• 木田 厚瑞 医師

No.181 運動誘発の喘息:オリンピック選手に頻度が高い呼吸器疾患


2021年7月8日


 過去には、大気汚染が強い中で激しい運動をして過換気状態となり、学童が倒れるような事件の報道が多い時期がありました。

 大気汚染が、運動にどのような影響を与えるかは、詳しくは分かっていませんが喘息症状を悪化させることは、良く知られています。ニューヨーク市で黒人やヒスパニック系の人たちが暮らす地域で生活している子供たちが運動中、大気中のNO2濃度の上昇と、喘息の悪化が密接に関係することが最近、報告されました[1]。


 7月末から東京2020オリンピックが開催されます。オリンピックに出場するような選手は、全員、健康には問題がない健康エリートだと思っていました。ここに紹介する論文[1]は、オリンピック選手クラスを対象として行った調査研究です。

英国の有名な病院、Royal Brompton Hospitalらのグループに加え英国スポーツ研究所のメンバーが加わっており、実は、選手団の中に喘息の頻度が極めて高いという興味ある論文です[2]。アスリートたちの多くが喘息やこれに関連した症状に悩んでいるというのです[2]。




Q.大気汚染物質、NO2が喘息を悪化させる機序は?


・NO2(二酸化窒素)は大気汚染の重要な原因物質である。


・NO2は、気流閉塞、喘息を起こす有害な大気汚染物質として知られる。


・NO2の濃度が高い環境で運動すると、分時換気量(1分間に肺で行われる換気総量)が増加し、吸入する空気量が多くなり、運動誘発性の喘息を起こしやすいことが知られている。


・吸気中のNO2の濃度が高まると局所でサイトカインが多量に産生される。

その結果、気道炎症が悪化するが、運動後の気道過敏性が悪化する。その結果、喘息の悪化が起る。




Q.子供たちの調査は?


・ニューヨーク市のスラム街に近い場所に住む、黒人、ヒスパニック系の子供たち38人を対象に個別的に、48時間連続してNO2濃度、オゾン濃度を調査。気道炎症のマーカーとして呼気中のNO(一酸化窒素)濃度を測定した。


・運動誘発によりNO2濃度と呼気中NOが統計的に有意に相関することが判明した。




Q.アスリートの呼吸器疾患とは?


・呼吸器疾患は一般にアスリートで非常に頻度が高く、その治療・管理は重要であることが知られている。


・選手で医療コンサルタントを受ける選手の2/3は呼吸器疾患の関連だと云われている。


・国際オリンピック委員会(IOC)の調査では国際的競技会では選手の5~7%では呼吸器疾患があり、問題点となっている。


・なぜ、選手たちで呼吸器疾患が問題となるのかが不明である。


・治療をきちんとしたアスリートたちでは呼吸器症状の改善、QOL改善、増悪回数の減少が見られる。




Q.一流アスリートたちの呼吸器疾患とは?


・激しい長時間の運動は免疫系の調節異常、環境要因(アレルゲンなど)、環境要因(グループ内の密接状態)が運動選手たちの呼吸器疾患の要因となる。


・これに加えて宿主側要因(選手自身の問題)が加わり、水上スポーツ、冬季スポーツ選手では特に喘息が高頻度となる。しかし、役割、併存症、他の呼吸器疾患の関与は不明である。


・治療過程では、難治性喘息では悪化要因の検索とその対策が重要である。


・しかも併存する呼吸器疾患の治療が大切である。

➡これらには副鼻腔炎、GERD(逆流性食道炎)、呼吸パターンの異常、喉頭機能の問題がある。これらの関係を明確にするには部分的な検査では不十分で系統的な検査が大切である。




Q.適切な治療で期待されることは?


➡肺機能の改善、気道炎症の改善、競技記録の改善がある。




Q.英国グループの調査研究は?


・このプロジェクトはSARAHと呼ばれた。オリンピックレベルの選手たちにおける呼吸器系の疾患と問題点を系統的に明らかにしようとするものである。


・対象は、オリンピック候補となる一流選手で18歳以上、非喫煙者。心血管病変、代謝性病変があるものは除外した。


・調査項目➡数種類の質問調査。呼気中のNO濃度、ピーク鼻腔流速値、スパイロメトリー、気道可逆性試験、アレルギー試験。




Q.結果は?


・アスリート122人。女性が45%、平均年齢24歳。

半数(58%)が運動誘発性関連の呼吸器症状を訴えた。内訳は、咳44%、喘鳴24%、胸部しめつけ感32%、呼吸困難18%。全体の32%で喘息があった。治療薬は全員が短時間型β2気管支拡張薬(SABA)使用し、61%が吸入ステロイドを使用していた。


・上気道感染症状が多く、40%で過去18カ月間に1.7回の抗菌剤の処方があった。

花粉症、食物アレルギーなどのアレルギーは48%。

副鼻腔症状は27%。鼻腔の通気性低下では重症6%、中等度27%


・全体の80%が呼吸器系トラブルを抱えていた。

この結果は、以前からアスリートは、呼吸器症状、呼吸器疾患の頻度が高いと云われていることに一致する。


・喘息、気道過敏症は持久力を争う冬季スポーツに多く、70%と言う報告もある。


・その他では副鼻腔障害、喉頭機能異常が多い。全体の1/4が気道過敏症を有している。




Q.運動選手に気道過敏症が多い理由は?


・環境有害物質を吸う機会が多いため。長時間過換気状態のため気道が乾燥する。

➡これらが重複した病態を作るのではないか。




Q.選手たちの治療実態は?


・喘息の多くは適切な治療を受けているとはいえない。


・不十分な治療による呼吸器症状は競技のベストタイムを競う場合の障害となる。




 英国での調査結果ですが、多くの選手に喘息症状や中には複数の呼吸器疾患をもつ人が多く、しかもその治療は極めて不十分であることが判明しました。

 英国では、この結果を教訓に選手たちの呼吸器疾患の管理に力を入れるようです。

 大気汚染物質を吸いながら長時間の強い練習で有害な物質を多量に吸い込む結果となり、気道の炎症を悪化させているのではないか、という問題点が指摘されています。選手たちがそれこそ生命をかけて記録にいどむ大会期間中だけでも環境整備を望みたいと思います。



参考文献:


1. Sanchez KM. et al. Nitrogen dioxide pollutant exposure and exercise-induced bronchoconstriction in urban childhood asthma: a pilot study.

Ann ATS. Published in July 02, 2021 as 10.1513/AnnalsATS.202103-254RL


2. Hull JH. et al. The benefits of a systemic assessment of respiratory health in illness-susceptible athletes. Eur Respir J 2021; 57: 2003722 [https://doi.org/10.1183/

13993003.03722-2020].


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