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No.242 睡眠時無呼吸症候群には肺がんの合併が多い


2022年3月7日


 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、成人だけではなく小児期にすら認められる頻度が高い複雑な病気です。

どのように起るのかは、いまだに不明の点が少なくありません。例えば、最新の文献をまとめて解説している医学記事[1]ではOSAを以下のように説明しています。




Q. OSAの機序と問題点は何か?


1. OSAは、睡眠中に咽頭気道が繰り返し閉塞し、その結果、低酸素血症と睡眠の断片化が生じることが特徴である。OSAの病因は、完全には理解されていないが、上気道の虚脱を起こしやすくする解剖学的上気道(UA)の感受性と、UA機能が睡眠に関連して変化することの相互作用が原因である。


2.睡眠中のUA筋活動の低下は、健康な人ではほとんど影響のない生理学的現象であるが、感受性の高い人ではUAの狭窄を促進し、OSAを起こす。


3.UAの解剖学的構造と肺の力学が良好な人は、リズミカルな呼吸と正常なガス交換を維持できるが、上気道に問題がある人では、完全に閉塞する可能性がある。


4.OSAでは、呼吸力学における複数の生理学的睡眠関連の変化と血中の二酸化炭素分圧(PaCO 2)の上昇があるが、すべてで完全にUA閉塞となるわけではない。


5.UAの開存性の決定要因は、構造的、血管的、および神経筋的要因に大きく分けることができる。構造決定要因には頭蓋顔面の構造が含まれる(注:小顎の人はリスクが高い)。

脂肪組織を含む周囲の軟部組織、血管構造、粘膜が要因となる。血管要因には、横臥位の睡眠中に発生する吻側(口側)への体液の移動が関与する(注:横臥位で寝るとOSAは軽減することが多い)。神経筋因子には、換気運動出力、UA筋活動、および尾側牽引を介した胸腔上気道の連鎖機能がある。


6.顎が後退するなどの頭蓋骨格の制約により、軟組織と気道内腔が共有するスペースが制限される。頭蓋顔面の特徴は遺伝性の特徴であり、人種/民族的要因の影響を受ける可能性がある。(注:小顔の日本人は起こしやすい)


7.気道を取り巻く軟部組織の増加の原因は、脂肪組織の増加、扁桃腺の肥大、または血管容積の増加が原因である。


8.肥満は、肺気量の減少、軟部組織の量の増加、UA筋肉の機械的出力の潜在的な障害など、複数のメカニズムによるOSAの主要な危険因子である。


9.個々の危険因子は知られているが、OSA患者のUA閉塞につながる正確な病態生理学的経路は不明である。

➡OAが起こりやすい感受性の高い人の睡眠中の咽頭閉塞の重要な引き金には、睡眠中の上気道力学の変化、換気運動出力の変化、周囲の組織圧、および呼気狭窄が関与している。




Q. 肺がんのリスクとは?


・2021年度の国際的な統計では、男性で最も頻度が高い癌死亡の原因は肺がんであり、死亡総数は約180万人であった。


・2020年度には新しく癌と診断された症例数のうち11.4%が肺がんであり、癌としては第2位であり、男性の癌ではトップであった。


・他方、全世界で約100億人の成人がOSAに罹患していると推定されている。




Q. 研究の方法と結果は?


閉塞性無呼吸症候群(OSA)は、発癌と関係があると推定されているが不明の点が多い。

本論文では、文献的に報告されている論文についてOSAと肺がんの関係を文献的に検討した。


方法

・2021年6月の時点で電子媒体のデータベース(PubMed, Embase, Cochran Library, Scopus)掲載でOSAと肺がんを取り上げている全論文をサーチ。そのうち一定の基準で信頼できる文献を選択し、統計処理を行った。

