2020年1月30日
呼吸器疾患が重くなると血液中の酸素不足が高度となる「呼吸不全」となります。これが1ヵ月以上も続く「慢性呼吸不全」の患者さんが自宅で行う治療が在宅酸素療法(HOT)です。1960年代、米国で始められました。現在、全世界で行われていますが米国では約150万人、わが国では約17万人がこの治療を受けています。
米国では専門医以外の処方が多く、しかも機器を買い取る方式が取られており、その結果、担当医によるフォローアップがうまくいかず医療の質の低下が問題とされています。
他方、わが国では、機器はレンタル方式となっており、定期的に担当医による治療がうまくいっているかをチェックしています。しかし、必要な患者さんが多いのに適切にHOT治療を受けていないことが問題です。
もともと、HOTの目的は、病院ではなく在宅で快適な生活を送り、しかも、寿命を長くすること、すなわちQOL改善と寿命延長が主な目的でした[1]。ここでいう、寿命延長とは延命治療ではなく、快適な日常生活がおくれ、しかも長生きすることが目標です。
HOTは広く実施されるようになりましたが、多くの未解決の問題点を抱えていることも指摘されています。数年前になりますが、米国胸部学会で適正なHOTの在り方について話し合われましたので解説を加えます[1]。
Q. 米国の専門家がHOTの問題点として挙げた事柄とは何か?
酸素機器業者が多様化し、質の低下が起こっていることを問題としています。
・HOT患者は、しばしば、機器に関する問題点によりQOL低下を来している。運動中や勤務中、旅行中に機器の問題が発生している。
・多くの医療者がHOT処方の方法を理解していない。医療者、患者の双方に正確な情報が伝えられ理解を高めるようにされなければならない。情報は機器業者、臨床医、保険者、患者とその家族に対して提供されなければならない。
・高流量の酸素を必要とする患者では機器を持ったままの移動が困難であり、また移動用酸素機器の取り扱いが難しいことが多い。小型で軽量、高流量の機器の開発が必要である。
・機器業者によりポータブル型、据え置き型機器の利便性が著しく異なっている。サービス内容に差が大きい。
・米国のデータ解析では据え置き型、液体酸素利用者では機器の信頼性が低く、携帯用液体酸素の配達の利便性が低い。
・医療保険会社が各患者に電話連絡をして聞き取り調査を行った結果、メーカーからの連絡が乏しく、在宅生活での患者教育及び適切な臨床検査を受けていないという不満が判明した。特に地域でメーカー間の競争原理が働いていない僻地が問題である。
Q. 将来の研究が必要な領域とは何か?
以下に集約された研究が必要であると提言しています。
・患者教育の方法
-開始時、フォローアップに分け継続して教育を行う。
-正確な1分間当たりの流量を教える。
-機器のメンテナンスに関する手技を教える。
-安全な取り扱い方法。
-禁煙厳守。周囲での火器の取り扱い方についての注意。
・在宅生活に必要で継続的な情報の提供。
-HOTの目的と効果を教え、生活を快適にする方法を教える。
-経済的負担の解決。
-旅行や移動の際のHOTの使い方。
・機器の品質
-携帯用は軽量であり、利便性が高いこと。
-操作が簡単で利便性が高いこと。
・機器業者の役割
-分かりやすい機器説明が必要。
-サービスがタイムリーであり、必要に応じたサービスが適切であること。
-担当医との連携が適切であること。
Q. 会議で結論としたことは何か?
以下がこの会議の結論です。
「理想的なHOTは、低酸素血症を有する患者の個別性を重視し、専門医により実施されるべきであり、処方は個別性を重視し、患者教育プログラムに基づき、安全で移動が可能な機器によって実施されるべきである」。
HOTは、米国で開始され、わが国に伝えられた新しい治療です。しかし、半世紀を経て考え方は、双方でかなり異なってきています。米国では、重症の慢性呼吸不全の患者さんが快適に生活し、しかも寿命が延長することを期待して実施されています。快適に生活するには、なるべく日常の活動性を高めるように、呼吸リハビリテーションとの組み合わせ治療を重視しています。すなわち、重症の呼吸器疾患に対する治療をして実施されるべきであるとされてきました。
一方、わが国では、HOTは高齢者を主な対象とした在宅医療に分類されており、入院生活よりも自分の住み慣れた場所で生活をおくることを目的に実施されていることが多いようです。
HOTが対象となる病気の中ではCOPD (肺気腫、慢性気管支炎;慢性閉塞性肺疾患)が一番、多いことが知られています。治療がうまくいかないと寝たきりに近い生活となり、患者さんだけでなく家族も悲惨な状態に追い込まれます。そのようにならないようにするために包括的呼吸リハビリテーションを提言してきました[2]。HOTは機器を用いた在宅医療であり、COPDなど重い呼吸器疾患の患者さんが使う場合には、栄養、運動、適切な処方、増悪予防などが適切に指導されていなければなりません。(参考:No.12, 包括的呼吸リハビリテーション)
わが国では、阪神淡路大震災や東日本大震災の際にHOTを実施中の多くの患者さんが犠牲となりました。災害対策も重要な課題と考えられます。私たちは、これについても提言を行ってきました[3]。
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