2020年5月18日
一般にステロイド薬は感染にかかりやすくするので肺結核などの治療の場合には、他の治療法で代替えができない場合に限って使われています。
問題となるのは、喘息や大多数のCOPD (慢性閉塞性肺疾患)で使われている吸入ステロイド薬です。吸入ステロイド薬は経口や注射のステロイド薬とは作用、副作用が異なっています。
吸入ステロイド薬は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)ではいま、さまざまな意見が交錯しています。吸入ステロイド薬のシクレソニド(商品名:オルベスコ)が有害どころかCOVID-19の治療に効果的であったという報告があったからです。
いま、意見はどのように分かれているのか。ここで紹介する論文[1]は、問題点を整頓しています。
以下がその論点です。
・COPDや喘息があるとCOVID-19にかかりやすいか?
・吸入ステロイド薬は感染のリスクを高めるか、あるいは逆に下げるか?
・吸入ステロイド薬はCOVID-19の臨床経過を変えるか、すなわち治療として役立つか?
・役立つなら吸入ステロイド薬を予防として使えるか?
以下、これに関わる情報を記します。
Q. 慢性呼吸器疾患とCOVID-19の関係は?
SARSでは慢性呼吸器疾患を有する人が罹患する頻度は、持たない人よりも少なく、COVID-19 でも同様ではないか、と考えられていた。しかし、中国のデータではCOPDを有する人の死亡率は6.3%で無い人よりも高値であった。COPDの治療中の人はCOVID-19にかかりやすい(約2.6倍)。しかし、喘息にはこの傾向はみられなかった。
Q. 吸入ステロイド薬とウィルス感染について?
・試験管内のテストでは、吸入ステロイド薬はウィルスに対する免疫を傷害し、かかりやすくする。さらに吸入ステロイド薬はウィルスを除去する作用を遅くする。
・逆に、吸入ステロイド薬はウィルス除去などには影響を与えないという報告もある。実験で使ったウィルスはライノウィルスであり、コロナウィルスとは異なるという意見がある。
・コロナウィルスを使った実験では吸入ステロイド薬(ブデソニド)はウィルスの複製を促進し、有害なサイトカインの産生を促進した。したがって有害となる可能性がある。
・吸入ステロイド薬(フルチカゾン)は、気道の細菌感染(肺炎)を起こしやすいというデータがある。
・吸入ステロイド薬(シクレニド)はコロナウィルスRNAの複製を傷害し、細胞内にあるウィルス活性を抑制した。このことから、COVID-19に有効ではないか、という意見がある。
・生体で実験的に吸入ステロイド薬を使うと、ライノウィルス、RSウィルスによるサイトカインの放出は抑えられた。したがって効果が期待できそう。
Q. 慢性呼吸器疾患におけるウィルス感染への影響?
・COPDが一時的に悪化する「増悪」では40-60%はウィルス感染による。他方、喘息では80%に達する。
➡ステロイド吸入薬の使用でウィルス感染のリスクを低下させ、炎症反応を抑える。気道の傷害を抑える効果がある➡しかし、もしそうだとしても投与のタイミングが難しい。
現時点では、吸入ステロイド薬がCOVID-19に好影響か、悪影響を及ぼすかの
データは不足しており結論が出せません。
本論文の著者たちも述べていますが、元となるCOPD, 喘息などの治療は決められた通り、きちんと行い、運動、栄養にも気を配り、万が一、COVID-19に感染してもできるだけ軽症にとどまるようにしておくことが必要です。
したがって最初の問に対する答えは以下のようになります。
・COPDや喘息があるとCOVID-19にかかりやすいか?
➡ COPDは Yes、 喘息は No
・吸入ステロイド薬は感染のリスクを高めるか、あるいは逆に下げるか?
➡ 不明
・吸入ステロイド薬はCOVID-19の臨床経過を変えるか、すなわち治療として役立つか?
➡ たぶん No
・役立つなら吸入ステロイド薬を予防として使えるか?
➡ たぶん No
吸入ステロイド薬の種類により働きが異なる可能性は残っています。シクレニドの治験結果を待ちたいと思います。
質問です
私は喘息で、パルミコートを処方され使用していますが、かかりつけ医に、オルベスコに変えて欲しいと言いたいのですが、それは失礼に当たるのでしょうか?