• 木田 厚瑞 医師

No.86 新型コロナウィルス感染症に対するワクチンの臨床治験


2020年7月20日

 新型コロナウィルス感染症(Covid-19)は、コロナウイルス(SARS-CoV-2)により引き起こされる急性の感染症です。治療薬、ワクチンの開発が急務であり先陣争いが進んでいます。

 ワクチンの候補は、2020年5月までにすでに120種以上が挙げられています。

 mRNA-1273ワクチン は、そのうちの一つで感染の鍵となると考えられているSARS-CoV-2のスパイク(S)糖タンパク質をコードするRNA(mRNA)ベースのワクチンです[1](コラム No.73, 参照)。当初から、ワクチン開発の鍵になると予想されていたものです。

 ワクチンは、国⽴アレルギー感染症研究所と米国、モデルナ社による共同開発。同社には、RNAワクチンの研究開発の基盤があり、2020年1月に、SARS-CoV-2のゲノム構造が発表されるや、直ちに開発に取り組み、2か月以内に完成、45日以内に製造、発送までにこぎ着け、最初の治験は66日目に開始した、という米国の科学レベルの威信をかけた意気込みが感じられる論文です。治験は、フェーズⅠと呼ばれる、適正な量、効果、副作用を決めるのが目的です。




Q.mRNA-1273ワクチンの投与方法は?


・SARS-CoV-2の糖タンパク質からなるS-2P抗原を遺伝子情報としている。

・0.5mg/mlに調整した注射液。

・第1日目、第29日目に上腕三頭筋に筋肉注射した。

・mRNA-1273の25μg、100μg、250μg,各投与量の3群。

・フォロアップは、各量注射後の7日、14日、57日、119日、209日、394日後に聞き取りと採血。本論文は2020年3月16日から4月16日まで観察の中間報告。




Q.治験の対象者は?


・健康な成人、45人。年齢は18-55歳。男性49人、女性51人。白人が89%。

15人ずつの3群。一部データはCovid-19からの回復者血清と比較した。




Q.安全性の評価は?


・第1回目注射後の発熱例なし。第2回目注射後は、25μg群では発熱なし。100μg群では40%、250μg群では57%に発熱。

・注射部位の疼痛は軽度ないし中等度。第2回目では、倦怠感、悪寒、頭痛、筋肉痛、注射部位の疼痛あり。全身性の副反応は、25μg群では7/13人、100μg群では15/15人、250μg群では14/14人。うち3人の全身症状は重篤だった。

 

2回目を拒否や検査採血拒否の脱落例あり。




Q.SARS-CoV-2に対する抗体産生効果と中和反応は?


・S-2PのIgG結合抗体の幾何平均⼒価(GMT)は、最初のワクチン接種後に急速に増加、注射後15日目の⾎清では全員で陽性。

・投与量に依存してGMTは増加。

・100μg群、250μg群ではCovid-19からの回復者41人と同等であった。




Q.中和抗体の産生効果は?


・ワクチン誘発中和活性は、偽型レンチウイルスレポーター単⼀感染ラウンド中和アッセイ(PsVNA)とライブの野⽣型SARSCoV-2プラーク還元中和試験(PRNT)アッセイによって評価。

・この評価は時間がかかるため25μg群、100μg群の第1日目、第43日目のみを報告した。

・ワクチン接種前に検出可能なPsVNA応答なし。最初のワクチン接種後、参加者の半分未満でPsVNA応答が検出され、⽤量依存効果が⾒られた。

・43⽇⽬に、SARS-CoV-2感染性を80%以上削減できる野⽣型ウイルス中和活性(PRNT)がすべての参加者で検出された。

・25μg群と100μg群では、CD4T細胞応答がみられた。




Q.問題点は?


抗体価の持続性の評価が不十分である。同系統のコロナウィルス感染症に罹患した軽症のSARS,MERSの治癒後では血中抗体価が長く持続しないことが判明しており、Covid-19でも同じことが推定される。

・ウィルスが感染経過で変異する可能性が高いことが推定され、その場合にはCD4T細胞応答の持続力が必要であるがその評価は不十分である。




Q.今後の計画は?


・フェーズIの治験から安全性と効果がある程度証明されたのでフェーズIIでは健康人600人を対象として50μg群、100μg群の治験を開始し、発売前段階のフェーズIIIの大規模治験は2020年夏に開始する予定である。

 すでにSARS,MERSのワクチン開発で豊富な経験を有するモデルナ社がコロナウィルス(SARS-CoV-2)のワクチン製造に近い位置にあることは期待できます。また、治験データが必ずしも十分といえない段階で掲載に踏み切ったNew England Journal of Medicine編集部の期待度も大変、大きいと云えます。

 恐らく今後、同様の研究成果があると思われますがとにかく一刻も早く、というのが共通の願いです。




参考文献:

1.Jackson, LA et al. An mRNA vaccine against SARS-CoV-2 —Preliminary report. This article was published on July 14, 2020, at New Eng J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2022483


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