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No.79 過敏性肺炎とは何か

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 2020年6月29日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年3月20日


2020年6月29日

 過敏性肺炎(HP)は、発熱や咳などカゼによく似た症状で始まり、急性では、半日もたたないうちに症状が急速に悪化していく厄介な病気です。胸部レントゲン写真では両側の肺に肺炎を疑わせる影が出現してきます。このような経過は、新型コロナウィルス感染症によく似た点があり、紛らわしいという点では鑑別が重要な病気です[1]。

 過敏性肺炎は、過去30年間の統計で増加傾向にあることが最近、報告されました[2]。ここでは、過敏性肺炎の概略を説明し、増加の問題点を考察します。




Q. どのようにして発症するか?


・多種の抗原を吸入することにより肺内の広い範囲にわたり免疫学的な異常を起こし、発症する。


・臨床症状は、曝露の頻度、期間、強度、および疾患の期間に応じて、急性、慢性あるいは亜急性に分類されてきた。



Q. 急性過敏性肺炎の特徴は?

・肺炎、ウィルス性肺炎と混同されることがある。特に、新型コロナウィルス感染症

・抗生物質は効果がみられないが初期に肺炎と誤診され投与を受けることがある。

・発熱、悪寒、倦怠感、吐き気、咳、胸部圧迫感、喘鳴のない呼吸困難の突然の発症(曝露後4〜6時間)が特徴。

・発症原因となる刺激性の抗原への暴露からの除去により、症状は12時間から数日以内に鎮まり、臨床およびX線所見は数週間以内に改善する。再暴露により再発することがある。早期発見、早期治療が重要。

・頻呼吸と背部を聴診すると特有のクラックル音が著明。喘鳴はほとんどなし。




Q. 慢性過敏性肺炎の特徴は?


・治りにくい咳、呼吸困難、疲労感、体重減少などの症状がある。


・通常、急性エピソードの繰り返しが多いがその病歴がない場合がある。


・進行すると指先の爪の根元が盛り上がるバチ状指が見られることがある。


・聴診では背部で特徴的なクラックル音が聴かれる。



Q. 過敏性肺炎が疑われる病歴とは?


夏型過敏性肺炎は、わが国の過敏性肺炎の74%を占めていた。トリコスポロン属のカビによって引き起こされる。高温多湿の夏は症例数が増加する傾向にあるが、1980年以降は全体的に減少傾向。同じ時期に、木造住宅の比率は低下している。発症は8月に多く、入院は9月と10月に増加。50〜59歳の女性の発症が多い


・鳥愛好家(鳩飼育病とも呼ばれる)鳥や羽毛の寝具、使用者。


・温水浴槽、加湿器やエアコンなど。


・農業従事者 。キノコ栽培者。農業人口の0.4〜7%に相当。地域、気候、農業習慣によって異なる。湿潤地帯では危険にさらされている農家は約9%。


・製材、建設業、樹皮加工作業。


・プラスチック、塗料/エポキシ、電子産業、繊維労働者



Q. 過敏性肺炎は年々増加している。


・米国における死因統計[2]では1999年➡2016年で7.6%増加。


・1,904例の解析。224例で死亡原因となっていた。


・人種差がある、白人に多い,87%。60%が男性。平均70歳。



 わが国ではかつては夏型過敏性肺炎が代表でした。最近では生活習慣、就業内容の多様化で原因を決めることは難しくなっています。中には、睡眠時無呼吸症候群でCPAP治療中の人で機器の洗浄が不十分で内部にカビが生え、急性過敏性肺炎が発症したという報告があります[3]。

 詳細な病歴に加え胸部CT像や精密な肺機能検査が診断の参考となります[1]。慢性過敏性肺炎では他の間質性肺炎と同様、肺がんのリスクが高くなり注意です。

理由は不明ですが急性過敏性肺炎は、喫煙者に少ないことが報告されていますがいったん、発症すると同じ程度の重症度になります。

 通常は両側の肺に同じように病変が見られますが片側のみのことがあり、このような場合には予後が悪いと云われています[4]。


参考文献:

1.King, TE. et al. Hypersensitivity pneumonitis (extrinsic allergic alveolitis): Clinical manifestations and diagnosis – UpToDate, up dated on August 7, 2019.

2.Pe´ rez, EF. Et al. Increasing hypersensitivity pneumonitis–related mortality in the United States from 1988 to 2016

Am J Resp Crit Care Med 2019; 159:1284-1287.

Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.201807-1258LE on February 15, 2019.

3.B. Stephens B. et al. Chronic hypersensitivity pneumonitis: the pulmonary 'Mask-Erader'. Am J Respir Crit Care Med 2020;201:A1447

4. Okamoto, T.et al. Clinical characteristics in patients with asymmetric chronic hypersensitivity pneumonitis

Am J Respir Crit Care Med 2020;201:A1556


※無断転載禁止


 
 

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