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No.15 呼吸器疾患の予防と治療の展望:欧州からの提言


2019年10月29日


 高齢化社会の到来、診断機器の革新的な進歩、これまでには無かった新薬の登場などで、医療に対する期待は急速に変わりつつあります。


欧州呼吸器学会(European Respiratory Society:ERS)は米国胸部学会と並び、呼吸器の病気の予防や治療のあり方について常にリーダーシップを発揮しています。毎年、ERSの会頭はサミットを開催し、意見を集約し発表しています。

今年は2025年までの展望として、呼吸器疾患を予防し、その患者数を減らし、呼吸器の健康を守ることを目標とし、特に患者の期待と要求を実現していくことに主眼が置かれ、患者団体からの意見が強く反映されています[1]。

以下にその概要を記します。




Q. 現在、直面している問題点はなにか。


・高齢化が急速に進み、並行して慢性疾患を持つ患者さんが急増しています。他方で技術革新が進み、診断技術は高まり、これまでとは異なる効果的な新薬が出ています。その結果、医療費は急速に膨れ上がってきました。


・サミットではデンマークで実施された研究として、190万人の小児を35年間、継続調査した結果が報告されました。その結果、近年、種々複数の病気を持つ人が増えていることが判明。その種類は、喘息、白血病、炎症性の大腸疾患ですが、その背景として帝王切開で生まれた子供たちに多いことが報告されました。出産時に産道を通らず、無菌的な環境に置かれたためではないかと推定されています。これに続き、幼児期に受けたさまざまな問題が成人に影響し、結果として成人での呼吸器疾患、循環器疾患、糖尿病などの代謝性疾患が増加することになるという発表がありました。


・ベルギーからの発表として健康に対する教育や社会環境の整備が必要として、受けた教育の期間が健康管理に影響するというデータが発表されました。

短い年数(primary level)では20歳の時点で、20-28年間の健康な生活をおくることができるが、中等度(secondary level)では38-42年間となり、大卒レベルでは45年間になるというものです。

健康に対する警告が聴き入れられる教育を行い、健康な生活を具体的に教える啓蒙を行い、ハイリスクの人たちをスクリーニングするような社会システムを整備することにより健康格差を少なくできるというものです。


・インターネットなどの利用による効率的な医療を進めることが提言されました。遠隔医療での診断の確実さは80%でした。ビデオによるコンサルタントや、オンラインでの処方箋の発行が提言されました。




Q. 患者団体へのアンケート調査による合意事項


 最重要と希望されたことは以下の4項目でした。


・病気の種類と重さが変わってきている。

 病気だけを診るのではなく、一人の人間として全体を見る目を持ってほしい。また、慢性疾患が増え、長い期間の診療が円滑に進むようにして欲しい。一人ひとりを個別的な目で診て治療目的を分かりやすく伝えて欲しい。


・新しい治療薬について。

 新しい治療薬を開始するときにはデータの透明性、使った患者の継続調査、使用に際しての管理基準を明確にしてほしい。


・健康管理システムの整備。

 担当の医師とオンラインで連絡を取り合うなど適切な医療に到達できるよう整備してほしい。また、メディアが流す医療情報についての質を確保してほしい。


・呼吸器疾患の予防体制。

 大気汚染や喫煙被害を理解できるよう伝えて欲しい。幼児期から生涯を通じて肺を守ることに大切な情報を伝えてほしい。




 医療現場に患者さんたちの希望を入れる、このことはわが国でもなかなか進みません。欧州呼吸器学会が、患者団体で実施したアンケートにもとづき、2025年までの努力目標を提言したことは高く評価したいと思います。

私たちは、日本呼吸器障害者情報センター(J-BREATH)と連携しています。J-BREATHのホームページをぜひ、ご覧ください。(https://www.j-breath.jp/)




参考文献:

1.Gaga M. ERS Presidential Summit: redesigning the future of patient care. ERS Open Res 2019; 5: 00139-2018.


※無断転載禁止


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