2020年12月22日
私は、これまでたくさんのCOPD (慢性閉塞性肺疾患)の患者さんを診てきましたが、その大部分は、すでにかなり重症になった人たちです。
COPDが、いつ頃にどのような症状で始まるのか、その原因は何か。どのように診断し、どのように治療を行えば重症化を防ぐことができるかは、私たちCOPDを専門としている医療者だけでなく、恐らく、何となく不安を感じている多くの人たちの関心事でしょう。
COPDという病気の厄介な点の一つが、動物実験で再現し、モデルを使った早期発見や治療が組みにくい、という点にあります。多くの人たちを対象にした疫学データは、解決策を教えてくれる重要なソースです。
ここで紹介する論文は、コペンハーゲンで実施された疫学調査によるもので2020年に発表された極めて評価の高い論文の一つです[1]。
Q.これまでに判明していたことは?
・COPDは、長い間、喫煙していた人に特有の病気と考えられてきた。
・従って、65歳以降の高齢者に多いと考えられてきた。
Q.近年の研究で明らかになった点は?
・幼少期にすでに発症の兆しがあり、それは肺機能検査が同年齢者と比較して低値である、という観察結果に裏付けされている。
・さらに近年、胎児段階からその萌芽があることが判明してきた。その例の一つが喫煙者妊婦から生まれた子供に肺機能低下が多いことである。
Q.コペンハーゲン研究とは?
方法:
デンマークで実施。現在の人口構成から無作為に選択した105,650人の調査。
喫煙量の評価:長期間にわたって、吸ったたばこの量はパックイヤー(pack・year)で評価。
例えば1パックイヤーは1日1箱・20本を1年、または1日2箱を半年吸った量となる。
肺機能検査の評価:標準的なスパイロメトリーと呼ばれる肺機能検査のうち努力性肺活量(FVC)と1秒間に呼出できる空気量(1秒量=FEV1)の比:FEV1/FVC が同年齢の下限より低い人たちを抽出した。
結果:
たばこ消費量が10パック・年以上で50歳未満の8,064人のうち1,175人(15%)が
早期COPDであり、そのうち58%が現在喫煙者であった。
早期COPDの患者では、長く続く咳、痰があり、喘息、気管支炎、肺炎の病歴がある
人が多かった。中には、重度の肺機能低下を示す人がいた。
14.4年間の追跡期間中に、このような人たちの中で閉塞性肺疾患を伴う117人が
救急入院していた。227人は、肺炎による緊急入院。185人が死亡していた。
COPDのない人と比較して、初期のCOPDのある人は、急性の呼吸器症状による入院の
オッズ比は6.42(95%信頼区間、3.39–12.2)、急性肺炎の入院は2.03(1.43–2.88)、死亡は1.79(1.28– 2.52)。
結論:
一般集団からの50歳未満および10パック年以上のタバコ消費量の人のうち、15%が早期COPDの基準を満たしていた。このような早期COPDの患者では、慢性的な呼吸器症状がみられ、重度の肺機能障害を起こし、急性の呼吸器疾患による入院、早期死亡のリスクが高くなる。
この論文では、これまでは高齢者に特有の病気と考えられていたCOPDが、働き盛りの中年にも頻度が高いこと、該当者の58%が、なお喫煙を続けていること、これにより医療費を押し上げていることが報告されています。
この論文に対し、査読を担当したCOPD研究者は[2]、今後、周産期および⼩児期の要因の影響を調べる必要があること、肺機能の早期低下が幼児期にすでに起こっていることを推定し、中でも持続性の⼩児喘息についての広範囲な調査結果が早期COPDの原因となっている可能性に注目しています。
⼩児喘息の長期調査では、喘息が持続している人の最⼤11%が30歳までに気管⽀拡張薬が必要な気流制限を発症する可能性があること、この人たちが成⼈期にCOPDを発症する可能性があると、述べています[2]。幼児期に重い肺炎を起こしたり、大気汚染に曝露している場合には肺の成長発育が遅れる可能性があります。また、早産や喫煙妊婦では胎児の成長が遅れる可能性があります。
私たちが診る早期COPDでは、日常生活での細かな注意と定期的なチェックだけで悪化せず、日常生活を不自由なく暮らしている人がたくさんいます。早期受診をお勧めする理由です。
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