• 木田 厚瑞 医師

No.176 アナフィラキシー:最近の考え方とは?


2021年6月23日


 ワクチンを早く接種したいが、アナフィラキシー反応などの副反応が怖い、という相談を受けることが多くなりました。また、自分のいま治療中の病気があるが大丈夫だろうかという質問もあります。

 アナフィラキシー反応は、稀にしか起こらないこと、しかも動物実験でアナフィラキシー反応のモデルを研究しても同じ結果を直ぐにヒトに応用できない難しさがあります。

 米国、アレルギー免疫学会雑誌は、ワクチン接種に関わるアナフィラキシーの新しい情報に関する総説を掲載しています[1]。これを参考にアナフィラキシーの機序について解説します。




Q.mRNAワクチンの副反応とは?


・現在、わが国で使用されているワクチンは、Pfizer-BioNTech(ファイザー社製)とModerna(モデルナ社製)があり、脂質粒子にmRNAを含むのが特徴である。


・一般にワクチンによるアナフィラキシー反応は、100万回に1回生ずる可能性があると言われる。英米のデータではmRNA型のワクチン接種のアナフィラキシー反応は100万回に2.5~4.7 イベントと報告されている。


・アレルゲンにより発症するアナフィラキシー反応はタンパク質によるものであるがmRNAにはタンパク質は含まれていない。ポリエチレングリコール(PEG)が問題であり、これに対するアレルギー反応と推定されている[1]。他のワクチンにはPEGは含まれていない。


・PEGは下剤など一部の薬剤に含まれているがこれがアナフィラキシーを起こす頻度は極めて少ない。PEGは、化粧品、下剤の一部に入っているので過去にアナフィラキシーを起こした場合には注意が必要である。




Q.ワクチン接種後のアナフィラキシー反応とは?


・mRNAワクチンによる重度のアナフィラキシー反応は、ワクチン接種から30分以内(ほとんどは15分以内)に発生している。


・数時間または数日後に発症する蕁麻疹、または血管浮腫は、ワクチンによる反応である可能性は非常に低い。これは、IgEを介さない肥満細胞の脱顆粒につながるサイトカインまたは他の要因の生成が起こっている可能性がある。


・ワクチン接種2時間以上、経過して蕁麻疹などの症状が出現した場合、2回目接種は通常通りに接種が奨められる。


・遅延型蕁麻疹反応は、ワクチン接種後、数時間または数日間で数回の蕁麻疹、または、軽度の血管性浮腫を発症する。




Q.免疫反応とは?


・ダニ、ほこり、花粉、食物など生体にとって異物して入り込んだ物質は、抗原と呼ばれ、アレルギーの原因になるものは特にアレルゲンと呼ばれる。アレルゲンが侵入すると、皮膚や粘膜の直下にいる抗原提示細胞がそれらを見つけて異物として認識する。


・細菌、ウイルスに対しては、形質細胞がIgG抗体やIgM抗体を産生し、侵入してきた 菌やウイルスを攻撃し排除する。これが免疫反応である。


・抗原提示細胞からの情報はリンパ球に伝えられる。抗原の種類や状況、免疫のバランスによってこの後の反応が変わってくる。アレルゲンに対しては、形質細胞がIgE抗体を産生したり、リンパ球が直接反応するようになる。


・産生されたIgE抗体は、血液中を流れて皮膚や粘膜にいる肥満細胞の表面にくっついて存在している。この状態は「感作」と呼ばれる。感作されただけではアレルギー反応はおこらないが感作された状態で、再びアレルゲンが侵入して肥満細胞上のIgE抗体と反応すると肥満細胞から、ヒスタミン、ロイコトリエンが放出され様々なアレルギー症状をおこす。




Q.アナフィラキシー反応で知られていることは?


・アナフィラキシーは免疫反応である。


・その免疫反応で重篤な場合には致命的となることがある。


・機序はIgEを介したものとこれによらない非IgEを介したものがある。


・同じ抗原が両方のタイプのアナフィラキシーを誘発する可能性がある。




Q.不明な問題点は何か?


・非IgEアナフィラキシーの原因、機序、関わる細胞の種類は不明である。


・IgEを介さないアナフィラキシーを予測するバイオマーカーは見つかっていない。


・一部の患者ではアナフィラキシーの原因としてIgEおよび非IgEを介した経路の両方をもっている可能性がある。


・IgEを介さない経路に関する情報はある程度、アナフィラキシー発症の予測に役立つ可能性がある。




Q.従来の考え方は?


・従来は、アレルゲンが働くことにより特定のIgEとIgE受容体が結びつき肥満細胞、好塩基球の活性化を誘導されるプロセスと定義されている。


・このような古典的な考え方は、T細胞が抗原を認識してTH2タイプの応答反応

 開始した後、B細胞からはIgE抗体が産生されると考えられてきた。




Q.IgEが関係するアナフィラキシー反応に関係する細胞は?


・肥満細胞


・好塩基細胞 




Q.非IgEが関係するアナフィラキシー反応に関係する細胞群と化学物質とは?


細胞群には以下がある。

・好中球

・内皮細胞

・平滑筋細胞

・肥満細胞

・好塩基球

・好酸球


化学物質には以下がある。

・IgG

・補体

・ブラデイキニン

・ロイコトリエン

・プロスタグランジン-E2




Q.非IgEルートによるアナフィラキシー発症の機序は?


稀な例であるがヒトで詳しい臨床観察を行った結果がある。


・IgE,肥満細胞、好塩基球の軸によるアナフィラキシー反応➡さらに好中球、血小板、補体の活性化、神経ペプチドの放出、免疫複合体の形成、細胞毒性などの様々なメカニズムを介し➡内皮細胞を活性化する機序があることが判明している。


・IgG依存性反応、およびまだ完全に理解されていないメカニズムによるプリン作動性代謝の関与がある。




Q.まだ不明な点は何か?


・非IgE型アナフィラキシー反応に関わる機序と関係する細胞の種類は不明である。


・非IgE型アナフィラキシーを判断できるバイオマーカーはまだ見つかっていない。


・一部の人はIgE型、非IgE型の両方の経路を持っている可能性がある。


・非IgE型の経路の研究が進歩すればアナフィラキシー反応がおこるかどうかの予測が厳密にできる可能性がある。




 アナフィラキシー反応は、以前、考えられていた機序より、はるかに複雑であることが判明しています。残念ながら、現時点では、アナフィラキシー反応が起るかどうかの正確な予測、予知は不可能です。

 生じたときに緊急で治療ができる体制でワクチン接種が行われることが必要です。

米国アレルギー免疫学会は、アナフィラキシー反応の救急治療としてアクションプランを発表し(2020年9月)、体重に応じたエピネフリン少量投与をすみやかに行うことを勧めています[2]。




参考文献:


1.Cianferoni A. Non–IgE-mediated anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol 2021; 147:1123-31.


2.https://www.aaaai.org/aaaai/media/medialibrary/pdf%20documents/libraries/anaphylaxis-emergency-action-plan.pdf

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