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No.281 コロナ後遺症:肺および肺以外の症状

2023年6月14日


 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のあと、長い間、倦怠感や筋肉痛などさまざまな症状が続く状態はロングコロナ(Long COVID)あるいはPASCコラムNo. 280参照)と呼ばれています。


ここで紹介する論文[1]は、英国の女性研究者からの報告ですが筆者は呼吸リハビリテーションの第1人者であり、第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会(2022年11月、幕張)で招聘講演を行うなど日本人研究者にとっても距離感が近い存在です。

論文の中でPASCを肺の病変と肺以外の病変に分け、薬物的な治療と非薬物的な治療に分けて論じています。急性症状の後、3か月以上にわたり症状が持続する状態は感染者全体の1/3以上におよぶとも言われています。中でも息切れはしばしばみられる症状です。間質性肺炎、肺血栓塞栓症との重複した判断が難しいケースが報告されています。


本論文は、現在までの多くの報告論文をまとめた総説です。今後、「Post-acute Sequelae of COVID-19」(PICS)としてシリーズで掲載される予定です。長い論文ですが、ここでは要点を記します。




Q. コロナ後遺症(PASC)でこれまで報告されている要点は何か?


• COVID-19後の状態(ロングCOVIDとも呼ばれる)は、複数の臓器系に影響を及ぼし、 肺の後遺症および肺以外の臓器の傷害を起こし、持続的な息切れ(呼吸困難)を引き起こす可能性のある不均一な臨床症候群である。


• COVID-19の肺の後遺症には肺血栓塞栓症がある。肺血管系に血栓と微小血管血栓がみられる。COVID-19後の慢性血管疾患の根底にあるメカニズムを解明して、 診断および治療アプローチに情報を提供するために、さらなる研究が必要である。


• 重度のCOVID-19は肺胞の損傷を引き起こし、間質性肺炎で見られると同様の線維形成がみられる。特に家族内に間質性肺炎がある場合には遺伝的な影響で間質性肺炎を起こしやすい。COVID-19が誘発した肺損傷を軽減する薬物治療法は、これらの影響を軽減する可能性が高いが、長期的な治療効果は不明である。

• 軽度から中等度の喘息やCOPDなど、既存の呼吸器疾患があっても適切に治療管理されている人では、重症のCOVID-19となるリスクは高くはない。ただし、喘息またはCOPD の人は、COVID-19後に症状が悪化する可能性がある。

• COVID-19後の状態の人で感染前にすでに呼吸困難がある場合には、肺以外の後遺症として、身体的な障害が増悪するほか、新たにフレイル、プレフレイルとなることがある。身体活動度の低下、栄養障害、低酸素血症、全身性の炎症所見、免疫学的な異常による障害など、さまざまな要因がこれらの後遺症の根底にある可能性がある。


• COVID-19後の息切れを改善するための現在のリハビリテーション戦略では、集中治療室で管理された後の治療や重症の慢性呼吸器疾患で用いてきた治療法の応用がある。包括的な呼吸リハビリテーションプログラムおよび理学療法がある。




Q. コロナ感染で肺に間質性肺炎を起こす機序と従来型の間質性肺炎の機序の類似点とは?


出典: Singh SJ. et al. Lancet Respir Med 2023, Published online May 19, 2023より一部邦訳修正


 従来型のIPFの機序:肺胞を構成する細胞群の変化が起こる。I型肺胞上皮細胞の消失とこれを修復するための新しい細胞群の増加が起こる。

注)IPF(特発性肺線維症)は肺線維症の約半数を占めており、発症原因は不明である。IPFは「特発性間質性肺炎」の一種で、国の指定難病に指定されている。


 COVID-19 とIPFの共通機序:両者ともにI型、II型の肺胞上皮細胞のアポトーシスが起こる。COVID-19では、ウィルス(SARS-CoV-2)がII型肺胞上皮細胞に直接、感染。これに伴いマクロファージの活性化、免疫細胞の動員が生じ、サイトカイン・ストームと呼ばれる前炎症性サイトカインが産生される。その結果、肺胞上皮細胞、血管内皮細胞が障害され線維芽細胞が活性化されコラーゲンを含む細胞外マトリックスが集積し、間質性肺炎を起こしやすい人では間質性肺炎が起こる。治療効果はある程度、期待できるが長期的に変化が改善していくかどうかは不明である。




Q. 今後の研究が必要な問題点は何か?


• COVID-19後の状態で息切れの症状を引き起こす根本的な機序は何か?


• COVID-19後に起こる間質性肺炎の発症を緩和または予防するための治療法は何か?


• COVID-19に関連して起こる血栓症が、従来知られてきた古典的な肺血栓塞栓症とはどこが異なるのか?もし異なるなら、治療法および予後への影響は何か?


• COVID-19後の肺血管病変を検出するための最適な診断または画像診断方法は何か?


• COVID-19後にみられる喘息、COPDのコントロール不良を改善していくメカニズムは何か?


• COVID-19後の息切れに寄与する肺外合併症(例えば、フレイル、サルコペニア)の発生率はどれくらいか?




Q. COVID-19の後遺症(PICS)として息切れを起こした場合の臨床的な判断の進め方は?


出典: Singh SJ. et al. Lancet Respir Med 2023, Published online May 19, 2023より一部邦訳修正




 COVID-19の治癒後に咳が続く、息切れがあるという理由で受診する方が多くなってきました。もともと喘息の治療歴があった人で咳が続く場合と、既往症がなくて咳が続く場合があります。間質性肺炎の特徴的な症状の一つに咳があります。間質性肺炎を疑わせる肺の病変があるかどうかは重要な点であり、胸部CTや精密な肺機能検査での確認が必要となります。また、感染後に胸部CTで変化がみられた場合は、将来、肺がんのリスクがあるという点も重要です。間質性肺炎と肺がんの合併が多いことが知られています。




参考文献:


1. Singh SJ. et al. Respiratory sequelae of COVID-19: pulmonary and extrapulmonary origins, and approaches to clinical care and rehabilitation.

Lancet Respir Med 2023, Published online May 19, 2023 https://doi.org/10.1016/ S2213-2600(23)00159-5


※無断転載禁止

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