2021年4月1日
間質性肺疾患(ILD)は、肺の組織が広範囲に炎症、線維化を起こし、呼吸によるガス交換の働きが損なわれてしまう病気です。
ILDは、原因、検査や、経過などで細分類、細細分類していくと100種類を越えるのではないかと云われます。その代表は、発症の原因が不明の特発性間質性肺炎(IPF)と、その対極にあるのが、カビなど特定の物質を吸うことによる原因があり発症する過敏性肺炎です。後者はくり返し起こすことにより肺組織の線維化が進み、進行した慢性過敏性肺炎(CHP)では、胸部高分解能CTなどの所見でも両者の区別が困難なことがあります。
ヒトの腸内には、約40兆個の細菌が存在していると云われています。また、これまで健康人の肺内には細菌はいないと考えられていましたがここにも多種の菌が常在していることが明らかになってきました。さらに、肺と腸内の細菌の間には連絡(クロストーク)があるようで呼吸器の慢性疾患が発症したり、悪化する機序と深く関わっているのではないか、と推定されています。これらの慢性呼吸器疾患には、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など日常的に極めて頻度の高い疾患が候補に挙げられています。
ここで紹介する論文は、慢性過敏性肺炎と特発性間質性肺炎のマイクロビオームが著しく異なり、特に後者が悪化していく過程では、大きな役割を果たしていることを明らかにした論文です[1, 2]。
Q.これまでの研究は?
・肺マイクロビオームは、血液中を流れる自然免疫の活性化と関わっている。
・肺マイクロビオームのα多様性と呼ばれる分類の増加は肺胞に起こる炎症の低下と関係している。
・動物モデルでは、肺マイクロビオームの変化が肺の線維化に先行し、マイクロビオームの根絶が線維化を抑える作用がある。
・Invernizziら[2]は、IPFの悪化が、肺内のマイクロビオームの増加によるものであり、線維化の悪化に伴って生じた結果ではなく原因である可能性があるという。
Q.IPFとCHPの違い?
・両者ともに肺組織の線維化を特徴とする。
・画像、病理所見では区別できないことが多い。
・予後は、IPFは不良。CHPは良好。本研究では4年間の経過でCHFの死亡例は25%以下であったがIPFでは50%以上であった。
・環境による抗原曝露の存在、IPFではなし。CHPではあり。免疫抑制剤の効果は、IPFでは有害、CHPは有効のことが多い。
・CHPではマイクロビオームの関与は少ない。IPFは健康人と比較しても大きい。
・しかし、IPFでは細菌のうちフィルミクテス、プロテオバクテリウムの存在量はCHPよりも少ない。属レベルではブドウ球菌は、IPFよりCHPでは、より多かった。
・全体としてミクロビオームの変化は結果というより原因を反映している可能性が高い。
・IPFではマイクロビオームの変化により特有の傷害が起こりやすくなっているのではないか?
・IPFでは肺ミクロビオームの構成が脆弱で傷害を受けやすくなっているのではないか?この点からIPFに関わる遺伝的なリスク因子が自然免疫、あるいは宿主防御遺伝子に関わっていることが注目される。
本研究は、原因が不明のIPFと吸入抗原など原因が明確なCHPを対比させ、マイクロビオームの関与の仕方を明確にしようとしたところに特徴があります。
肺マイクロビオームは喫煙の影響を強く受けることが知られており、恐らく加齢変化もあるに違いありません。
さらに、新型コロナウィルス感染症で見られる肺胞レベルの広範な傷害は、恐らくマイクロビオームがウィルス感染により大きく傷害され、修復に時間がかかる可能性も推測されます。肺マイクロビオームに関する今後の研究の動向に注目したいと思います。
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