・7編のうち4編がメタ解析の手法に合致するものであった。これらに含まれている全患者数は、4,885,518人であった。


結果

OSAには肺がんが高頻度で合併していた。そのハザード比1.25 ; (95%CI: 1.02-1.53), 不均一性はI^2 =97%。I^2 をさらに低下させる目的で、3編で少なくとも5年間以上のフォロアップ期間がある論文に絞ったところハザード比は1.32, 95%CI: 1.27-1.37, I^2=0%となった。


・平均5年間以上の追跡調査データの報告論文

Huangら 2021年, Jaraら2020年、Kendzerska ら2021年の論文

➡ハザード比1.32 (95%CI: 1.27-1.37)


・5年間以内の追跡調査

Gozalら2016年、

➡ハザード比1.02 (95%CI: 0.99-1.06)


・約480万人余りのOSAの患者についてOSAがない場合と比較すると約30%肺がん合併の頻度が高いことが判明した。


・OSAに肺がんの合併リスクが高いかは、さらに長期間についてのフォロアップしたデータと、肺がん発症の機序を解明する必要がある。




Q. 考察は?


1.OSAはOSAが無い場合と比較して25%肺がん合併リスクが高い。5年間以上のフォロアップ期間では、32%に上昇する。

データは、年齢、性、肥満度および他の併存症で補正したデータであるが全論文で喫煙の補正は実施していない。


➡フォロアップの長さはデータに影響する。例えば肺の扁平上皮癌では最も診断されやすいサイズは径30㎜であるがこれに達するまで約8年間を要すると云われる。




Q. OSAで肺がんのリスクが高くなる機序は?


・OSAで生ずる睡眠分断に関わるという考え方。

➡交感神経亢進、全身性炎症、全身性免疫の異常を引き起こす➡発癌を促す。


・睡眠分断などが昼間の眠気を誘発➡これを防ぐため喫煙➡その結果、肺がんリスクが高まる。すなわち、ストレスによる喫煙習慣が原因とする考え方がある。


・非喫煙者でもOSAでは肺がんのリスクが上昇する。

以下がその基礎理論である。


・HIFs(=hypoxia-inducible factors)が関与する。

➡低酸素下で飼育した実験動物ではHIFsが上昇➡発癌リスクが高くなる。

➡HIF-2a, β-Cateninが関与するのではないか。


・OSAに肺がんが合併しやすい機序として推定されているのは以下である。

➡OSAでは睡眠中にくり返し、低酸素に陥ることになる

➡その結果、血管増生作用、免疫学的異常が生じ、発癌を促し、転移を促進する可能性がある。

➡低酸素状態が発癌を促し、転移を促進するという多くの基礎研究がある。


・肺がんは、特に睡眠障害で発症しやすいという報告がある

➡その機序は、睡眠状態がpoorであることにより炎症病変が促進される。間歇的な低酸素血症が低酸素に関係する因子(HIFs)を刺激する。

➡その結果、腫瘍形成を刺激し、発癌を促進する。

➡これまでもこの機序を推定することを背景にOSAと肺がんの頻度を研究した報告がある。




 近年、肺がんが増えてきています。背景因子として喫煙以外のさまざまなリスクが知られていますが、OSAが危険因子の一つである可能性を示したという点でこの論文はユニークです。実際に私たちのクリニックでは、CPAP治療実施中に偶然、肺がんが発見され手術に至った患者さんが相当な数になっています。

わが国ではCPAP治療はレンタル方式となっているので診療はごく短時間で済まされていることがありますが、合併症には、心血管系や腎障害などのほか、肺がんの合併が多いことをこの論文は教えています。3分間診療では危険が多いことを示唆しています。




参考文献:


1.Badr MS. et al. Pathophysiology of obstructive sleep apnea in adults. UptoDate. Literature review current through: Feb 2022. This topic last updated: Aug 17, 2020.


2.Cheong AJY. et al. Obstructive sleep apnea and lung cancer: a systematic review and meta-analysis. Ann Am Thorac Soc Vol 19, No 3, pp 469–475, Mar 2022

DOI: 10.1513/AnnalsATS.202108-960OC


※無断転載禁止

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