性の高いものがある。
・呼吸器への影響(例:喘息)に関して懸念される化学物質は、強酸および強塩基(アンモニアおよび次亜塩素酸塩を含む)および第4級アンモニウム化合物(QAC)などの腐食性化学物質、ホルムアルデヒド、活性酸素種、洗浄剤と混在するオゾン発生剤。スプレー缶、防水スプレー。
アンモニア、漂白剤(塩素、次亜塩素酸塩)、混合生成物からの反応生成物(例:次亜塩素酸塩と酸またはアンモニア)、洗剤、消毒剤(QAC)、ガラスクリーナー、石灰スケール除去剤(例:酸)、洗浄スプレー、および芳香剤。
・スプレー洗浄および消毒製品には、一般に、主に溶剤および芳香剤、防腐剤、消毒剤、および界面活性剤として使用される揮発性有機化合物(VOC)を含む化学物質の複雑な混合物が含まれている。
COVID-19のパンデミックによりさまざまな消毒薬をそれも頻回に使っている人たちを目にするようになりました。中には、呼吸器系に傷害を与えるものがあります。事実、ここに紹介した喘息症状の悪化だけでなく、COVID-19が治癒した後、咳や息切れを訴える患者さんを診るようになりました。中には、胸部CTで、スリガラス陰影が残っている患者さんもいます。歩行テストで、血中酸素濃度が大きく低下する人もいます。
COVID-19の後遺症の可能性と中には、薬物やカビなどによる急性過敏性肺臓炎(コラムNo.79)が疑われる患者さんがいます。加湿器肺炎もこの中に含まれます。COVID-19も肺に傷害を与えますが、その予防のために消毒薬を誤って使用して肺に傷害を与えることがあってはなりません。
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