• 木田 厚瑞 医師

No.159 ポスト新型コロナウィルス感染症の医療


2021年4月8日


新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による急性感染症です。最も強い病変の中心は肺であり、最重症例では、呼吸窮迫症候群(ARDS)となり高度の低酸素血症に加え多臓器に重篤な障害を起こします。人工呼吸器やエクモによる高度の救命治療が必要となります(コラムNo.47, No.131, 参照)。


問題になるのは治癒後にも一部にみられる後遺症です。ここに紹介する論文[1]は、ハーバード大学らを中心とする23人から成るグループが基礎、臨床の信頼できる最新情報をまとめた総説です。引用論文は221編。文字通り米国の新型コロナウィルス感染症の研究を牽引している研究者がまとめたものであり、掲載誌は信頼性が極めて高いのが特徴です。

「急性COVID-19後遺症・症候群」(Post-acute COVID-19 syndrome)という新しい病名を提案しています。




Q.急性COVID-19後遺症・症候群の定義は?


・診断してから12週間を超えて症状、検査の異常値がある場合。


・COVID-19 は、通常、症状の発現から3週間まで続き、4週間以降は、複製能力のあるウィルス(SARS-CoV-2)は分離されないので感染力はない。



 

Q.亜急性または進行中のCOVID-19とは何か?


・急性COVID-19より4~12週間たっても症状や検査で異常がある。


図1 急性COVID-19後症候群


出典: Nalbandian, A. et al. Post-acute COVID-19 syndrome

Nature Medicine (2021) in press (2021, March 31)を一部改変




Q.急性COVID-19後遺症・症候群に見られる呼吸器系の変化?


・坂道などで呼吸困難がある。運動能力が低下した。パルスオキシメーターで測定した安静時の酸素飽和度が92%以下の低酸素血症などが主な症状、兆候である。


・肺機能検査では肺拡散能の低下がある。また、肺活量が減少するなど拘束性の換気障害がある。


・胸部CTでは、肺野にスリガラス陰影、間質性陰影の増強がみられる。


・肺病変が進行しているか、改善に向かっているかは、以下の検査項目で判断する。

➡ 個人持ちのパルスオキシメーターの値、6分間平地歩行テスト、肺機能検査、高感度の胸部CT。必要に応じ肺血管造影を併用した胸部CTを実施する。




Q.血液学的な異常とは?


・急性後COVID-19の5%以下に血栓塞栓症が認められる。


・新型コロナウィルスの感染により生じた高度の炎症状態がどのくらいの期間、継続するかのデータはない。


・血液検査で凝固能が高まっているかどうかはDダイマーが正常値の2倍以上の高値が持続しているときは経口薬で抗凝固薬の服薬が勧められる。




Q.心臓血管系の異常は?


・動悸、呼吸困難、胸部痛などが持続する場合に疑う。


・後遺症では、心筋の線維化、不整脈、頻脈、血圧の異常などが起る可能性がある。


・後遺症が疑われる場合には、ホルター心電図、心臓の超音波検査を実施する。




Q.精神、神経系の異常は?


・倦怠感、筋肉痛、頭痛、不眠、認知機能の異常などがありうる。


・不安、欝傾向、睡眠障害、PTSDが急性COVID-19後遺症・症候群の30-40%に生ずると報告されている。


・免疫学的な異常、炎症、微細毛細血管の血栓、治療に使用された薬物後遺症などの可能性がある。




Q.腎機能障害は?


・急性期に生じた急性腎機能障害が6ヶ月後でも改善しない例が報告されている。


・急性期に腎機能障害を起こした場合には、専門クリニックで早期からフォロアップした方が良い。




Q.内分泌系の障害は?


・感染後に糖尿病の診断を受けた場合には、視床下部―下垂体―副腎のルートに異常が生じた可能性がある。甲状腺機能亢進症の併発が起る可能性があるので検査が必要となることがある。




Q.胃腸系および肝障害は?


・鼻咽腔粘膜の擦過検査で陰性であっても糞便中には長期にウィルスが存在している可能性がある。


・COVID-19感染により腸内の細菌叢(マイクロビオーム)が変化した可能性がある。




Q.皮膚病変は?


・頭髪の脱毛が約20%に生ずる。




Q.小児にみられる多臓器炎症症候群(MIS-C)の可能性は?


・診断の基準は以下の通り:21歳以下で発熱、炎症マーカーの上昇、多臓器傷害、最近の新型コロナ感染症ウィルス感染があり、他の原因が除外できる場合。


・心血管系の傷害(冠動脈の動脈瘤)、神経学的異常が起る可能性がある(頭痛、脳症、てんかん、痙攣)。



 

COVID-19は、喫煙者ではかかりやすく、重症化しやすいことが知られています。私たちのクリニックにも急性COVID-19後遺症・症候群で受診している人たちがいます。軽症のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)が増悪した状態がなかなか改善せず、呼吸困難がこれまでより強くなった人たち、あるいは軽症の間質性肺炎で経過していた人たちが、悪化し、改善しない人たち。共通しているのは、6分間平地歩行テストや夜間の低酸素血症が著しく低下し、肺拡散能の低下が見られることが多いことです。肥満はCOVID-19のハイ・リスクとなることが知られていますが睡眠時無呼吸症候群では低酸素の程度が著しく強くなっている人たちがいます。

 

急性COVID-19後遺症・症候群は、複雑でありかつ多様です。きめ細かな治療方針を立てることの必要性を強く感じています。




参考文献:


1. Nalbandian, A. et al. Post-acute COVID-19 syndrome. Nature Medicine (2021) in press (2021, March 31)

https://doi.org/10.1038/s41591-021-01283-z


※無断転載禁止

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