• 木田 厚瑞 医師

No.81 間質性肺炎の研究はどのように進歩したか


2020年7月1日

 間質性肺炎は複雑な病気です。医師にとっても短時間で患者さんに分かりやすく説明するのは難しい、といつも感じます。近年、明らかに患者数が増えてきていること、正確に診断する方法がかなり確立してきたこと、その結果、複雑に再分類されることになったこと、などが問題です。さらに、最近、治療法として肺移植や抗線維化薬が一部に使用され効果があることが判明してきました。

 間質性肺炎の複雑な分類の淵源はLiebowの研究に行き着きます。Averill A. Liebow は米国の病理学者です。彼が晩年まで研究を続けていたSan Diego大学には、Liebow’s Museum (博物室)があります。若いころ、間質性肺炎の基礎研究に従事していた私は、彼が進めた研究の足跡を是非、見たいと思い米国での学会の帰路に訪問したことがあります。そこには、Liebowが病理学者として、1万数千例の間質性肺炎について臨床医たちと情報を共有しながら死亡後の記録まで追い続けた元データが保管されています。彼が進めた研究の方法は、病理医と臨床医との緊密な情報共有により複雑な病気をパターン化し、その中で治療できるものを探し当てようとするものでした。その研究の流れは現在でも続いています。なお、Liebowは、原爆投下直後の広島を訪れていたことをその時、初めて知りました。「災害との遭遇:広島の医学日誌」と題して日本人研究者と共著の邦文論文を発表しています。

 ここでは、まず原因不明の間質性肺炎についての研究の歴史について概略を説明します[1]。




Q.ハーマン・リッチ ( Hamman・Rich ) 症候群の発見。


 1944年、ハーマンとリッチは、発症の原因が不明な間質性肺炎の4症例を発表しました。これが間質性肺炎の臨床研究の始まりです。急性に経過して原因不明な場合の診断名として使われました。



Q.リーボウ(Liebow)による原因不明の間質性肺炎の分類


1967年、Liebowは原因不明の間質性肺炎について病理組織の所見から次の5つのグループに分類できることを発表しました。

・通常型間質性肺炎(略称、UIP)

・剥離型間質性肺炎 (DIP)

・閉塞性細気管支炎 (BIP)

・リンパ球性間質性肺炎(LIP)

・巨細胞性間質性肺炎 (GIP)

このうち、GIPは、超合金吸入による塵肺の一種であることが判明し、現在では原因不明の分類からは除外されています。




Q.特発性肺線維症(IPF)の病名の提唱と進化。


・米国のCrystal らにより臨床経過と開胸肺生検によりLiebow分類のUIPに対し、臨床医側からの提案として特発性肺線維症(IPF)という名称が与えられた。

・IPFは、原因不明の間質性肺炎の50-60%を占めている

・1990年代後半、厳密にIPFという病名を用いるべきであり、国際的に統一すべきとの議論が高まり、2000年に欧州、米国胸部疾患学会が合同でIPFの共同声明(ドキュメント)が発表され、その後、2018年には、さらに、日本呼吸器学会、ラテンアメリカ胸部疾患学会も加わった改訂ドキュメントが発表され[2]、現在に至っている。




 IPFを厳密に診断するには、Liebowが最初に行ったように病理組織データが決め手になります。ところが、この流れを変えたのは、近年、著しく進歩した胸部CT画像などの画像診断です。病理組織は肺の一部のみを見るのに対し、画像診断は肺全体の病変の分布を読み取ることができます。しかし、そこに起こっている変化を顕微鏡的な厳密さで決定することはできません。現在では、難しい判断が必要な場合には臨床医、画像診断医、病理医が合同で討論して結論を出すことが勧められています。また、厳密さを求めるあまり、不要な検査を行い患者さんに負担を与えることがあってはならない、とも述べている点も近年、進歩してきた点です[2]。

 急性に経過する間質性肺炎は、呼吸窮迫症候群と分類されることがあり、新型コロナウィルス感染症の重症例で見られることがあり、最近、注目されています(コラムNo.47, 参照)。




参考文献:

1. 一門和哉、菅 守隆。3.米国胸部疾患学会・欧州呼吸器学会。特発性肺線維症。

特集:内科―100年のあゆみ(呼吸器)、日本内科学会雑誌、平成14年91巻:1840-1854.

2.Raghu, G. et al. Diagnosis of idiopathic pulmonary fibrosis. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline

Am J Respir Crit Care Med 2018; 198, e44–e68, Sep 1, 2018

DOI: 10.1164/rccm.201807-1255ST


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