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No.24 COPDの発症は胎児のころから始まる

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 2019年12月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年3月15日


2019年12月19日


 COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)は、タバコ病とも呼ばれてきました。しかし、研究が進んできた現在、この呼び方は正しくありません。

タバコを吸う人の中でCOPDになる人は20%以下と言われています。

タバコを吸わない人でも重症のCOPDとなることがあり、実際そのような患者さんを時々診ることがあります。


この論文は、COPDの淵源が胎児期にあることを解説した論文で、著者は小児科医です。小児科医によるCOPD原因論の解説もまたユニークな点です。




Q. COPDの発症


 原因論から3つに分類しています。


・1番目は、成人になって喫煙習慣がある人です。

これは、成人になって同性同年齢の人たちと比較したときに肺機能検査値の中でも1秒量(FEV1)がすでに低値の人たちです。このグループでは、そのまま低下が進めばCOPDとなる可能性が極めて高いといえます。


・2番目は、胎児期からリスクに曝され続けた結果、発症する場合です。

胎児期に母体の健康状態が良くない場合、例えば母親が喫煙者の場合など。

また乳幼児期に肺炎や、重い気道感染を繰り返した場合です。


・3番目は、遺伝性の素因が濃厚な場合です。

本人が重症のCOPDで親兄弟にCOPDや喘息、肺がんがいたという患者さんをたくさん診てきました。

3番目が、1番、2番にも影響を与えていることは確実ですが、多くの研究にも拘わらず、COPDを起こす遺伝子はまだ特定されていません。




Q. 遺伝子と胎児、乳児期の状態に影響する因子


 著者は、次の5つのリスクファクターを挙げています。ただし、リスクがあるだけではなく発症に関わる遺伝子がありそうだとも推定しています。


・母が喘息

・母が喫煙者

・父が喘息

・患者の乳幼児期に喘息あり

・患者が乳幼児期に呼吸器感染を繰り返した




Q. 胎児期と生下時の体重


 妊娠の37週以前に生まれた子供は、将来、肺機能が低下しやすいことが知られていますが、報告により異なり、必ずという意味ではありません。

また、低体重で生まれた子供もCOPDとなるリスクが高いことが判明しています。これらの場合は喫煙だけでなく職業的に有害物質に曝露されるような環境も避ける方が望ましいといえます。




Q. 帝王切開で生まれた子供


 産道で無害な多数の菌に曝露されることが少ないため、帝王切開で生まれた子供がアトピーに罹りやすいといわれています。




Q. 幼児期の環境


 乳幼児には屋内で生活する時間が長いので室内汚染が問題となります。

特に、煮炊きや暖房での煙の吸入は有害で、その後の肺機能低下に影響を与えます。




Q. 肺胞形成


 人の肺胞総数は約3億個といわれていますが、総数にはかなりの幅があることが知られています。最近の研究で7歳から21歳までの肺胞数を特殊なヘリウムガスを吸わせて測定した結果では、肺胞径に差がなかったと報告されています。

他方で肺容積は、21歳は7歳と比較するとかなり大きくなっているので肺胞総数が増加したことになります。

肺の成長は早いうちに止まるとされていましたが、現在では身体の成長が止まる思春期の終わりごろまで続くと考えられています。

したがって、思春期からの喫煙開始は、肺胞の形成が障害されCOPDとなる危険があります。




 COPDの発症の原因では、詳細な喫煙歴、職業歴に加え家族歴が情報として極めて大切です。また、重症度は肺機能検査だけでなく詳細な胸部CT所見は、治療開始後の見通しを立てる意味からも重要です。

COPDの治療では、合併症 (併存症と呼ばれています)を詳しく調べること、COPDの治療と平行してその管理も大切です。




参考文献:

1.Bush A. Lung development and aging. Ann Am Thorac Soc 2016; Supplement 5, S438–S446


※無断転載禁止


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