2019年12月2日
COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)が重症になると血液中の酸素不足だけではなく(低酸素血症)、二酸化炭素が上昇してくるようになります(高二酸化炭素血症)。
これが長く続くと頭痛や倦怠感、不眠などの症状が加わり、息切れだけでも苦ししんでいる患者さんをさらに苦しめることになります。
在宅酸素療法を行っている患者さんでは低酸素血症が強いので、酸素の吸入量を増やす必要が出てきます。しかし二酸化炭素がたまる患者では酸素の吸入量を増やすと、高二酸化炭素血症が強くなり、それ以上には酸素量を増やせないということが起こることがあります。
低酸素血症と高二酸化炭素血症を同時に治療し、問題を解決しようとする治療が酸素療法に加えて実施されるNPPV(非侵襲的陽圧呼吸法)です。
NPPVはマスクをして空気が漏れない状態にして一定の圧をかけて空気を送りこむ治療法で、人工呼吸療法の一つですが保険診療のもとで自宅でもできるようになりました(在宅人工呼吸療法)。
在宅人工呼吸療法は、現在、入院して送り込む空気の圧を調整し、安全でもっとも効果的に低酸素血症、高二酸化炭素血症を治療できる条件を決めます。
最近、オランダのグループは遠隔医療を利用して在宅でも条件設定ができることを発表し、注目を集めています [1]。
Q. 研究の方法は
計117名の重症COPDで低酸素血症と高二酸化炭素血症がある患者さんの了解を得て、在宅群と病院群に分けてNPPVの導入を実施しました。
途中で中断などが多く、最終的には在宅群23名、病院群26名が導入後6か月目までの経過を追跡することに成功しました。
Q. 在宅での導入方法
専門看護師が最初に患者宅を訪問、機器を詳しく説明した後に開始しました。
低酸素血症、高二酸化炭素血症は、皮膚で測定してインターネットを利用してデータを送付します。さらにNPPVの機器には自動的に詳しい治療データを継続的に管理センターに届ける仕組みがついています。
導入後は3カ月ごとに自宅を訪問して詳しく効果を検証しました。
NPPVは主に夜間就寝中に使用しました。
Q. 在宅NPPVの効果は何か
・6か月目のデータ比較では、6分間平地歩行テストでは在宅NPPV群は、歩行距離は179mが212mに伸びました。入院NPPVは194mが231mに伸びましたが統計的には差はありませんでした。このことはNPPVの開始で行動範囲が広がったことを意味します。
・肺機能の変化には差がありませんでした。
・もっと大きな差は総費用にあり在宅NPPVは入院NPPVの半額でした。
Q. 在宅NPPVの利点は何か
患者さんが自宅で落ち着いた環境でゆっくり時間を取れることです。吸入圧を高めていくときも病院よりもリラックスしているので苦しくなるのが軽度です。NPPV開始後は低酸素血症、高二酸化炭素血症が改善し、より生活が快適となります。また、NPPVの使用時間がきちんと守られています。
Q. 在宅NPPVの欠点は何か
途中で中止となったのは在宅が22%、入院が16%。COPDが経過中に悪化する増悪回数には差がありませんでした。入院で開始するよりも送り込む圧は少し低めにせざるをえません。ベッドサイドで様子が分かる場合にはぎりぎりまで上げることが可能でした。
NPPV開始で強制的に送りこまれる空気が食道、胃に入り苦しくなることやマスクの周囲がただれたこともありました。朝方にNPPVを外したら急に呼吸が苦しくなるような例がありましたが、それ以外の特別の問題点はありませんでした。
NPPVの機器は急速に進歩しています。
これまではCOPDが重症になると在宅での治療が難しく、長期の入院生活を余儀なくされました。この研究のように遠隔医療を利用することにより在宅での生活が入院と同じくらい安全で、しかも、はるかに快適な生活に改善していく様子が見えてきました。
課題は高度に訓練された看護師、医師がチームを組んで治療を進めていくことです。
私たちもこれに向かって準備を急ぎたいと考えています。
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