• 木田 厚瑞 医師

No.14 マイコプラズマ肺炎に注意


2019年10月24日


マイコプラズマ肺炎は、健康な成人がかかる呼吸器疾患の3-10%を占めると云われるほどありふれた呼吸器の病気です。

夏ごろから流行し始め、晩秋から冬季にかけてピークとなるのが特徴です。以前にはオリンピック開催年に流行すると云われていました。近年では、この傾向は崩れていますが数年ごとに流行をくり返していますから要注意です。

マイコプラズマ肺炎は、他の細菌性肺炎とは異なる不思議な顔を持っています。




Q.マイコプラズマとはなにか


マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」により引き起こされる肺炎です。マイコプラズマは細菌の一種ですが、自己増殖が可能な最小の微生物という特徴があります。これが第1の特徴といえるものです。つまり肺炎マイコプラズマは、肺炎球菌のような他の細菌とは大きく違っています。


120種のマイコプラズマのうち、ヒトに感染するのは4種類のみでそのうちの一つが肺炎マイコプラズマです。

肺炎マイコプラズマの遺伝子研究ではI型、II型があることが知られ、このうちII型が有害な毒素を産生し、感染すると気管支の内面を覆っている上皮細胞を広い範囲で破壊します。

また、この菌がバイオフィルムと呼ばれる、鎧(よろい)をまとって自身の菌体を守りぬき、身体の免疫能や排除機能に抵抗するやっかいな性質をもっています。これが第2の特徴です。

マイコプラズマは細胞壁を持たないのでペニシリン、セフェムなどの細胞壁の合成を妨げ効果を発揮するような抗菌薬は効果がありません。これが第3の特徴です。




Q.マイコプラズマ肺炎の流行とは


健康に暮らす成人が肺炎になる市中肺炎の2-12%を占めるというくらいありふれた肺炎です。幼児の方が重症になりやすく、入院が必要となる重症のマイコプラズマ肺炎は大人では全体の2%に過ぎませんが、幼児では7.5%です。幼児でも5歳以上が以下よりも頻度が高いと云われています。

高齢者では少ないと云われていますがはっきりとしたデータはありません。時々、マイコプラズマ肺炎による高齢患者さんを診ることがあります。


数年ごとに流行年があり、感染している人のすぐ近くで暮らしている人では90%が感染すると云われるほど強い感染性があります。これが第4の特徴です。

しかし、感染しても全ての人が発症するわけではありません。他方で長期に無症状保菌者のことがあり、その平均期間は7週間と言われています。

一度、感染すると血液の中には抗体ができ一定期間、再感染しにくくなると考えられますが確認したデータはありません。




Q.マイコプラズマ肺炎の症状は


肺炎という病名からは重い症状を想像されるかも知れませんが感染してもしばしば無症状のことがあります。カゼ症状に近い上気道感染から急性気管支炎、さらに肺炎までのさまざまな段階があります。

症状は、発熱、頭痛、倦怠感、咳、咽頭痛、鼻汁や鼻かぜ症状、時に耳の痛みや、頸部のリンパ節が腫れ痛むことがあります。痰はでることもありますが空咳のことがしばしばです。咳は治療をしてもなかなか止まらない難治性のことが多く、喘鳴を伴うこともあります。


肺炎でも呼吸困難を引き起こし、血中の酸素が低下していのちに関わるようなことはごく稀と言われています。

マイコプラズマ肺炎は、肺炎球菌で起こるような他の細菌で起こる肺炎と区別する意味で非定型肺炎とも呼ばれています。




Q.どのように診断するか


その地域が流行期に入っているか、周囲に良く似た症状の人がいなかったか、の情報を参考にします。

ただし、感染後2、3週間たってから発症することが多いので大多数の人では、周囲にマイコプラズマ肺炎がいたかどうかを聞いても分からない、と答えることが多いようです。


症状を参考に胸部のX線撮影を行います。

淡い影や細かな線の集まりの中に細かな粒が混じっているような陰影が見えるのが特徴です。


血液検査では白血球数は正常か、わずかの増加にとどまり、他の細菌性肺炎ではかならず上昇するCRP値も微増程度が普通です。

マイコプラズマ肺炎が発症しても呼吸器の症状以外はほとんど見られませんが、約60%で赤血球が溶ける溶血という現象が見られるといわれています。

その結果、血液中の間接ビリルビン値や、LDH値が微増し、肝機能障害が疑わせるALT、AST値の上昇が見られることがあります。

寒冷凝集反応が高値になることがしばしばありますが、その場合でも肺炎そのものは比較的軽症にとどまることが多いようです。


痰を顕微鏡で調べる方法では診断できません。

また、マイコプラズマの抗体を調べる方法は、経過を追って次第に高値となっている場合には後日、確認するための診断の根拠となりますが治療を開始する根拠には必ずしもなりません。




Q.治療はどうする


第3の特徴に見られるように他の細菌と異なり細胞壁を持たないので、ペニシリン、セフェムなどの細胞壁合成阻害の抗菌薬では治療できません。この点はどの抗菌剤を選ぶという意味で極めて大切です。

マクロライド系、テトラサイクリン系、呼吸キノロン系の抗菌薬で治療することになりますが、マクロライド系の中で繁用されているクラリスロマイシンは、日本人では子供から成人までの50-93%が肺炎マイコプラズマに耐性を示すと報告されています。


肺炎球菌のワクチン接種は菌の種類が異なるので予防効果はありません。

また、マイコプラズマ肺炎のワクチンは予防効果が乏しいという理由で開発の段階で中止となりました。




カゼのような症状のあと、強い咳が長い間、止まらない、喘息のような症状がある、という理由で多くの患者さんが受診しています。中には、マイコプラズマによる感染を強く疑う場合があります。マイコプラズマ感染では気管支の内面を覆っている上皮細胞を広い範囲で破壊し、これが長引く咳の原因となっていることがあります。長引く咳は他の呼吸器の病気でも起こる場合がありますのでこれらを区別して治療方針を立てています。





参考文献:

1.Baum SG.et al. Mycoplasma pneumoniae infection in adults. UpToDate Oct. 3,2019 updated.



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