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No.139 新型コロナ禍の最前線で働く医療者の葛藤


2021年2月8日


 わが国の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の総数は、385,505人、死亡総数は、5,686人(2021年1月31日、現在)に達しています。パンデミックとなり、晩秋の頃は、最前線で働く医療スタッフにも感謝の表明がありましたが、入院の待機中に死亡者が見られるようになり、不安と怒りは医療への風あたりの強さとして感じられるようになってきています。

 ここで、紹介する論文[1]は、フランスの集中治療室で、最重症のCOVID-19の治療にあたってきた医療スタッフが、重圧の中で個人的にどのように苦しみながら働いていたかを解析し、解決方法を提言するものです。




Q.何が問題か?


・最重症のCOVID-19は、集中治療室(ICU)で治療を受けるが、クリティカルケア医療提供者(HCP)は、その最前線で行動してきたいる。


・HCPに含まれるスタッフとは、看護師、看護助手、上級医、レジデント医、医学生、理学療法士など関連業務者を含む。


・ICUで働く、HCPの心理的負担が限界を超えると医療崩壊や、医療事故につながる可能性がある。


・COVID-19パンデミックの中、中国、武漢の34の集中治療室で働く職員の半数以上が深刻な心理的負担を感じていた。


・心理的負担がどのような要因により生じたかを明らかにすることによりHCP間の精神的な悪影響を防ぐ戦略を考案することができる。




Q.どのように本研究は実施したか?


・2020年4月20日より5月21日までにCOVID-19の治療目的でICUにて治療を行った21の施設で働くHCPを対象。ウェブによるアンケート調査。


・ICU入室治療者の50%以上がCOVID-19の治療目的であった施設を抽出。ベッド総数は、1,580.1,058人(全体の67%)が回答。臨床的に使用されている心理テストを含めた。




Q.回答者の内訳は?


・回答者の68.3%が看護師、看護助手。29.1%が医師、レジデント医、医学生。2.6%がその他の医療関連業務。女性が71%。




Q.主な回答結果は?


HCPの8%はCOVID-19に感染した。84.8%には感染した同僚あり、うち5.6%にはCOVID-19で同僚が死亡。40.4%には感染した家族があり、そのうち11.3%は入院が必要であり、3.9%はCOVID-19で死亡していた。

 以下が回答内容である。


・COVID-19のケアは技術的に困難があった。


・感情的に困難があった。


・制度的な支援が大きかった。


・他の部門との関係が密接化した。


・COVID-19診療の経験を通じてチーム内の安全性が高まった。


・国民からの感謝の必要性を感じた。回答者の一部は、働くことを誇りに思っていた。


・不安感は、自分が感染すること、家族や友人を感染させること、同僚から感染すること。


・感染患者の終末期治療方針が急に決められたことを目撃した(42.2%)。


・親族が終末期に面会できなかったことを後悔した(31.5%)。半数がその悲しみを報告した。不眠症となった(37.8%)。


・患者急増で完全に休むことができなかった(22.9%)。


・心理テストによれば、不安(50.4%)、うつ病(30.4%)、外因的な心理乖離(peritraumatic dissociation)(32%)。これらの有病率は、HCPの職種によって異なり、看護助手で最も高く、不安(62.1%)、うつ病(40.6%)、外因的な心理乖離(46%)であった。


・上記の比率は、女性では統計的に有意に多数だった。


・また、大学病院では、少ないが病院規模が小さくなると多くなった。




Q.作業環境を改善することにより改善できる項目は何か?


 以下の6項目が特に問題で看護助手、医学生で問題であった。


・感染の恐れ。


・休むことができない。不眠に苦しむ。


・自分の家族の世話ができない。


・困難な感情に苦しんでいる。


・患者の面会制限に苦しんでいる。


・急死の目撃。自分自身の罪悪感に繋がる。




Q.スタッフの心理的負担を軽減することの効果は?


・作業管理を改善し、医療レベル、スタッフ間の結束、コミュニケーション、現場で働く価値を強調する組織レベルの介入は、HCPの満足度、ストレス、および医療の質を改善する可能性がある。


・職域での恐怖があると、精神的負担が増し、倦怠感、欲求不満、孤立、家族からの離脱の原因となる。


・睡眠不足は神経行動学的なパフォーマンスを低下させる。回答者の40%が不眠症を訴えている。睡眠不足は医療過誤を起こすというデータがある。




Q.心理的サポートとなる戦略とは?


病院とICUリーダの責任となるのは以下の点である。


・病院は、個人用保護具を十分量、入手すること。着用と脱衣のトレーニングを行うこと。面会制限を回避する方策を工夫する。感情的に苦しんでしるHCPに対する心理的サポートを行う。


・ICUリーダは、HCPの勤務スケジュールの整理を行い、自宅での時間と休憩時間、職務中の短時間の休息や昼寝の機会を確保する必要がある。




 重症者を受け入れる医療機関が逼迫してきています。朝日新聞、2021年1月31日は、次のように報道しています。

「国内の病院の多くは民間だ。急性期病棟をもつ4255医療機関のうち3分の2を占める。厚生労働省の昨年11月末集計では、コロナ患者の受け入れが可能と答えたのは約4割の1707機関だった。民間の受け入れはわずか21%。公的は83%、公立は71%と差は大きい」。

HCPの中では女性の看護師、看護助手が心理的な異常を来す割合が大きく、しかも大学病院よりも規模が小さな病院で比率が高くなっています。感染予防の教育、設備や人員配置が十分でないところで不安が大きいようです。これらの問題点を解決し、医療機関どうしの連携、教育や情報提供ができるだけ早く必要となってきています。




参考文献:


1.Azoulay E. et al. Symptoms of anxiety, depression, and peritraumatic dissociation in critical care clinicians managing patients with COVID-19; A Cross-Sectional Study

Am J Respir Crit Care Med 2020; 202, 1388–1398. Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202006-2568OC on August 31, 2020


※無断転載禁止

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