• 木田 厚瑞 医師

No.85 間質性肺炎とCOPDの類似性を明らかにしたトピックス


2020年7月14日

昔、私たちが習った呼吸器病学では、肺の病気は、気道に始まる病気と肺胞に始まる病気に大別していました。前者には、喘息やCOPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)があります。後者には、間質性肺炎と呼ばれる病気があります。間質性肺炎は、肺胞が広い範囲で傷害を受けた結果、炎症を起こし、さらに周囲の気管支や血管構造に線維化に進んでいく、と考えられて来ました。間質性肺炎は多種に分類されています(コラム No.67, 参照)。

しかし、最近、相次いで同じ著者から発表された2つの論文[1, 3]はこのような考え方を根底から覆すものです。間質性肺炎、および同じく肺胞の病気と考えられているリンパ脈管筋腫症(略称、LAM(ラム))がいずれも初期は気道の病変から始まることを示しました。これらの発見が事実だとすれば予防、治療の戦略を見直すきっかけにもなりそうで注目されます。いずれもやや難解ですが間質性肺炎で困っている多くの患者さんの励みになることを期待して紹介します。

両方の論文には、編集者の解説がついていますので併せて解説します。

最初に、論文[1, 2]を解説します。




Q.すでに判明している間質性肺炎と気道病変の関係?

・1977年、当時、間質性肺炎の発症機序について精力的に研究を進めていたCrystal 一派は、細気管支と肺胞の両方に病変が進行すると提唱した。これが研究の背景にある。


・特発性肺線維症(IPF)はMUC5Bと呼ばれる染色体11にある遺伝子の一部が異常で発症する(MUC5B promotor variant)ことがある。これは家族性に発症する場合の34%。IPF全体の30-35%に達する。


・その機序:MUC5Bに異常 ➡ 気道上皮細胞の線毛運動が傷害されやすい ➡ その結果、有害な吸入物質が細い気道内に長くとどまり傷害を与え続ける ➡ 気道の上皮細胞の傷害、炎症の結果、線維化が進む。


・IPFを発症させる因子には、喫煙、職業環境による肺内への有害物質の微量吸引、逆流性食道炎、大気汚染などがあり、これらはいずれも末梢の気道に傷害を与える。



Q. IPFについてどのように研究を進めたか?


・厳密な診断基準でIPFと診断され、肺移植を行い摘出された肺(n=11)と年齢、性、身長、体重を一致させた健常者の肺(n=10)を比較した。なお、肺はベルギー、米国で得られ、カナダ、バンクーバーのBritish Columbia大学で解析を実施した。


・摘出肺を一定の圧で拡張した後、液体窒素蒸気で固定 ➡ 一定の厚さにした標本を、MDCT, micro CTにより撮影。同じ部位を組織標本とした。


・多数の標本で病変を厳密に測定した(morphometry)。


・組織標本で一定の面積当たりの好中球、好酸球、リンパ球、マクロファージが占める割合を算定した。

 



Q.何が判明したか?


・IPFでは終末細気管支が傷害され、壁の肥厚、変形が広範に見られる。

・IPFでは単位容積あたりの細気管支の全体数は、健常者の約2倍ある。

・軽度の線維化でも肺容積1ml あたり57%減少している。線維化が完成した病変では66%が減少する。




Q.さらに何が推定されるか?


・IPFを発症しやすい人は、成長段階で細気管支の数が多いのではないか。あるいは、線維化が進むと同時に細気管支も増えるのではないか。

➡ 論文の中心となるデータであるがその結果の解釈は難しい。


・IPFでは進行すると肺組織にリンパ濾胞と呼ばれる組織が増えるが、同じ現象は重症のCOPDで死亡した人の肺にも認められる。これは、従来、リウマチなど結合組織病で合併した間質性肺炎でも見られる所見であるが肺組織で免疫異常が起っていることを示唆する。


・COPDでは肺胞が広く壊れる肺気腫と細気管支炎が共存するが肺気腫が高度になると細気管支炎の壁にリンパ濾胞が形成される。これはIPFに見られる組織変化と類似しており免疫異常が関与していることを示唆する。


・IPFの原因の一つが喫煙であるが、非喫煙者, 軽喫煙者、重喫煙者の間で終末細気管支の数は統計的な差がある。重喫煙では減少が著しい。

 リンパ脈管筋腫症(LAM)は、稀な病気ですが妊娠可能な年齢の女性にみられます。発症後、10-20年間に肺胞が広く嚢胞状に広がり、反復して気胸、胸水に加え腹部の臓器に腫瘍を認める病気で難病指定となっています。これは、LAM細胞と呼ばれる平滑筋細胞が異常に増殖し、細胞を構築する間質構造を壊し、細胞死をもたらし、肺組織が嚢胞に変わり、その結果、肺機能が低下してしまう病気です。これについて、先の研究とほぼ同じ手法で細気管支の変化を調べています[3,4]。




Q. LAMの肺についての細気管支の病変は?


・LAMで肺移植した 5例、健常者の摘出肺、5例について胸部CT, micro CTを用いて、先の研究とほぼ同じ手法で検討した。


・LAMでは細気管支の数は健常者の3-4分の1に減少していた。


・病変が進行すると細気管支が虚脱状態となり機能する細気管支が激減する。


・その状態に炎症が加わり、少なくなった細気管支を閉塞してしまう。


・LAMは肺胞の病変ではあるが始まりは細気管支である。




 1950年代から60年代にかけて肺の生理機能に関する研究は急速に進みました。気道を通り抜ける気流の速さを正確に測定する研究が進み、間質性肺炎など肺胞に広い範囲で病変が起っても肺の容積が小さくなっても吐き出す流速が低下しないという現象から、肺胞の病変と、気道の病変を区別しようという考えが進んできたと云われます。これに対し、1970年にMead [5]が、健常な肺では、気道の細い部分には気流が流れる際に抵抗が全体の20%以下に過ぎないという研究が発表され、その結果、COPDの初期病変が細気管支から始まることが明らかにされました。

 ここで紹介した2つの論文は最近、相次いで発表されましたが、肺胞に広く起る病変もスタートが細気管支であることを明らかにしました。臨床的には、気管支拡張薬や吸入ステロイドが多少なりとも効果的で息切れを改善したり、あるいは病気の進行を少しは緩和する可能性が期待でき、今後の研究が待たれます。



参考文献:

1. Verleden, SE.et al. Small airways pathology in idiopathic pulmonary fibrosis:

a retrospective cohort study

Lancet Respir Med 2020;8: 573–84

2. George PM. Dissecting the role of the small airways in idiopathic

pulmonary fibrosis

Lancet Respir Med 2020;8: 529-531

3. Verleden, SE. et al. Quantitative analysis of airway obstruction in lymphangioleiomyomatosis

Eur Respir J 2020; 56: 1901965

4. Bourdin, A. LAM is another small airway disease: lessons from microCT

Eur Respir J 2020; 56: 2002162

5. Mead J. The lung’s “quiet zone”. N Engl J Med 1970; 282: 1318–19


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