2022年1月7日
喘息は、小児から高齢者まで全世代にわたってみられる慢性の呼吸器疾患です。
わが国では、重い発作による喘息死が極めて多い時代がありました。吸入薬による治療が効果を挙げ、劇的に減少してきましたが高齢女性の喘息死は依然として多いという実態があります(コラムNo. 27, 参照)。
GINA(ジーナ)は、The Global Initiative for Asthma の略称ですが 世界保健機関(WHO)と米国国立衛生研究所(NHLBI)が協力して1993年に発足。製薬企業などからは独立して喘息の予防、治療を科学的な見地から実証し、啓蒙していこうとする専門家グループの団体です。
喘息の管理と予防のためのグローバル戦略(GINA戦略レポート)は、2002年から毎年更新されており、新しいエビデンスが出現し、新しい治療法が承認されたとき、呼吸器を専門としない臨床医に最新のエビデンスにもとづく推奨事項を提供しています。
GINAは2021年4月に改訂し、発行された2021年GINA戦略レポートの主要な推奨事項の要約が米国胸部学会の2022年1月号に発表されました[1]。ここでは、医師が知るべき細部の情報は割愛し、一般の人たちが知るべき問題点を解説します。
なお、5歳以下および6~11歳の小児の喘息の治療法について詳しく解説してありますがここでは割愛します。実は、この年齢層の治療法が新たな科学的な証拠(エビデンス)により変更された点も改訂GINAの特徴です。
Q. GINAの目標は何か?
以下が目標である。
・喘息とその公衆衛生上の影響に対する意識を高める。
・喘息の有病率の増加の理由の同定を促進する。
・喘息と環境との関連の研究を促進する。
・喘息の罹患率と死亡率を減らす。
・喘息の管理を改善する。
・有効な喘息治療の入手可能性とアクセス性を向上させる。
Q. 新型コロナウィルス感染症(Covid-19)と喘息の関連は?
最初に新型コロナウィルス感染症(Covid-19)と喘息の関連について短く解説しています。
・喘息は、重度のCovid-19に感染するリスクは高くない。
・しかし、吸入療法は指示された通りにきちんと行うこと。
・感染リスクを避けるためなるべく超音波ネブライザーの使用による治療は避けた方が良い。
・Covid-19ワクチンの接種を推奨しており、食品、昆虫毒、あるいは薬のアナフィラキシーの既往があってもワクチン接種は禁忌ではない。
Q. 喘息の考え方は?
・気道過敏症と気道炎症を伴うが喘息の診断にはこれらの医学的な証明は、必要、十分のいずれでもない ➡あくまでも日常の臨床医として対応することの大切さを強調している。
・臨床表現型として小児期発症であるか成人発症型か、アレルギー性であるか、非アレルギー型であるかは、病理学的な変化および治療に対する反応とは強く相関するものではない ➡病型を決めることよりも現在の状態の正確な把握が大切であるとしている。
Q. 喘息の診断方法は?
・症状の経過。肺機能検査、特に気管支拡張薬吸入による改善効果などが判断材料となるが決め手にはならない。
・胸部の聴診所見や、各種の臨床検査が正常であっても喘息の可能性がある。
・呼気一酸化窒素濃度(FeNO)は、II型気道炎症を伴う喘息で高値となるが、アトピー、アレルギー性鼻炎、湿疹、好酸球性気管支炎でも高値となることがあり、気管支が収縮中のとき、あるいは好中球性喘息では低値となる。
