• 木田 厚瑞 医師

No.162 アデノウィルス・ベクターを利用している新型コロナウィルス・ワクチンの副反応


2021年4月26日


 ようやく、わが国でも新型コロナワクチン接種が進んできました。わが国で接種が始まっているワクチンはPfizer-Moderna社のワクチンですが、アストラゼネカ製のワクチン接種を進めている欧州連合(EU)加盟国では、接種による副反応の対応に追われています。


元気な女性に接種したときに稀ですが致死的な血栓ができることが問題です。許可を与える欧州医薬庁(EMA)では「ワクチンをうつメリットはリスクを上回る」としていますが、ドイツ、フランスに続きデンマークでも年齢制限を行うことにより被害を最小限にしようとする動きがあります。アストラゼネカ製と同じ仕組みを利用している、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製も同じ副反応を起こすことが判明し、イタリア、スペインが使用を見合わせています(朝日新聞、令和3年4月16日)。


 両ワクチンの共通点は、アデノウィルスをベクター(媒介)としていることです。複製が不可能で病原性もないアデノウィルスに新型コロナウィルス表面にあるタンパク質(抗原)の遺伝子を入れ、体内の細胞に伝達した後に免疫反応を起こさせる仕組みです。


 米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製の副反応に対する米国の対応と問題点が報告され[1]、また、最近、発表された論文[2,3]では、血栓多発がどのような機序で起こるかが明らかにされています。




Q.オスロ大学病院からの報告例は?


・ノルウェー、オスロ大学所属のSchultz NH.らが、以下の5症例を報告[2]。うち3例は死亡。


・いずれも2021年3月6日より17日までに発症した。


・全例、アストラゼネカ製ワクチンの最初の予防接種後、10日以内に32-54歳の5人が重篤な副反応を呈し入院した。


・4人は脳に広範囲な出血と血栓症を起こし、血小板減少症がみられた。


症例1:37歳、女性。接種後1週間目に発熱、頭痛。血小板数が高度に減少。脳CTでは脳静脈洞に血栓。ヘパリン投与。血小板輸血、脳血栓除去の手術。2日目に死亡。


症例2:42歳、女性。接種後1週目に頭痛。さらに3日後に意識障害。血小板数は高度に減少。脳静脈洞血栓及び脳内出血。メチルプレドニンゾロン、静脈内免疫グロブリン投与で血小板増加。15日目、重症の脳出血性梗塞で死亡。


症例3:32歳、男性。接種後7日目に腰痛あり。血小板数減少あり。肝内門脈、肝静脈に血栓認めた。免疫グロブリン、ダルテパリン投与後、血小板数増加。その後、ワーファリン、プレドニンゾロン投与で改善、健康状態で退院した。


症例4:32歳、女性。接種後8日目に腹痛、頭痛あり。軽度の血小板数減少。脳CTでは、静脈内に大量の血栓症、および小脳出血性梗塞あり。その段階で血小板数は7万。ダルテパリン、プレドニンゾロン、静脈内免疫グロブリンによる治療開始。フォロアップCTでは脳静脈洞の再開通所見あり。症状改善し、10日後に退院した。


症例5:54歳、女性。ホルモン補充量実施中。高血圧あり。ワクチン接種後7日目。朝、起床時に左片麻痺に気づき救急受診。血小板数は1万9,000。脳CTでは右前頭出血あり。血小板輸血、メチルプレドニゾロン、静脈内免疫グロブリンによる治療開始。造影脳CTでは広範囲な脳静脈内血栓あり。減圧目的で開頭術実施したが改善せず死亡。




Q.副反応を起こした機序は?


