• 木田 厚瑞 医師

No.177 新型コロナ感染、3カ月後の後遺症


2021年6月28日


 わが国では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の患者総数は78万6,130人に達し、死者は、10,461人です。他方、これまでに退院した人たちは、52万7,892人です (2021年6月22日現在)。

 退院者の中には、少数ですが再陽性者も含まれています。報道は、新規感染者の数字、拡がりに目が向けられていますが、退院した人たちにその後、どのような身体的な悩みがあるかについてはほとんど知られていません。私が診ている患者さんの中にも、COVID-19の治癒後に身体の不調を訴える人が見られるようになってきました。


 COVID-19の治癒後の人たちは、その後、どのような生活をおくっているのか。医療者だけでなく多くの人たちの関心事だと思われますがその実態は不明です。ここに紹介する論文[1]は、カナダ、オタワの病院からの報告ですが、今後の参考になると思われます。




Q.何が問題か?


・入院が不要とされた軽症COVID-19感染者の健康状態についてのデータはほとんどない。


回復後4カ月での、重症で入院となった人たち、および入院不要とされた軽症者ではその後、症状が持続していないか、肺機能の低下がないか、生活面での機能障害がないか、が問題である。




Q.解析の方法と対象は?


・急性期の症状は5段階のどれに相当するか

➡5段階スケール:なし(0)~非常に強い(4)。

 治癒後3ヶ月目の症状はどれに相当するか

➡6段階スケール:なし(0)~今でも最悪(6)。


・検査内容:心臓超音波検査。肺機能検査。次第に強度を上げていく運動負荷テスト。




Q.解析結果は?


・2020年6月より10月までにオタワの病院に受診した91人のうち、研究に協力し、かつ基準に入る63人が対象。PCR検査による診断確定後、平均119.9日。


・入院患者は、より高齢で基礎疾患が多かった。


倦怠感(入院患者の92.0%, 非入院患者の97.4%)、労作時の息切れ(入院患者の76.0%、非入院患者の71.1%)。その後のフォロアップでも倦怠感(入院患者の76.0%、非入院患者の71.1%)、労作時の息切れ(入院患者の68.0%、非入院患者の55.3%)であり、これらが長期に認められる二大症状となっている。


・肺機能検査では、肺活量と肺拡散能の低下は入院患者群でみられた。


・運動中の酸素摂取量は、入院群で低下(入院群:64.3%, 非入院群:83.5%)。


・心臓超音波検査では、左室拍出量は、両群で差がなかった。

 運動中の最高脈拍数は入院群で大きく、酸素飽和度は入院群が大きかった。


・心係数は入院群では予測値の64.3%,非入院群では83.5%に低下していた。


注:心係数CIとは心臓が拍出した血液量を個々人の体表面積で正規化することにより心臓のポンプ機能が良好であるかを評価することが出来る有用な指標である


・同じ酸素消費量での比較では労作時の息切れ、下肢の疲れやすさは入院患者では高値であったが運動終了後では両群には差がなかった。




Q. COVID-19後にみられる変化は?


・倦怠感の持続と労作時の息切れ、肺機能障害、運動能力の低下は感染後、4か月後でも見られたがこれはこれまでの報告と一致する。


・入院が必要な重症例では、肺に後遺症があるが、肺機能検査では肺活量、肺拡散能の低下が見られる。


・肺以外の問題点では、換気量は保たれているにも拘わらず労作時の息切れが強かった。


・COVID-19後の50%以上で最大酸素摂取量が予測値は85%以下に低下していたがこれは、COVID-19以外の原因で生ずる急性呼吸窮迫症候群の後遺症の場合に一致している。


・運動時の息切れは後遺症では呼吸器と心血管系が合わさった原因で生ずる。


・傷害を受けた組織に血流が行き届かない状態は特に下肢の筋力低下を起こすがこれは循環する血液中の酸素不足が問題と推定される。筋力低下が筋疲労を強める結果となっている。身体機能低下(Physical deconditioning)が問題であり、適切な運動指導が必要である。


・肺の容積変化、ガス交換能の異常は軽度だが運動能力が大きく低下する。特に下肢筋力の低下が問題である。軽症で入院が必要でなかった場合でも重要な問題点となっている。




COVID-19は、急性呼吸器感染症です。胸部CT画像では、肺のガス交換機能を担っている肺胞レベルにスリガラス状の陰影を特徴とする異常陰影が散在しているのが特徴です。

 気道の広い範囲に病変がある喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)では、咳、痰、息切れが特徴的な症状ですが肺胞だけに留まる病変は、酸素を取り入れる機能が大きく傷害を受けます。繊細な肺胞構造が広い範囲で傷害を受けると低酸素血症を起こします。長い間に低下を補う代償機転が働く可能性が強いと思われますが、COVID-19の重症例が高齢者で基礎疾患が多い人に重症化リスクが高いことが問題です。この論文では、日中の行動や大きく制約されることを示していますが、夜間睡眠中にも低酸素血症は高度になる可能性があります。COVID-19の後遺症の治療では、この点にも十分、考慮すべきである、と考えています。




参考文献:


1. Abdallah SJ. et al. Symptoms, pulmonary function and functional capacity four months after COVID-19

Ann ATS in Press. Published April 19, 2021

DOI: 10.1513/AnnalsATS.202012-1489RL


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