➡ 診断方法で決め手になるものはない。
Q. 今回のGINA改訂で追加となった問題点は?
・すでに喘息として治療を受けている患者および喘息でも特定の問題がある場合、喘息の診断の確定のための留意事項、高齢者の喘息、喘息で喫煙者である場合の問題、など。
・喘息と鑑別を要する他の疾患は年齢により異なる。
➡高齢者の喘息は、診断、治療、併存症において特に慎重な判断が必要である。
Q. 喘息治療の原則は?
・強調されているのがMART療法(maintenance-and-reliever therapy)すなわちmaintenance ICS–ホルモテロールによる維持療法である。
➡ 吸入ステロイド薬(ICS)とβ2刺激気管支拡張薬(ホルモテロール)の合剤による維持療法と急性症状時の対応法である。短時間作用型β2刺激気管支拡張薬を急性期に使うなら必ず同時にICSを使用することが強調されている。
Q. 喘息管理の目標は?
・症状の管理を良好な状態に維持していく。
・症状が発生したときに症状を緩和する。
・悪化および喘息関連の死亡のリスクを最小にする。
・持続的な気流制限を最小にする。
・治療の副作用を最小にする。
Q. 効果的な喘息管理に必要な条件とは?
・患者と医療提供者(医師、看護師など)の間のパートナーシップ。
・患者自身の意思決定。
・良好なコミュニケーション。
Q. 治療で重要な配慮事項は何か?
・投薬へのアクセス、患者の好み、必要な医療費。吸入器を正しく使用できる能力、および使い過ぎなど可能性のある規則をきちんと遵守できるかどうかの実際問題。
Q. 喘息治療薬の分類とは?
・コントローラー、リリーバーおよびアドオン治療薬に分類される。
・コントローラーの目的➡気道炎症を低減、症状の制御、増悪のリスクを減少させる。
➡メンテナンス療法として実施する。
Q. 治療は重症別にどのように分けて実施するか?
(注:詳細な解説あるが割愛します)
・ステップ1=軽症の喘息➡リリーバーは喘息の症状があったときに必要に応じて低用量のICS-ホルモテロールを使用する。症状を緩和するためSABAを使うが低用量のICSを併用する。
・ステップ2=中等度から重度の喘息➡ステップ3-5:症状の緩和のためICS-ホルモテロールを使う維持療法(MART)として行う。
・最小有効量を見つけるために良好な喘息コントロールが2~3カ月間、得られたら最も効果の低いステップまで治療薬を減らしていく、ステップダウンを行う。しかし、ICSは中止しない。
・喘息がコントロールされない時には、まず吸入器の使用技術、遵守、持続的なアレルゲン回避策、併存疾患を確認する。
Q. 運動中の喘息とは?
・運動時に喘息を起こす場合➡運動誘発性の気管支収縮、肥満、心肺機能の低下、または誘導性喉頭閉塞などと喘息を鑑別して治療を行う。
Q. 併存疾患および特定の集団における喘息の管理は?
・喘息が副鼻腔炎、肥満、胃食道逆流症と併存する場合は併存疾患を特定して管理する。➡これら多発性の疾患は呼吸器症状を悪化させ、生活の質(QOL)の低下に寄与する。症状のコントロール、悪化に関与することがある。
Q. 喘息とCOPDの両方がある場合は?
・喘息、COPDの症状が類似している可能性がある。診断基準が重複している。
高齢者、喫煙者では重なりが多い。
・しかし、喘息とCOPDのエビデンスにもとづく治療の推奨には重要な違いがある。
➡COPDの初期治療ではICSなしの長時間作用型気管支拡張薬のみが推奨されている。ただし、喘息ではICSなしでは重症化の可能性が高く、死亡リスクとなるので禁忌。
➡従って喘息、COPDの両方の診断を受けた場合には全てICSを併用する必要がある。
COPDの治療はGOLDと呼ばれるガイドラインで推奨事項を決めている。
➡両方がある患者の治療では、吸入器の使用技術の向上、禁煙。免疫向上。身体活動、併存疾患の管理が重要である。
・喘息とCOPDの重複=ACOは、それ自体が独立した疾患であるとの誤解を生むので使用しない。喘息+COPDと表現する。
・喘息+COPDでは➡どちらか一方の疾患よりも症状や悪化の負担が大きくなり、生活の質が低下し、肺機能が急速に低下し、医療利用の必要性が高くなり、死亡率が高くなる。
