No.238 重症の新型コロナ感染症:どのように経過するか?

2022年2月24日


 新型コロナウィルス感染症(Covid-19)は、第5波と第6波を比較すると圧倒的に高齢者層に増加しています。東京都の年代別入院患者の比較では第5波(2021年9月1日時点)では60歳以上は、28.6%でしたが、第6波(2022年2月16日時点)では69.8%に達しています(読売新聞朝刊、令和4年2月19日)。


デルタ株による感染は、若年者層では下気道病変(肺病変)が多数みられ、低酸素血症を起こし重症化することが多かったのに対し、オミクロン株は、咳を特徴とする上気道症状が中心で肺病変は少ないとされてきました。これまでも、インフルエンザの流行年では、高齢者の重症化による死亡例が多数みられました。インフルエンザ・ウィルスによるウィルス性肺炎はむしろ少なく、インフルエンザ感染により広く下気道が傷害を受けた状態に、細菌性肺炎が合併することにより重症化することが特徴です。この場合の肺炎は、比較的元気で自宅で生活している高齢者が肺炎を発症することから市中型肺炎と呼ばれています。市中型肺炎の起炎菌は、肺炎球菌が圧倒的に多いことが報告されています。

現在、オミクロン株に感染した高齢者が重症化している理由は、恐らく、これに近い機序で市中型肺炎が多いのではないかと思われます。


重症肺炎では、重篤な低酸素血症を来し、呼吸不全と呼ばれる状態となり、これが元で、全身の臓器機能が機能障害を受け、一気に重症化します。

 ここで紹介する論文[1]は、欧州呼吸器学会が発行したCovid-19を呼吸器診療からみた特集号に掲載されたものです。執筆段階では、オミクロン株はまだ取り上げられていません。また、流行初期に多数の発症患者がみられたイタリアでの経験が元になっています。




Q. 重症コロナによる死因とは何か?


・新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による急性ウィルス性肺炎➡これによる高度の低酸素血症(呼吸不全)。


・肺以外の多臓器傷害➡心臓、腎臓、神経系、血管系(血栓など)の合併症の悪化。




Q. 重症コロナによる医療体制の問題点は?


・急速な感染拡大により重症患者の増加、これに伴う医師、看護師を含む多職種の医療者が必要となり患者のケアを重点的に行う体制が維持できなくなった。院内感染を防ぐ専用ベッド数の確保が困難となった。

➡適正な医療体制の維持が困難。

➡院内感染予防に対する取り決め、装備、人員配置の再構築が必要となった。




Q. 重症コロナの呼吸管理とは?


・Covid-19の約20%の患者が急性呼吸不全あるいは、ARDSとなる。


・ARDS(acute respiratory distress syndrome)とは、邦訳は急性呼吸窮迫症候群(コラムNo. 47参照)。


・ARDSでは呼吸管理を含む全身管理が重要➡重症呼吸不全の治療➡酸素治療、ネーザル・ハイフロー装置、非侵襲性ベンチレーター、挿管による人工呼吸器などの治療法を要する。




Q. 重症コロナの後遺症は?


・肺以外の多臓器傷害として心臓、腎臓、神経系、血管系(血栓など)の後遺症がありうる。


・入院生活による苦しいストレス状態の長期化➡退院後のメンタル機能に影響を与える。


・心因的、精神的な影響が持続する理由➡致死的な重症疾患に罹患したという心因的なトラウマ。他の人たちに感染させたのではないかという不安感。感染が自分にとって不名誉であると思う汚名、恥辱に対する自分に対する怒り。加えて、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染が引き起こすメンタル機能の異常が推定されている。




Q. 症例1の提示


・60歳、男性。1週間の発熱、呼吸困難の悪化で入院。合併症や既往症なし。PCR検査陽性。

入院時の呼吸数は22/分。呼吸困難で見られる頸部の呼吸補助筋を使う身体所見なし。 動脈血所見:PaCO2=29mmHg (正常値:35~45mmHg)、PaO2=54mmHg(正常値:80~100mmHg)。

➡低酸素血症あり、治療目的でヘルメット型CPAP装着。Covid-19に対する投薬開始。

入院30日後に低酸素血症は改善し、酸素投与なしで退院。



・入院時の胸部CT所見

図:Amati F. et al. Respiratory failure: a patient’s perspective and clinical casesより一部改変


右側の肺野に淡いスリガラス状の陰影が多発している。

A→B→Cの順で上肺部、中肺部、下肺部のCT像を示す。

(以下の図も同様である)



・入院10日目の胸部CT所見

図:Amati F. et al. Respiratory failure: a patient’s perspective and clinical casesより一部改変


