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No.333 多臓器の後遺症を残す新型コロナウィルス感染症

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 3 日前
  • 読了時間: 9分


2025年11月19日


 新型コロナウイルス感染症は、2019年末に中国から始まりました。その後の調査でそれ以前に他の地域で流行の予兆があったとも云われています。

 20年1月15日に国内で初めて感染者が確認され、さらに、2月5日に大型クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号での感染者報告があり、一気に緊張感が高まりました。

 21年春に流行したアルファ株や同年夏のデルタ株は、若い人でも重症例が目立ち、21年は65歳未満の死者が全体の11%を占めました。一方、ワクチンが普及し、オミクロン株が主流になった22年以降は、65歳未満の死者は全体の3%ほどになっています。20年には約96%が病院でしたが、22年以降は4人に1人が介護施設や老人ホーム、自宅などで亡くなっています。

 23年5月、感染症法上の扱いが季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」に変わりました。その結果、感染対策が緩和され感染者の全数把握がされなくなり、約5千の定点医療機関で診た患者数が報告されるようになり現在に至っています。世界では、20年と21年だけで推定1,500万人の超過死亡となりました。他方、わが国では24年8月までに亡くなった人は13万人を超えたことが厚生労働省の人口動態統計で報告されています。

 公表されている人口動態統計によると24年8月分までに新型コロナが原因で亡くなった約13万2千人のうち、20歳未満は141人、20~30代は295人、40~50代は3006人。80歳以上は10万720人で、76%を占めていました。

 23年5月5日、世界保健機関(WHO)は、ワクチン普及や治療法の確立によって新規感染者数や死者数が減少していることを踏まえ、20年1月30日に宣言した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」は23年5月5日に終了の宣言をしました。各国に対して緊急事態宣言が解除され、各国がウイルスへの警戒度を下げた上で対策を緩和することとなります。

 他方、重症コロナ感染症で入院治療が必要となった人たちのその後について、生存者は疲労や呼吸困難の症状を頻繁に報告しています。また、他方で再感染リスクが問題となっています。重度の再感染は、がんの治療を受けている人を含む免疫不全の人で最も頻繁に発生することが報告されています。

 ここでは、再感染、後遺症の問題点について触れ、実態として多臓器にわたる後遺症を残し、なお苦しんでいる人たちが多いことを報告した論文[1]と、後遺症として間質性肺炎の発症に注目した論文[2]を紹介します。




Q. 新型コロナの再感染とは何か?


再感染は一般的にみられており、特に前回の感染から180日以上経過してから発症している。これは、約6か月後から再感染が一般的である通常の風邪コロナウイルスで示されているデータと類似している。


・再感染は通常、以前の感染を引き起こしたものとは異なる新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の亜系統で発生する。


・再感染のリスクは、亜系統がどれほど密接に関連しているか(ある亜系統が別の亜系統からの免疫を回避する可能性がある)、以前の感染からの間隔によって異なる。米国での再感染に関する研究では、オミクロン亜系統BQ.1/BQ.1.1が流行していた22年末までに、再感染した症例の半数は、別のオミクロン亜系統が流行していたときに以前に感染した個人で発生した。


ほとんどの再感染は軽症で終わっている。一例として、カタールの研究では、再感染した1,304人の重症化の確率は、最初の感染で年齢、性別、および感染日が一致した個人と比較して12%であった。再感染群では重篤な病気や死亡の症例はなかった(初期感染群ではそれぞれ28人、7人)。システマティックレビューは、以前の感染が重症化またはその後の感染による入院のリスクを75〜86%低下させることと関連していることを示唆している。

➡中には最初の感染よりも重篤な再感染や致命的な再感染が発生する可能性があるという報告がある。23年10月までに発表された研究のシステマティックレビューでは、174,854件の再感染のうち1,437件の重症例がある




