2019年12月9日
"子供のころに喘息はありましたか?"
喘息が疑われる患者さんには必ず尋ねる質問です。
子供のころに起こった喘息が成人してからも続いているかどうかについての代表的な疫学研究は、アリゾナ大学のグループによるトゥーソン市で実施された小児呼吸器疾患研究が有名です[1]。
計1,246人の新生児を6歳のときに喘息に関して肺機能検査やアレルギー検査を実施し、さらに22歳になった時点で喘息がどうなったか、を調べたものです。
発表(2008年)から、10年間余りが過ぎ、更に追加され、現時点でまとまっているデータは以下のようにまとめられています[2]。しかし、全貌が解明されているわけではありません。
Q. 乳幼児期の喘息は成人後も続くか
・乳幼児期にカゼをひいたときのようなウィルス感染により時々、喘鳴があるような人では成長するとともに起こさないようになります。すなわち喘息が成人まで持ち越されることはありません。乳幼児では気道の内径が狭いのでカゼなどで気管支に炎症を起こすと浮腫状態となり、内径がさらに狭くなり、その結果、喘鳴を起こしますが成長に従い気管支内径が大きくなれば喘息を起こすことはありません。
・しかし、成長しても時々、喘鳴があり、アトピー症状を認め、家族に喘息の人がいる場合には成人になっても喘息は続く可能性があります。
・生後1歳以前に肺炎などの重い呼吸器疾患に罹患した場合には、成人に達した段階で健康人と比較して肺機能が低下する可能性があります。
Q. 6歳に達した時の症状がなぜ問題か
・肺の成長発育は、身体の成長が終わる思春期の終わりごろまで続くと考えられています。肺胞全体の容積と肺胞から空気を出し入れする気道の断面積のバランスが釣り合い、効率的に呼吸ができるようになるのがほぼこの年齢に近いと考えられています。この段階で肺胞全体の容積に対し、空気を運ぶ気道の断面積が小さいアンバランスの状態の発育があれば喘息になりやすいと考えられます。
また、COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)も同じ理屈で起こしやすくなります。
Q. 成人の喘息への移行は
・6歳児で時々、喘鳴がある子供の一部は成人しても喘息が続いたままとなることが知られています。特にアトピー症状がある場合、乳幼児期の喘息症状が重症でそれに近い状態が続いている場合、母親が喘息の場合の子供では喘息が成人になっても続く可能性があります。母親が喫煙者である場合も子供が成人になってからも喘息が持続することが多くなることが知られています。特に注意が必要です。
・幼児期に重症の喘息がある場合には肺機能が低下することがあります。特に、6,7歳のころに肺機能が低下している場合には後年、喘息が起りやすいことが知られています。
・思春期で喘息がある場合、75%は成人後も喘息を認めることが多いようです。また、その場合には成人後もカゼを引くたびに喘鳴がある人では喘息が持続する可能性が高くなります。
Q. 成人で喘息が始まった場合の問題点
幼児期に喘息はすでにあったのに診断されていなかった場合が多いと云われます。診断がされていなければ治療も行われてこなかった可能性が高いと考えられます。そのまま、成人に持ち越されていることになります。
喘息は乳幼児期から高齢者まで、全年齢層でみられます。
高齢になり初めて喘息を認める人など、年齢別にみると発症の原因、悪化していく背景は異なっています。高齢者の喘息では肺機能が低下しやすく、そのため重症となりやすくなります。
乳幼児期に喘息があり、その後は中年以降まで症状はなかったのに、次第に悪化している方を時々診ます。最近の研究では喘息と診断された中に多種の喘息が存在することが知られており、喘息という診断名はumbrella term、すなわち傘の構造に近い包括的な名称に過ぎないという意見があります。しかし、他方で治療法が多様化しており、できるだけ正確に分けて治療する時代に入っています。
Comments