No.300 アトピー性皮膚炎、大気汚染、ピーナッツ・アレルギー:複雑な因果関係
- 木田 厚瑞 医師
- 3月26日
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更新日:3月30日
2025年3月26日
中年や60歳を過ぎた方で、喘息があり、しかも首筋の皮膚が赤くなったアトピー性皮膚炎(AD)の方をときどき、診ることがあります。ほとんどが子供の頃から、と言います。
アレルギー性の喘息では、呼吸器医だけでなく、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、ときには消化器内科まで多科の医療者の協力が必要となる領域です。
ここでは、アトピー性皮膚炎の発症を巡る文献のうち総論を紹介し[1]、次いで最近の論文[2]によりアレルギー性の喘息との接点の医療について述べます。
Q. アトピー性皮膚炎(AD)と環境との関係は?
・ADは、世界中の子供の5~20%以上、成人の約10%が罹患している。米国では、2つの横断的研究がそれぞれ、ADの有病率が約7%であると報告している。
・ADは、ほとんどの場合、5歳未満で発症し、患者の約50%で乳児期を超えて持続する。
・アトピー(湿疹、喘息、またはアレルギー性鼻炎)の家族歴は、ADの最も強い危険因子である。片方が、アトピー性の親である場合、子供ではADを発症するリスクが約2~3倍増加し、両親がアトピー性の場合、リスクは3~5倍に増加する。
・遺伝性の素因が関係していることは明らかであるが、原因となる遺伝子の中で判明しているのは「FLG遺伝子」である。FLG遺伝子の異常の一つである、生殖細胞系機能喪失型多様体は、皮膚バリアタンパク質フィラグリンをコードしており、表皮バリアの欠陥を引き起こし、ADの主要な危険因子であることが判明しているが、その他の遺伝子の情報はまだ断片的である。
・気候、都市部と農村部、大気汚染、非病原体微生物への早期曝露、水の硬度などの環境要因が、ADのリスクに影響を与える可能性があるが、これについても知られる情報は断片的である。
・生態学的研究からの疫学的証拠は、家庭用水の高硬度 (高レベルの炭酸カルシウム) と子供のAD の有病率の増加が疑われたが、7つの観察研究の2021年のメタアナリシスでは、硬水に曝露された子供のADリスクがわずかに増加していることが判明した(オッズ比[OR]1.28、95%CI 1.09-1.50)。
・ADの病因には、表皮バリア機能障害、遺伝的要因、ヘルパーT型2型(Th2)細胞、免疫調節不全、皮膚マイクロバイオームの変化、炎症の環境トリガーなど、さまざまなメカニズムが関与している。
・皮膚の炎症が皮膚バリア機能障害(「アウトサイドイン」仮説と呼ばれる)によって引き起こされるのか、免疫調節不全(「インサイドアウト」仮説と呼ばれる)によって引き起こされるのかは、結論が出ていない。
Q. アトピー性皮膚炎、大気汚染、ピーナッツ・アレルギーの関係の調査研究は?
問題点:食物アレルギーと湿疹は小児の中でもっとも頻度の高い、慢性疾患である。しかも、両者とも小児期発症がもっとも多い。
食物アレルギーは、免疫学的には有害現象の一つと考えられ、食物アレルゲンに関して生ずるIgE抗体の産生に関係したTh2反応が関係している。
都市化、工業化が皮膚、呼吸器、胃腸系のバリアとして働いている上皮組織系を破綻した結果、アレルギー症状を起こす、と考えられている。
目的:アトピー性皮膚炎、大気汚染、アレルギーとの関係があるかどうかを検証した。
方法:オーストラリアで実施されたHealthNuts研究と呼ばれる疫学研究。138か所の免疫研究従事施設。2007年から2011年で12カ月齢の子供5,276人を追跡研究。1歳児で調査し、その後、4、6、10歳で追跡調査を行った。
居住地の大気汚染状態を、PM2.5濃度、NO2濃度との関連性を調査し、多変量解析モデルを利用した統計処理を実施した。
結果:1歳児でNO2高値(<10ppb)の環境下で居住していた子供は、オッズは[95% confidence interval], 2.21 [1.40-3.48])であった。居住期間では4 (2.29 [1.28-4.11])であった。
6歳の時点で高濃度の被NO2曝露者ではピーナッツ・アレルギーが高値だった。
6 (2.7 ppb NO2 上昇するとオッヅは1.34 [1.00-1.82]上昇した。この傾向は持続し、PM2.5 が上昇するごとに4,6および10歳では(1.2 mg/m PM2.5が増加するごとに各, 1.27 [1.01-1.60], 1.27[1.01-1.56], 1.46 [1.05-2.04]上昇した。
結論:1歳でNO2あるいはPM2.5が高値の場合には成長後もピーナッツ・アレルギーが持続する。しかし、湿疹や卵アレルギーではこのような関係は認められなかった。
Q. アトピー性皮膚炎、喘息、胃腸症状に関連する免疫系の異常とは?
アトピー性皮膚炎、喘息、胃腸症状の相互に関連する免疫系の異常は複雑であるが、現在、図1のようにまとめられている。
ここでは、詳細な解説は避けるが、共通する原因を、解決するような抗体薬が近年、診療現場で使われ、著しい効果を上げるに至っていることが述べられている。
図1 アレルゲン、 喘息、 アトピー性皮膚炎、 食物アレルギーの関係
![文献[2]のFig 1を邦訳、一部修正](https://static.wixstatic.com/media/af4cfc_9393c6d672fb4c3896527ed8dea94a59~mv2.png/v1/fill/w_49,h_29,al_c,q_85,usm_0.66_1.00_0.01,blur_2,enc_avif,quality_auto/af4cfc_9393c6d672fb4c3896527ed8dea94a59~mv2.png)
アレルゲンにより、肺、皮膚、消化管の上皮細胞が障害され、その結果、免疫系に働く樹状細胞、肥満細胞、リンパ球、好酸球が連動してアレルギー反応として作用する機序を説明している。
大気汚染による健康被害は、汚染が高度であれば住民の多数が同時に起こしますが、軽度の場合には健康弱者だけが被害を受けることになります。本研究は、筆者たちが、述べているようにオーストラリアという他の地域の大気汚染の程度が比較的軽度で実施されたという点が特徴の一つです。恐らく、わが国の都会の大気汚染はこれを上回る被害を生み出している可能性があります。
さらに、ピーナッツ・アレルギーが持続するが、湿疹や卵アレルギーではこのような結果は認められなかったと述べています。この理由は不明ですが、すべての人が一律に異常反応を呈するわけではないことを示しています。
アレルギー反応は多科にまたがって医療者の協力や連携が必要な分野であり、その点からは、多くの慢性の病気の診療体制のいわば典型といえるかも知れません。
参考文献:
1.Silverberg JI. et al. Atopic dermatitis: Comorbidities and associated diseases.
UptoDate, Updated February、2025.
2.Michelle L. Hernandez, ML. et al. Atopic dermatitis, food allergy, anaphylaxis, and other atopic conditions
J Allergy Clin Immunol 2024; 154:1416-8.
3. Diego J. Lopez, DJ. et al. Air pollution is associated with persistent peanut allergy in the first 10 years
J Allergy Clin Immunol 2024; 154:1489-99.
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