Q. 後遺症とは?


・COVID-19罹患後の生存者は、最初の感染から数年経っても呼吸器症状や放射線異常が持続することがある。英国、中国の大規模コホート研究では、11〜36%で最初の感染後に肺の異常が残存していることが報告されている。


・罹患した患者の一部に後遺症として間質性肺炎がみられ、その結果、咳症状や階段を昇るときに息切れがみられることが注目されている。


・胸部CT撮影による放射線画像検査では通常、最初の1年間にすりガラス陰影やその他の炎症所見が改善していく。しかし、網状および牽引性気管支拡張症の線維化様異常は、特に重度または重篤な COVID-19 の生存者にとって、1 年以上持続する可能性がある。


・これらの変化は肺の残留線維化病変として知られているが変化は、息切れの原因となり、日常の活動制限を起こす。肺機能検査のうち、拡散能力の低下に関連している。


・患者は、線維化様変化や肺活量異常が持続しているにもかかわらず、ほとんどの患者では、最初のCOVID-19感染後に生じた運動耐容能と機能状態が徐々に改善していく。

➡これらの改善にもかかわらず、なおCOVID-19の後遺症を有する場合は疲労や呼吸困難の症状の持続が多い。




Q.論文[1]の要点:新型コロナウイルス感染症の多臓器障害の後遺症に関する研究とは?


・調査の対象例:

英国の調査研究(PHOSP-COVIDのTier 2)として英国全土の13のC-MORE施設で募集された参加者2,710人のうち、条件を満たす531人を選び調査を開始した。

2020年3月1日から2021年11月1日までの間にPCRでCOVID-19が確認または臨床的に診断されて退院した患者259人(平均年齢57歳[SD 12]:男性158人[61%]、女性101人[39%])と、地域社会からの非COVID-19対照例52人(平均年齢49歳[SD 14]:男性30人[58%]、女性22人[42%])について調査を進めた。

患者は、退院後中央値 5.0か月 (IQR 4.2–6.3) の時点で評価した。


・非COVID-19対照と比較して、感染患者は高齢で、肥満が多く、併存疾患が多かったMRIでの多臓器異常は、対照よりも患者でより頻繁に見られ(259人中157人[61%] vs 52人中14人[27%]; p<0.0001)


・COVID-19の状態と独立して関連していた(オッズ比[OR] 2.9 [95%CI 1.5-5.8]; p =0.0023)。

対照群と比較して、患者は肺の異常(p=0.0001;実質異常)、脳異常(p<0.0001;白質高信号増加および局所脳容積減少の増加)、腎異常(p=0.014;髄質T1の低下および皮質髄分化の喪失)のMRI証拠がより多く見られた。

一方、心臓および肝のMRI異常は患者と対照群と類似しており新型コロナ感染歴とは関係がなかった。


多臓器異常の患者の特徴は以下の通りであった。

1)より高齢者に多い。(平均年齢の差7歳;多臓器異常の平均年齢59.8歳[SD 11.7]と多臓器異常なしの平均年齢52.8歳[SD 11.9]; p<0.0001)。

2) 3つ以上の併存疾患を持つ場合が多い (OR 2.47 [1.32–4.82]; p =0.0059)。

3)より重篤な急性感染(急性CRP >5mg/L、OR 3.55 [1.23–11.88]; p=0.025)で発症する可能性が高い。

4)肺MRI異常がある場合では胸部圧迫感のリスクが2倍高く、多臓器MRI異常は入院後の重症度、,重症度が持続して身体的・精神的健康障害を伴うことと関連していた。




Q.  論文[2]の要点は?


目的:新型コロナウィルス感染は、肺病変を起こすと考えられる。感染後に間質性病変を起こすのではないか?