左右の肺野により濃くなった不規則な浸潤陰影が多発している。これは、crazy paving (不規則なひび割れ敷石状)と表現される。



治療を受けた患者の感想。

「入院当初は、Covid-19の感染に気をつけるよう指示されたことをきちんと守っていたにも拘わらず感染した自分自身に対し怒っていた。入院中、重症であった時期は、ほとんど立つことができず機器を装着し、しかも、肺の状態を改善する目的で、腹臥位で寝るように指示されていたのが苦しかった。肺は日ごとに重く感ずるようになり、逆に足に力が入らなくなってきた。医師、看護師らの医療者が励ましてくれ、心強かった。機器がとれてからは同室の他の患者と励ましあった。検査結果を心配してもしようがないと思った。いまは回復できて本当に感謝している」。




Q. 症例2の提示


・64歳、男性。基礎疾患なし。咳、発熱、無気力状態となり、受診。当初は抗生物質を投与されたが、PCR検査陽性と判明し、入院となった。

入院時には高度の低酸素血症で、気管内へのチューブ挿管により人工呼吸器を装着した。同時に投薬開始。2日後、人工呼吸器は外すことができた。

検査データではCRP値、Dダイマー値、LDH値が上昇してきた。



・入院後10日目の胸部CT像

図:Amati F. et al. Respiratory failure: a patient’s perspective and clinical casesより一部改変


両側肺野には広い範囲にわたりスリガラス陰影に加えて微粒子状の陰影が散在。さらに小葉間の隔壁の肥厚が広範に見られる。また、空気が肺外に漏れでた縦隔気腫の状態が軽度、認められる。



・入院後25日目の胸部CT像

図:Amati F. et al. Respiratory failure: a patient’s perspective and clinical casesより一部改変


縦隔気腫は改善した。先にみられた陰影はところどころで帯状の浸潤陰影として残存し、間質性肺炎に近い像に変化している。全体には改善傾向にある。



・退院後3か月目の胸部CT像

図:Amati F. et al. Respiratory failure: a patient’s perspective and clinical casesより一部改変


両側肺の間質性陰影はかなり改善してきた。




Q. 治療方針からCovid-19はどのように分類されるか?


・検査データおよび検査値からDupontらは3型に分類している[2]。


I型(=液性免疫異常型、humoral immunodeficiency): Bリンパ球減少およびγグロブリン低下。


II型(=高度炎症型、hyper inflammation):血中の多種サイトカイン上昇がある。

CD4+、CD8+リンパ球の異常が生じ、IL-6, IL-1α、IL-8、TNF-αの上昇がある。

このタイプが集中治療室で治療しても死亡率が最も高い。


III型(=補体依存型、complement dependent)。C3, soluble C5b-9の上昇がある。




Q. Covid-19は間質性肺炎へ移行するか?


・現時点の研究報告は多くない。間質性肺炎へ移行するとすれば、可能性としてSARS-CoV-2によるウィルスの直接作用と肺組織の局所的な免疫異常が考えられる。


・SARS-CoV-1により発症するMERSの追跡調査では感染後、4.6%に間質性肺炎が認められ、発症しても稀と考えられている。


・感染時にCRP上昇、LDH上昇が見られる症例では間質性肺炎へ移行する可能性がある。

ただし、もともと間質性肺炎があったところにCovid-19を起こした可能性がありうるので厳密な検証が必要である。



 

 Covid-19 に関わる臨床データは極めて多数に達していますが、正直なところ、玉石混交であり、見極めが難しくなっています。他方で、治療薬は進歩し、軽症例から重症例まで、使い分けるデータが集積してきており、治療法は今後も進歩すると期待されます。


 ポスト・コロナについては、肺病変だけでなく多種の臓器の後遺症がありうるので長期的なフォロアップ態勢を作り上げることが急務となっています。

 また、高齢者の市中型肺炎の予防策として肺炎球菌ワクチンの接種が勧められています。




参考文献:


1. Amati F. et al. Respiratory failure: a patient’s perspective and clinical cases

In: Fabre A. Hurst JR, Ramjug S, eds. COVID-19 [ERS Monograph]. Sheffield, European Respiratory Society, 2021; pp.1-13[https://doi.org/10.1183/2312508X.10025320]


2. Dupont T. et al. Identification of distinct immunophenotypes in critically ill COVID-19 patients.

Chest 2020; 159:1884-93.


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2022年9月26日 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に罹患し、治ってから、さまざまな症状に悩まされている人が多く診られるようになってきています。long COVIDとも呼ばれています。症状は多彩ですが、注目されているのが「慢性疲労症候群」や「筋痛性脳脊髄炎」という病気との類似性です。 最近のScienceには、査読中のプレプリント版[1]であるが、と断って、新しい研究の意義を解説して