2021年3月31日
新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による感染者数は、2021年3月28日現在、わが国では、46万人以上が感染、死亡者は、9,036人。他方、世界で突出して多いのが米国で3,016万人が感染、死亡者数は54万8,000人に達しています。
現在、世界中で180を超える研究機関と100の企業がワクチン開発の取り組みに関与しており、これまでワクチンの製造に使われてきた戦略のすべてがSARS-CoV-2に対して進められています[1]。
2020年12月、2つの大規模なプラセボ対照試験の結果により米国、食品医薬品局(FDA)は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の予防のための2種類のmRNAワクチンの緊急使用許可を出しました。
ここに至るワクチン開発の歴史は、主に米国の研究者たちの強力な牽引力により進められてきました。ここでは、その歴史と、SARS-CoV-2ワクチンの特性について述べた論文[1]を紹介します。
ワクチン開発の歴史を5段階に分けています。
Q.ワクチン開発はどのように進んできたか?
第1段階:
・英国のエドワード・ジェンナーが、動物ウィルス(牛痘)がヒトウィルス(天然痘)の感染から身を守ることを発見した(1796年)。病気の原因物質がウィルスであることが特定されたのは100年後であったがワクチン接種により感染症を予防できるという考え方が生まれた。これにより20世紀になっても3億人以上が犠牲となった天然痘を克服することができた。
・人間の病気を予防するために動物ウィルスを使用する黎明期のこの発見は、ウィルスの牛株に部分的に由来するロタウィルスワクチンとして現在まで続いている。
第2段階:
・ルイ・パスツールによる狂犬病ワクチンの開発(1885年)。
パスツールは、物理学的、化学的に不活化したウィルスを用いたワクチンを開発した。
第3段階:
・マックス・タイラーがマウスとニワトリの胚の連続継代により黄熱病ウィルスを弱毒化し、ウィルスを非ヒト細胞で増殖させ、これに遺伝子変化を導入して弱毒化に成功した。タイラーはこの発見により1951年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
・トーマス・フランシスによるインフルエンザ・ワクチンの開発(1940年代初頭)。
・ジョナス・ソークによるポリオワクチンの開発(1950年代半ば)。ソークはフランシスの研究室で訓練を受けていた。
・タイラーの弟子のアルバート・サビンによる弱毒化したポリオワクチンの製造(1960年代初頭)。
・はしか(1963年)、おたふく風邪(1963年)、風疹(1969年)、水痘(1995年)と新しいワクチン開発が続いた。
・フィリップ・プロヴォストらによるA型肝炎ワクチンの開発(1991年)。
第4段階:
・リチャード・マリガン、ポール・バーグが組み換えDNAの技術を開発。これにより酵母またはバクロウィルス発現システムを利用し、B型肝炎ウィルス(1986年)、ヒトパピローマウィルス(2006年)、インフルエンザウィルス(2013年)のワクチンが利用可能となった。
Q.最初のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発までは?
第5段階:
・2008年9月、米国、カリコー・カタリンらは、ヌクレオシドを利用し、mRNAを修飾する技術を開発した。これによりmRNAを使った遺伝子置換技術、さらにワクチン開発が可能となった。
・カリコー・カタリンは、ハンガリー生まれ(1955年~)の女性生化学者。主要研究は、RNAの免疫原性を抑制するヌクレオシド修飾プロセスの発見で、RNA媒介免疫活性化が代表的研究であり、mRNA研究の臨床応用への道を開いた。
・1985年、テンプル大学に招聘され渡米。アメリカ国内での非免疫ヌクレオシド変形RNAに関する特許を保有している。この研究によりmRNAの抗ウイルス応答が癌ワクチンの腫瘍予防に有効であることが明らかになり、2020年には、この技術がファイザーとバイオンテクが共同開発したCOVID-19ワクチンにも応用された。
現在使用されている多種のワクチンは、歴史的にみると製造方法が異なり、また新しい技術により進歩しています。ファイザー、バイオンテックが開発したCOVID-19ワクチンは、第5世代と呼ばれる新しい製品です。
私が診ている患者さんからしばしば安全性について質問されることがあります。短期間に開発されましたが臨床治験の結果は、詳細に公開されています。わが国には、ワクチン禍を経験したトラウマがありますが従来型のワクチンとは、作用機序が全く異なるものであり、同列に並べることはできないと思われます。
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