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No.178 新型コロナ感染症と間質性肺炎の結びつき


2021年6月30日


 初めて新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の患者さんの胸部CT像を見た時から、間質性肺炎との関わりが問題となるのではないか、と考えていました。典型例では、淡いスリガラス状の影が、肺のあちらこちらに散在しており、一部は濃い影のところがあります。


細菌性感染で起こる肺炎気管支の細い枝を巻き込んでその先にブドウの実のようにつながる肺胞の中に広く炎症を起こします。ところが間質性肺炎は、通常の肺炎とは異なり、肺胞毛細血管を取り囲む間質と呼ばれる組織に炎症や線維化を引き起こすのが特徴です。

 現在では、胸部CT像の撮影像と病理解剖所見を対応させた研究が進み、CT技術も向上したこともあり診断の手法が格段に向上しました。それでも、論争は尽きませんがCOVID-19が起こす間質性肺炎は確実に新しい話題を提供しています。


 ここで紹介する論文は、英国グループが、多くの死者が出る中で苦衷の選択としてステロイドの投与を行ったところ、少なくとも一部は劇的な改善をみたというものです。




Q.研究方法は?


・新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による後遺症として発症する間質性肺炎をスクリーニングする方法をあらかじめ決めておき、COVID-19の治療が終了し、退院した837人の患者に退院後、4週間目に電話連絡した。


・疑われる症状が持続する場合、退院後、6週間目にクリニックに受診してもらい検査を実施した。


・胸部CTを含む検査で37人が間質性肺炎を合併していることが疑われた。患者全てに症状があり、改善していなかった。

MDD(multidisciplinary discussion)により治療すべきかどうかを判断した。


注)MDDとは、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医がそれぞれの立場から総合的に判断する決めるシステム。




Q.結果は?


・退院4週間後、39%の患者(325人/837人)において持続する症状があった。


・生存者の4.8%(35人/837人)に器質化肺炎を中心とする間質性肺炎の所見が見られた。


・35人のうち30人がステロイド治療を受けたが肺機能検査のtransfer factor(TLCO)が31.6%の改善を認めた。努力性肺活量は9.6%の改善であった。


・SARS-CoV-2感染により間質性肺炎を起こし、胸部CT所見、生理学的な異常が見られたが、早期にステロイドホルモンを投与すると著明な改善効果が認められる。

この研究結果は、まだ予備試験の段階に過ぎないが、検討する価値がある。


治療内容は、0.5mg/kgのプレドニゾロンを初期投与量とした。初期の平均投与量は26.6mg。3週間で減量、中止に至るのがよい


・COVID-19後遺症の間質性肺炎の特徴は、男性が多く(71.5%)、肥満傾向(BMI=28.3)、併存症では喘息と糖尿病であった(22.9%)。平均入院日数は16.9日。82.9% で酸素吸入が必要。55%では集中治療室での治療が必要で46%では人工呼吸器の装着があった。


・検査所見の特徴は、入院中ではCRP、フェリチン、Dダイマー高値が際立っていた。退院時には、いずれも低下していたが後遺症の症状は残存していた。

退院後の肺機能検査の平均は、FVCは91.9%、TLCOが60.6%であり、ステロイド投与例では、努力性肺活量(FVC)は86.4%、TLCOは56%とわずかに低値であった。


・30人の患者全員がプレドニゾロンによる治療後に息切れと肺機能検査が大幅に増加した。


・重症例の胸部CT所見ではCOVID-19により死亡し、病理解剖を実施した時には器質化肺炎の所見であった場合と一致していた。




 COVID-19による後遺症が問題となっています(コラムNo.124,177)。この論文は、感染により多数の死亡者が出た英国での治療経験を報告したものです。パンデミックの中とは言え初めてのいわば実験的な治療法が効果を上げたことは幸いでした。

 本論文では、治療法と結果は、明確で恐らく大部のスペースをとるものではありませんが、治療に至る方法論を詳しく述べることにより透明性を高くしようと考えたものと言えます。医療倫理の上では、平時では許されないプロセスですが、現場で働く医師たちの苦悩が推測される論文です。編集者が述べているように[2]、この論文の成果がさらに後遺症治療の発展に結びつくことを期待したいと思います。



参考文献:


1.Myall KJ. Et al. Persistent post–COVID-19 interstitial lung disease: An observational study of corticosteroid treatment

Ann Am Thorac Soc 2021; 18, 799–806. DOI: 10.1513/AnnalsATS.202008-1002OC


2.Aronson KI. Et al. Lungs after COVID-19: Evolving Knowledge of Post–COVID-19 Interstitial Lung Disease

Ann Am Thorac Soc 2021; 18: 773–779.DOI: 10.1513/AnnalsATS.202102-223ED


※無断転載禁止

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