2021年2月27日
喘息はカゼで悪化して重症発作を起こし、入院や、死亡の原因となることが知られています。
新型コロナウィルス感染(COVID-19)は、重症発作を起こす原因となるのか?
あるいは、新型コロナウィルス感染症で入院中の人は、重症発作を起こす可能性が高いのか?
喘息は気道の慢性炎症が特徴の呼吸器疾患で全世界では3億3千万人の患者数と推定されています。
新型コロナウィルス感染は、喘息にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、多数の喘息患者さんを診ている呼吸器内科医にとっては、極めて知りたいテーマです。
最近、米国胸部学会より発表された論文[1]は、同じテーマについて2020年8月までに世界各国から報告された論文、150編をメタ解析という手法を用いて総括した論文です。この論文を解説した論文[2]とまとめて紹介します。
Q.喘息患者が新型コロナウィルス感染症で悪化するのではないかと推測された理由は?
・米国ではCOVID-19で入院した若年者でもっとも頻度の高い合併症は、肥満、喘息、糖尿であった。
・成人の喘息悪化の原因がライノウィルス感染によることは良く知られている。
・同じくカゼの原因として知られてきたコロナウィルス感染(Coronaviridae)は子供の喘息発作の原因の13%を占め、成人では原因の16%に相当すると云われている。
・COVID-19感染を起こした喘息では経口コルチコステロイド薬を投与したら死亡率が高まったという論文が1報ある。
Q.この論文は何を明らかにしたか?
・COVID-19は喘息の悪化に関係しない。
・成人の喘息では、COVID-19への感染リスクは中等度低い。
しかし、確定するには統計学的にデータが不足。
・重症喘息がCOVID-19なっても重症化して入院を増加させることはない。
ただし、アレルギー性、非アレルギー性喘息を区別したデータではない。
・COVID-19で喘息がある場合の死亡率は無い場合よりも18%低い。
Q.喘息ではCOVID-19 が少ない理由は何か?
・新型コロナウィルスを細胞内に誘導するACE2が喘息患者では少ない。
・TMPRSS2はウィルスが細胞内に侵入する際に必要な蛋白分解酵素であるが、喘息で使用されている吸入ステロイド薬がこの活性およびACE2を低下させる作用がある。
Q.喘息患者でCOVID-19が少ない他の理由は?
非薬物的な効果が大きいのではないか。以下がその理由である。
・多くの人がマスク着用をするようになった。学校が休校になり、職場が閉鎖、旅行が制限され、集団が集まる催しが少なくなった。
ソーシャル・デイスタンスの効果が呼吸器ウィルス感染症を減らし、その結果、喘息の悪化が減少した。
ニュージーランドでは、インフルエンザ感染は前年度より11%減少した。
最近の国際的な喘息の診療ガイドライン、GINA[3]はすでにCOVID-19が喘息患者の死亡率を高めることはないと記載していますが、この論文は、さらにそれを補強するデータとなっています。吸入ステロイド薬が、感染予防効果があることはすでに知られていますが新型コロナウィルス感染症がパンデミックの中では、決められた通りに使用することが極めて重要です。
他方、喘息と良く似た症状のCOPD (慢性閉塞性肺疾患)では新型コロナウィルス感染症で増悪がみられ、重症化することが知られています。喘息とCOPDは異なる病気であることの重要な証拠の一つとなりそうです。
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