2020年8月26日
COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)の治療でもっとも難しいのは「増悪」の治療です。治療が遅れると重症化し、しかも退院してもすぐに再入院となることがあります。医療費もかかるし、活動度が低下する原因となります。早期発見、早期治療が大切ですがその判断は簡単ではありません。
ここでは、COPDの増悪の考え方を、国際的なガイドライン[1]を参考に説明します。
Q.増悪とは何か?
・息切れ、咳、痰が悪化して、これまでの薬による治療では改善しないので変更しなければならない状態を言う。
・この症状があれば増悪というような特別の症状はない。また、検査で確定できる項目はない。
Q.増悪で何が問題となるか?
・増悪から回復しても健康状態が低下したままのことがある。
・緊急入院が必要となり、しかもくり返しの入院となる場合がある。
・肺機能が低下する結果、COPDそのものが悪化する。
・増悪の機序は複雑で全貌が解明されていない。気道に炎症が新たな炎症が加わり、喀痰が多くなり、空気の流れが悪くなり息切れが悪化すると考えられるが、この状態を検査で把握することは難しい。
・心不全など他の疾患が同時に悪化することがあり、治療が複雑になる。
Q.増悪の原因は何か?
・最も重要な原因は感染である。
Q.増悪に対する治療の目標は?
・増悪によって生ずるさまざまな負の要素を断ち切り、予防することである。
Q.増悪の主な治療?
・ステロイド薬の経口や注射を行う。
・必要な場合には抗生物質を投与する。
Q.増悪と紛らしい疾患とはなにか?
COPDの増悪の診断は、経過から判断するが紛らわしい疾患には以下がある。
増悪では鑑別するため胸部レントゲン写真、心電図、血液検査などを症状に合わせ緊急で検査し短時間で結論を出す。
・肺炎
・自然気胸
・胸膜炎あるいは胸水貯留
・肺血栓塞栓症
・心不全
・不整脈
Q.増悪の重症度の判断は?
・軽症 ➡ 追加の短時間作用型の気管支拡張薬の吸入のみで改善。
・中等症 ➡ ステロイド薬(経口、注射)、抗生物質などの治療が必要。
・重症 ➡ 入院が必要な程度。酸素吸入が必要となる。
Q.治療や判断が難しい増悪とは?
・以前は、増悪は「急性増悪」と呼ばれていたが、必ずしも数日の経過ではなく、場合によっては数か月間の増悪がある。
・骨折や腰痛など身体に疼痛があり、それが適切に治療されていない場合には増悪の原因となることがある。
・高齢者は重症化しやすい。また、独居など居住の環境では増悪の発見が遅れ重症化しやすい。
・隠れて喫煙などの場合には増悪をくり返すことがある。増悪を起こした原因が改善しない限りくり返し増悪を起こす。
・入院が必要な重症の増悪では、平均3週間ほどの入院期間となることが多い。これにより日常の活動性を低下させる。
・入院後は早期からリハビリテーションを並行して実施することが必要であるが必ずしもその態勢ができていない。
・晩秋から冬季に増悪の頻度が高い。増悪の原因はウィルス感染が多く、ライノウィルス、インフルエンザ感染が多い。
私たちが、COPDの患者さんを診る場合には、息切れや咳、痰を訴える患者さんですがその8割以上は増悪が改善しない状態が続いている場合です。治療がうまくいけば増悪を起こす前の状態にまで回復できます。繰り返し起こる増悪を予防し、早期に治療を行い、日常の生活を低下させないために在宅酸素療法や在宅人工呼吸法を積極的に取りいれた治療法を行っています。
他の問題点は、COPDの原因となる長い間の喫煙が原因で肺がんが多くなることです。増悪の症状で早期の肺がんが偶然、発見されることが多くなっています。これもCOPDの治療では重要な視点であると考えています。
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