2021年4月22日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は中国から流行が拡散し始めてからほぼ、1年半近くが経過しました。この間、この病気の臨床経過や機序がかなり判明し、更に、この情報により予防の公衆衛生対策、治療法が進み、わが国でもワクチンの接種が進んでいます。
いま、呼吸器の専門治療で議論となっているのは、COVID-19が重症の喘息発作を引き起こすのか、逆に悪化の要因とはならないのか。このテーマは多くの呼吸器診療医の共通の興味です。2020年暮れまでに全世界で約900の論文が発表されました。中には日本からの報告も2編あります。
ここに紹介する論文は、喘息を厳密に診断し、かつCOVID-19との関わりを科学的データに基づき検証した150論文を統計的に処理し、結論を出したものです。
Q.問題点は何か?
・COVID-19では無症状感染者から最重症例まで重症度の幅が広い。
・喘息は頻度の高い呼吸器疾患である。
・喘息があるとCOVID-19は重症化するか?
Q.喘息の問題点は?
・喘息は合併症の種類とその重症度でリスクが高くなる。
・これらの合併症には心血管疾患(心臓病)、肥満、悪性腫瘍、糖尿病がある。
・喘息の診断をどのような検査方法により、しかも厳密に行っているかどうかが問題。
・喘息は頻度が高く、慢性の気道炎症を特徴とする。全世界で3億3千万人と推定されている。
・米国では、入院を必要としたCOVID-19で若年者の合併症では、肥満、喘息、糖尿病が多かった。
Q.結論は?
・喘息があるとCOVID-19の重症化リスクを高めると推定されるが、COVID-19の診断リスク、入院リスク、重症化リスク、死亡率リスクを高めるという裏付けデータは得られなかった。
Q.今後、議論すべき問題点は?
・米国のデータではCOVID-19が判明した患者の中で喘息患者は11.0%であった。一般の人たちの喘息罹患は平均7.7%であるので43%多い。このデータでは喘息がCOVID-19にかかりやすいと推定されるが、ニューヨーク州および欧州ではこれを裏付けるデータはなかった。メキシコ、韓国、中国でも同様であった。
・逆に中等度の喘息ではCOVID-19の感染リスクは低かった。
・喘息があるからCOVID-19の重症度が高まるというデータはない。
Q.喘息の病態と関連する機序はあるか?
・新型コロナウィルスが細胞に付着する際に使うACE(Angiotensin converting enzyme)2受容体は、アトピー性喘息では少ないので感染がおこりにくのではないか。
・喘息でみられるアレルギ―反応が強いTh2-highと分類される炎症反応は、COVID-19で起こる炎症とは逆方向だという説がある。
・喘息の治療で用いる吸入ステロイド薬が感染リスクを低下させる可能性がある。
喘息の人はCOVID-19に対するハイリスクではないようです。ところが、同じような症状を特徴とするCOPD (慢性閉塞性肺疾患)では、感染リスク、悪化リスクが高いと報告されています(コラムNo.72 参照)。間質性肺炎でもリスクが高いと云う報告が散見されます。
喘息は、気道の慢性炎症を特徴としています。これに対し、COPDや間質性肺炎では肺胞レベルに広範に傷害が加わっていると考えられます。恐らく、この差がCOVID-19に対するリスクの差になっている可能性があります。
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