Q. 重度の喘息の考え方は?
・重度の喘息は、最適に処方された高用量ICS-LABA療法と禁煙など悪化に関わる因子の管理を順守しているにもかかわらず制御できない喘息、または高用量治療を減らすと悪化する喘息を指す。喘息を持つ人々の約3~10%に相当する。
Q. 重度の喘息の管理の在り方は?
・薬物を処方するだけの治療では不十分である➡重度の喘息とその治療の重度の身体的、感情的、社会的、経済的負担に対処するのを助けるために、利用可能な場合は患者に支援サービスを紹介する。
・ステップ5で推奨される上乗せ治療では、長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)の追加治療がありうる。しかし、LAMAを追加すると、肺機能はわずかに改善されたが、症状のコントロールは改善されなかった。一部の研究では、悪化が軽減された。ステップ4でLAMAの上乗せを検討する前に、ICS-ホルモテロールを使用したMARTを試す必要がある。
Q. 長期マクロライド系抗菌剤の上乗せ効果は?
・抗生物質が耐性化するリスクおよび副作用で心電図検査でのQT間隔(QTc)の延長を起こすことがあり定期的な心電図のチェックが必要である。
・ICSによる喀痰の出しやすさの効果は、中等度から重度の喘息で改善するが広く利用できる可能性ではなく、喀痰に対する評価は不明である。
Q. 重度の喘息に対する抗体薬使用については?
・重度の好酸球性喘息(ベンラリズマブ、デュピルマブ、メポリズマブ、レスリズマブ)および重度のアレルギー性喘息(デュピルマブ、オマリズマブ)に対する追加の生物学的療法の主な利点は、重度の悪化の大幅な軽減と全身ステロイド使用を最小限にするためである。
・全身ステロイド投与(経口薬、注射)による治療は、長期的な副作用が予想される限り避けるべきである。骨粗鬆症、肺炎、心血管疾患、白内障、腎機能障害、糖尿病、および体重増加などの深刻な長期状態のリスクが高まる。
Q. 患者に行動の変容を促すための文書を準備すること。
・喘息の自己管理の一環として、すべての患者に、喘息のコントロール状態と理解力に適した喘息行動計画を書面で提供し、悪化する喘息を認識して対応する方法を知ってもらうことが必要である。
・リリーバーとコントローラーの投薬をいつどのように変更するかを述べ、必要に応じて全身ステロイド薬を服薬し、症状が治療に反応しない場合は医療機関へ連絡させる。
Q. プライマリケアあるいは急性期ケア病院で行う悪化予防の治療とは?
➡可能な場合は、在宅での酸素吸入療法を考慮する。成人の場合は酸素飽和度を93〜95%に維持するのに十分な酸素流量、6〜11歳の子供は94〜98%を保つ流量とする。
➡酸素療法は、酸素濃度を一定に調整できる方が、死亡率が低く、転帰が良好である。
長期にわたる喘息の治療を、できるだけ身近なところの医療機関で行うことを推奨しています。これは、米国の医療事情もありますが、患者数が多いこともあり、できるだけ分散して管理し、しかもその治療内容をできるだけ簡略に安全で効果的に継続するという視点に立っています。
専門医と非専門医の細かな連携、および関わる医療チーム全体のレベルアップを強く求めている点も特徴と言えます。
喘息、COPDの治療薬は吸入薬を含め、多種多様になってきました。しかし、GINAガイドラインではあくまでも科学性を重視して推奨事項を厳しく決めている点が特徴であり、私たちにも大いに参考になります。
参考文献:
1.Helen K. Reddel et al. Global Initiative for Asthma Strategy 2021 Executive summary and rationale for key changes. Am J Respir Crit Care Med 2022; 205, 17–35. (Jan 1, 2022)
Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202109-2205PP on October 18, 2021
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