感染後、3年後の肺の持続性線維化異常に関連する臨床的要因を特定した研究、経時的な縦断的な放射線学的変化を調べた研究はほとんどない。また肺内病変の線維化様変化について肺組織病理学を調べようとした研究はほとんどない。


方法

英国で実施。単一施設、前向き、縦断的、多民族コホートからの重症または重症の COVID-19 生存者2,710人より条件が合致した 102 人(50% が人工呼吸器、全員が酸素補給が必要であった) が、入院後 3年後に吸気および呼気の高解像度胸部画像検査、肺機能検査、および身体能力検査を完了した。

70% 以上が4か月および/または 15 か月後のフォローアップの受診をした。持続性線維化様異常に関連する要因は、調整された関連性を推定するために、共変量バランス傾向スコアを使用した多変量ロジスティック回帰を使用して調べた。

複数の画像検査を受けた被験者については、すりガラス状の混濁、網状、および牽引性気管支拡張症の変化を半定量的に分析し、定性的に評価した。

COVID-19後の線維症スコアが上位四分位にある参加者では、組織病理学的分析のために経気管支生検を受けた。


結果

網状組織や牽引性気管支拡張症などの線維性様異常は、重症または重篤なCOVID-19の生存者の61%に存在した。

・調整された分析では、線維化様異常は、男性の性別、体格指数(BMI) の低下、白血球のテロメア長の短縮、病気の重症度の増加、および人工呼吸器と正の相関があった。

・人種が黒人である場合は起こりにくかった。

線維化様異常のある参加者では、拡散能力が低下し、6 分間の歩行距離が減少する可能性が高かった。

・網状構造は、半定量分析によって評価されたが、15 か月から 3 年の間であっても、すべての時点で緩やかに改善した。質的には、ほとんどの参加者はすべての時点で安定した線維化様異常を示し、9% が 15か月から3年後に改善し、悪化することはなかった。他方、線維化スコアが上昇した5人の経気管支生検からの肺実質は、呼気中の空気閉じ込めと一致する小さな気道組織病理学を示し、まれな間質性肥厚および線維症を示た。


結論:

・退院後 3 年で放射線画像で線維化病変はわずかに改善したが病変は継続的に存在していた。

・拡散能力の低下および歩行距離の減少は、重度の新型コロナ感染症の長期的な影響を浮き彫りにしている。





 重症のコロナ感染症で治療を受け、回復した後に肺に後遺症としてどのような病変を残すかは、重要なテーマです。

 論文1は、新型コロナ感染症のあと、深刻な多臓器障害の後遺症がみられることを報告しています。高齢、肥満、併存疾患がある場合には多臓器障害を起こしやすいことを示唆しています。

 論文2は、肺の後遺症として間質性肺炎に注目しています。結論として、経過で緩やかな回復傾向を示すことが多いという点は、当初、間質性肺炎が進行し、慢性呼吸不全に至るのはないか、と懸念されていたことを払拭するデータです。

 論文1では、感染後に患者で肺、脳、腎臓の異常がMRI観察では、より多く見られたと報告しています。現在、私たちが診ている患者さんの中には、感染歴があり、高齢、肥満、併存疾患をもつ方が多くおられます。今後は、肺だけでなく、他臓器の傷害が生じてくる可能性を考えながらフォローアップすべきと考えます。

 論文2が警告しているように新型コロナ感染後に軽度の間質性肺炎を疑わせる場合が少なくないことと経験しています。間質性肺炎は多種が知られていますが、進行性であることが多く、呼吸不全となったり、経過中に肺がんがみられることがあることが注目されています。


 新型コロナ感染の流行は、社会的にも大きな傷跡を残しましたが、医療の上でも回復後に注目していかなければならない問題点が少なくないことを示唆しています。



参考文献:



1.The C-MORE/PHOSP-COVID Collaborative Group.

Multiorgan MRI findings after hospitalization with COVID-19 in the UK (C-MORE): a prospective, multicenter, observational cohort study.

Lancet Respir Med 2023; 11: 1003–1019.


2.  Ekbom E. et al.

Impact of interstitial lung disease on COVID-19 severity: A nationwide register study.

Respiratory Medicine 2025;25:248108372.


※無断転載禁止

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