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No.323 睡眠時無呼吸症候群は、心血管病変と密接に関係する

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 5 時間前
  • 読了時間: 6分

2025年9月5日


 推奨睡眠量は、毎日少なくとも7時間と言われます。「国民健康・栄養調査」(2023年)では日本人で充分に睡眠がとれている人は、74.9%であり、4人に1人は慢性的な不眠の状態で過ごしていると報告されています。日本人は眠る時間も十分に取れずに働いているような印象を受けますが実は、米国の成人のほぼ33%が1日、7時間未満の睡眠を報告しており、その割合は若年成人や社会経済的地位の低い個人ではさらに高くなっています。十分な睡眠は、最適な身体的健康、免疫機能、精神的健康、認知機能の維持のために不可欠です。睡眠不足は公衆衛生上の問題であり、睡眠時間が短いと事故の増加、身体的、神経学的、精神的健康にさまざまな悪影響が生じ、全死因に関係し、また死亡率の上昇が引き起こされます。

しかし、前述のように慢性的な睡眠不足は現代社会では一般的であり、仕事の要求、社会的および家族的責任、病状、睡眠障害など、さまざまな要因によって生じる可能性があります。睡眠負債が蓄積すると、パフォーマンスの低下、事故や死亡のリスクの増加、心理的および身体的健康の両方への悪影響を経験する可能性があります。睡眠には、持続時間 (量)と深さ (質)の 2つの次元があります。適切な睡眠時間や質を確保できないと、日中の注意力と機能が低下します。睡眠不足に反応して、睡眠はしばしば長く、より深くなります。ただし、多くの場合、睡眠時間に大きな変化がなくても睡眠強度が変化する可能性があります。したがって、睡眠時間だけでは、朝にリフレッシュして適切に機能するためにどれだけの睡眠が必要かを示す良い指標にはなりません。さらに厄介なことは、病気による睡眠障害があります。


閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、睡眠中に上気道が繰り返し閉塞し、その結果、吸気流量が完全(無呼吸)または部分(低呼吸)に減少することを特徴とする睡眠に関連した呼吸障害です。OSA患者は、この集団によく見られる肥満に関わる因子とは無関係に、いくつかの心血管疾患のリスクがあります。

 睡眠中の呼吸の異常は、心不全患者によく見られることが知られています。心不全患者に最も多くみられる睡眠中の呼吸異常は、閉塞性睡眠時無呼吸とチェーン・ストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸です。両者とも心血管疾患の予後不良や死亡率との関連が指摘されており、また、CPAP治療が心不全関連の予後と生活の質を改善できることを示唆するエビデンスが蓄積されているため、認識が重要です。

 ここでは、中高年に多い、閉塞性睡眠時無呼吸症が心血管病変に関わるという最近の文献[1]を紹介します。




Q.OSAと急性⼼血管イベントの起こり方は?


・重度および中等度のOSAは、急性心血管病変の確立された危険因子である。

➡ 心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中などの急性心血管疾患の罹患率および死亡率の重要な危険因子である。


・低酸素血症による血管の壁を構成する内皮機能障害も関与している可能性がある。特に女性患者は、内皮反応の変化を起こしやすい可能性がある。




Q.高血圧に対するCPAP治療の効果は?


・高血圧とOSAはしばしば併存する。


・CPAP療法は血圧を着実に低下させるが、この効果が関連する急性心血管イベントの発生率を低下させることは示されていない。


・主要な心血管イベントと脳血管イベント発生リスクの減少は、持続CPAP治療(1晩4時間以上)への良好な使用効率(アドヒアランス)と関連していた(HR 0.69、95%CI 0.52-0.92)。

 注)CPAP使用が、平均1晩4時間以上が有意差を認める限界使用時間と考えられる。しかし、厳密には限界使用時間は個別的な差異があり、決まっていない、と報告されている。




Q.不整脈に対するCPAP治療の効果は?


・中等度または重度のOSA患者23名を対象とした前向きコホート研究では、CPAP治療により6か月間で夜間不整脈の発生率が47%から0%に減少した。

 



Q.不眠症とCPAP治療の関係は?


不眠症はOSAと併発することが多く、その有病率は約38%と報告されている。

➡ 併存する不眠症や追跡期間などは、死亡率低下を目的としたCPAP療法の開始を決定する際に考慮されるべきである。




Q.OSAに対するCPAP療法は心血管病変の死亡率を減らせる効果があるか?


背景:

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に対するCPAP療法が全死亡率に及ぼす影響に関するデータは一貫していない。

本研究では、CPAP療法がOSA患者の全死亡率および心血管疾患による死亡率の低下に関連するという仮説を文献的な報告から検証した。


方法:

2023年8月までの関連文献をすべて検索し、まとめた。


結果:

検索で特定された5484件の記録のうち、435件について適格性評価を行い、30件の研究(RCT10件、NRCS20件)をシステマティックレビューおよびメタアナリシスに組み入れた。これらの研究には1,175,615人の参加者が含まれており、そのうち905,224人(77%)が男性、270,391人(23%)が女性。平均年齢は59.5歳、平均追跡期間は5.1年。

CPAP群では全死亡リスク(HR 0.63、95% CI 0.56–0.72、p<0.0001)および心血管疾患による死亡リスク(0.45、0.29–0.72、p<0.0001)は非CPAP群よりも有意に低く、CPAP療法の臨床的に関連する利益は使用とともに増加した


解釈:

・本研究の結果は、OSA患者の全死亡率および心血管疾患死亡率に対するCPAP療法の潜在的な有益な効果と整合している。

➡ CPAP療法を行っている患者には治療によるこの効果について理解してもらう必要がある。これにより、治療開始の受容度が高まり、治療遵守率が向上し、転帰改善の可能性が高まる可能性がある。




 閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、心血管病変の発症と密に関係しており、この疾患の治療であるCPAP使用が指示された通りに実施されれば予防効果が大きいことを示唆する論文です。この結果から、推定されることはCPAP使用が、毎日使われ、しかも使用時間が最低平均4時間以上にならなければ心血管病変を予防するという効果は検証されないということです。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、太った中年男性の病気というイメージがありますが、心血管病変は、女性の場合でも同様に起こりやすいことが報告されています。


 装着忘れは、飲酒後の患者さんに特に多くみられます。また、夜間、トイレに起きたときにそれ以降の付け忘れもしばしば観察されます。心血管病変の予防という観点に立てば、CPAP使用は薬と同じで服薬の忘れと同等であるとも考えられます。付け忘れにならないよう、また早めの付けはずしが起こらないよう、これを遵守することの効果が大きいことを知るべきでしょう。




参考文献:


1.     Adam V Benjafield, AV. et al.

Positive airway pressure therapy and all-cause and cardiovascular mortality in people with obstructive sleep apnea: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials and confounder-adjusted, non-randomized controlled studies.

Lancet Respir Med 2025; 13: 403–413.


2.     Geraldo Lorenzi-Filho, G. et al.

Effects of continuous positive airway pressure on central and peripheral blood pressure in patients with uncontrolled hypertension and obstructive sleep apnea: The randomized controlled MORPHEOS clinical trial.

Ann Am Thorac Soc 2025; 22: 757–767.


※無断転載禁止

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