No.231 喫煙による肺傷害は回復するか?

2022年1月15日


 COPDは、喫煙が原因で起こる呼吸障害ですが、実際は喫煙者の15~25%が傷害を起こすといわれ、他方で非喫煙者でも10%近くがCOPDを起こすことが知られています。

 喫煙で生じた肺機能傷害をすでに起こしているCOPDが、この先、どの程度、回復していく可能性があるのだろうかという問いは、呼吸器医だけではなく、喫煙者の方の興味でもあると思われます。


 多くの慢性呼吸器疾患は、高血圧や糖尿病のように基準を数値化することができないところがあります。特に重症の呼吸器疾患では、詳しい症状や経過の変化に加え、聴診で特有の身体所見を知る、さらに胸部CT像や肺機能検査を参考にする、さらに治療の反応性を参考にしてようやく病気の全貌にたどりつけることをしばしば経験します。COPDの初期病変の回復を予測できるかどうか、ここで紹介する論文[1]はこの問題を解明しようとしたものです。


解析にあたっては、Delphi法という統計方法を用いて、COPDの専門研究者の意見を統一させるところから開始し、ついで軽症者を含むSPIROMICSと呼ばれるCOPDの患者集団にあてはめ、喫煙者に生じた肺傷害の回復の割合を算定し、回復の目安を明らかにしています。




Q. Delphi法により臨床研究を実施した呼吸器疾患とは?


 呼吸器疾患には共通して、単一の基準で改善、悪化の判断ができにくいのでDelphi法により臨床研究を実施したものが多い。以下が現在までに報告されている項目である。


・慢性過敏性肺炎の診断基準の開発(2018年)、COPDの早期管理(2019)、喘息治療目標のフレームワーク(2020年)、および特発性肺線維症の急性増悪の定義、診断、および治療に使用されて来た(2015年)




Q. 本研究におけるDelphi法とは?


SPIROMICS研究プロジェクトに属するCOPD専門家(n=72)のパネルを対象に、3ラウンドの修正Delphi法を実施し、肺関連の回復力のある喫煙者の定義に含める臨床およびX線撮影の領域について合意を求めた


・レジリエンスのドメインに関するコンセンサスは、専門家の⩾80%が5ポイントのリッカート尺度「同意する」または「強く同意する」と投票したと定義された。

リッカート尺度で1から5の間で投票された専門家間で(強く同意しない、同意しない、同意も反対もしない、同意する、または強く同意する)の討議をくり返し、投票比率により項目の決定を行った。




Q.  本研究の結果は? 


・12の診断項目のうち以下の6項目でコンセンサスが得られた。咳と喀痰の症状、呼吸困難、胸部CT像による肺気腫と末梢気道の画像写真測定、増悪回数、1秒量の減少


・SPIROMICSプロジェクトの参加患者、892人の中で、肺機能が維持されている喫煙者を分類した。そのうちで先の修正Delphi法により得た項目を当てはめると149人の参加者(16.7%)のみが回復力のある喫煙者と判定された。検査項目では高感度CRP(C反応性タンパク質)およびsTNFRSF1A(可溶性腫瘍壊死受容体因子1A)の血液バイオマーカー発現が、回復者で低かった(P = 0.02およびP = 0.03)。




Q. 臨床応用をどのように考えるか?


・理想的な心臓血管の健康を定義する上での心臓血管研究グループは、「コレステロール」がバイオマーカーであるだけでなく、健康からアテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、心血管死への経路における原因物質であるという発見から、啓蒙活動を展開し、米国の心血管死亡率が改善された[2]。


・呼吸器疾患の予防策を講ずるにあたり、「肺のコレステロール」にあたるデータが不足しており、分かりにくいものになっている[2]。

本研究では高感度のCRP測定で炎症反応が強い場合には、COPDの改善が望みにくいことを示唆した。




 禁煙したが、改善効果が、実感できず、再喫煙に戻った患者さんがたくさんいます。本研究から得られた、高感度CRPの測定は、私たちも簡便にできるので臨床応用ができます。

 また、高感度CRPの値は動脈硬化の進行に指標ともなるので心臓、肺の健康の指標と見なすことができます。




参考文献:


1.Oh AL. et al. Defining Resilience to Smoking-related Lung Disease. A Modified Delphi Approach from SPIROMICS

Ann Am Thorac Soc Vol 18, No 11, pp 1822–1831, Nov 2021

DOI: 10.1513/AnnalsATS.202006-757OC


2. Meza DA. et al. Defining resilience: A critical step to promote respiratory health

Ann Am Thorac Soc Vol 18, No 11, pp 1780–1785, Nov 2021

DOI: 10.1513/AnnalsATS.202106-758ED


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