2020年7月7日
間質性肺疾患(ILD)は、複雑な機序により左右の肺に広範囲に陰影が出現し、悪化すると次第に肺組織が硬く、縮小していく疾患です。
ILDの分類は、複雑です(コラムNo.81参照)。原因が特定できない間質性肺炎は特発性間質性肺炎(IIP)と呼ばれています。
その中で線維化がゆっくり進み、これに合わせて乾いた咳が数か月以上の間、続き、階段を上る際に息切れが次第に強くなり、さらに進行すれば血液中の酸素濃度が低下し、酸素療法が必要となる場合は、特発性肺線維症(IPF)と呼ばれています。IPFを特別に分類する理由は、これに対する効果的な治療薬が使われるようになったからです。さらに新しい治療薬の治験が始まっており期待されており、厳密に定義した狭い範囲の疾患に対する治療効果を確認し、その範囲を少しずつ拡大するような戦略が取られています。
ILDがなぜ、発症するのか、家族性間質性肺炎(コラムNo.69参照)は、発症の要因が、遺伝的背景によることを示唆しますが、多くは原因不明です。
ILDの発症原因に大気汚染があるのではないか、その仮説のもとに大気汚染を起こす物質の種類、濃度を厳密に測定し、ILD発症との関係を調査した研究が近年、増えてきました。
ここで紹介する論文[1]は、2017年より2019年までに4か国で発表された8編の研究論文を総括し、問題点を挙げた整頓した論文です。
Q. 問題点は何か?
・大気汚染は多くの呼吸器疾患に影響を与える。
・大気汚染は蓄積効果として呼吸器疾患の発生頻度を高め、肺機能を低下させ、増悪回数を増やし、死亡率を高める。
・遺伝子情報を含め、分子生物学的な機序は解明されてきたが大部分は不明である。
・大気汚染、エピゲノム(注:生物の発達段階で遺伝子の活性化、不活性化を起こす機序)、ILDとの関係をはっきりさせるために疫学統計は重要なヒントを与えてくれる。
Q. どのように研究を進めたか?
・MESAプロジェクト、フラミンガム研究、その他、イタリア、フランス、韓国、米国(4論文)で実施された大気汚染とILDの関係を報告した8論文の総括。
この中では、MESAが8,166人を対象としている点で最大規模。小さな規模では米国の1施設からの25人を対象したものがある。韓国論文は、ILDの増悪と大気汚染の関係を調べている。
Q. 何が発見されたか?
・大気汚染の主原因は、工場煤煙、自動車排気ガス、農業バイオマスに大別される。
・有害物質の特定:オゾン、一酸化炭素、NOx、鉛、PM10、PM2.5。
・MESA論文:10年間のNOX濃度とILD発生が関係する。
・フラミンガム研究:5年間の炭素化合物濃度とILD発生増加が関係する(1.33倍)。
・その他のまとめ:NO2濃度とILD発生は有意の関係にある。しかし、オゾン、PM10濃度とは有意の関係なし。PM2.5濃度増加とILD発生は有意の関係あり。
・PM10、 PM2.5がILDの死亡率増加と関係する。
・ILDの増悪と大気汚染が関係する(hazard ratio:1.27~1.57)。
・IPFで見られたDNAパターンの異常と大気汚染が関係する。
・PM2.5と過敏性肺炎が関係する。(過敏性肺炎についてはコラムNo.79参照)
・PM10 とヒストンH3メチル化が大気汚染に関係する。
・米国ではPM2.5関連死はアフリカ系米人に多い。これは社会格差を反映している可能性がある。
Q. ILDと大気汚染の課題は何か?
・ILDは全世界で増加傾向にあるが発症数、死亡数に大気汚染が関係している可能性がある。
・2016年以降、米国では大気汚染被害が増加している。2018年だけで9,700人の関連早期死亡者あり。
・ILDの今後の研究方向 ➡ 遺伝子-エピゲノム-環境要因を調べることが重要である。
私が診ている患者さんの中にILDの方がたくさんいます。父も兄も同じ病気で亡くなっています、という人や、良好とは言えない環境、職場で働いていた人がいます。ILDは、軽症でも肺がんを合併することが多く、また、COPD(慢性閉塞性肺疾患)との合併では、COPDが軽症でも酸素療法が必要となる方もいます。
職場での粉じん吸入、喫煙が発症の共通した有害因子ですが本論文は大気汚染も重要な発症要因であることを示唆しています。
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