・5人全員について血清学的な検査を実施。SARS-CoV-2の抗体はすべて陰性であったことから以前にCOVID-19に感染した可能性は否定。しかし、5人とも抗スパイク結合が検出されたことから抗スパイクワクチンの反応が初期段階にあった可能性が高い。


・5人の全てに共通して血小板(PF4)- ポリアニオン複合体に対する高レベルの抗体が陽性であった。


・自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症と同じ病態がワクチン接種により引き起こされた。


・ヘパリン起因性血小板減少症に対して非常に効果的な静脈内免疫グロブリンによる早期治療が有効ではないか。


・PF4-ポリアニオン複合体に対する抗体は献血者の5~7%で抗体価は低いが検出可能なPF4-ヘパリン抗体を有している。リスクが高い人たちが潜在している可能性がある。



Q.ドイツ、オーストリアからの報告は?


・Greinacher A.et al.は、同じアストラゼネカ製ワクチン接種後の副反応例を報告している[3]。


・ドイツ、オーストラリアの研究グループの報告。アストラワクチン接種後の副反応、11症例、うち9症例が女性。平均36歳(22-49歳)。全て高度の血小板減少がみられた。

接種後、1-2週後。血小板減少+血栓形成。

自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症であった。




Q.推定される機序は何か?


・ワクチン接種による強力な炎症刺激作用により➡血小板因子4(PF4)に対する自己抗体の形成、あるいはPF4, 血小板と交差反応するワクチンにより誘発される抗体である可能性がある。


・アデノウィルスが血小板に結合し、血小板の活性化を起こすことは知られている。


・接種後、5日―20日後に起こる副反応である。


・高用量の静脈内免疫グロブリンの投与が効果的➡投与後、血小板数の急速な増加と凝固亢進の低下が認められる。


比較的若い女性に発症しやすい。




Q.新病名の提唱?


・VITT(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia):ワクチン誘発性免疫性血小板減少症の名称を与えた。




Q.米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のワクチンの副反応に関わる問題点とは?


最近のScienceは、以下のように問題点を報じている[1]。


・4月13日、米国疾病管理予防センター(CDC)、食品医薬品局(FDA)はJ&J製のワクチンの一時停止を勧告した。


・米国でJ&Jワクチンを接種された680万人以上の人々の中で、6例で血液凝固障害が発症。うち1人が死亡した。すべての症例は18歳から48歳までの女性であった。


・アストラゼネカ製、J&Jワクチンの両者は同じ改変アデノウィルスを使用している。


・ロシアのスプートニクVワクチン、中国のCanSinoBiologicsワクチンも同じadenovirusベクターを利用しており、血栓形成の副反応が疑われるが両国からの発表はない。


・副反応の血栓形成は、ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)と呼ばれている。


・アストラゼネカ製、J&Jワクチンは、1回の投与で済み、低コストで輸送と保管が比較的容易なため低中所得国の何十億人に接種する計画の重要な部分となっている。


・他のワクチンの供給が十分でないので両ワクチンの接種は再開される可能性が高いが55歳以上の男性に限定するのが最善の方法であろう。



 通常、新しいワクチンを開発するには5~10年近くかかると言われます。ワクチンの接種にあたっては重篤な副反応が起こらないように問診を行っていますが、複雑な機序で生ずる副反応の予知は、きわめて困難です。

米国ではすでに医療従事者の犠牲者が2,000人を超えたと云われています。欧米でも最初は医療従事者から開始し、その後、高齢者へと進められていることはわが国と同様ですが、医療従事者の中で比較的若い女性が、犠牲になられたことは、痛ましく、また無念としか言いようがありません。




参考文献:


1. Vogel G. Concerns over rare clotting disorders halt use Johnson & Johnson s Covid-19 Vaccine?

Science Apr. 13, 2021.

DOI: 10.1126 / science.abi9935


2. Greinacher A. et al. Thrombotic Thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 Vaccination

New Eng J Med April 9, 2021.

DOI: 10.1056/NEJMoa2104840


3. Nina H. Schultz NH.et al. Thrombosis and thrombocytopenia after ChAdOx1 nCoV-19 vaccination

New Eng J Med April 9, 2021.

DOI: 10.1056/NEJMoa2104882


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