No.193 6分間平地歩行テストとは何か?


2021年8月18日


 COPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめ慢性呼吸器疾患の患者さんを苦しめる症状の一つが息切れです。息切れは、主観的な感覚ですが、安静でもいつもと異なる息切れを感ずるようなら「増悪」という一過性の悪化が起っている場合が多く、治療は急がなくてはなりません。しかし、多くの場合は、ここ数か月間あるいは1、2年のうちに次第に強くなってきた、という訴えを聞きます。特に階段を上るときや、荷物を持ったときなど身体に負荷がかかったときに以前よりも強くなってきた場合には、病気であることを強く疑います。


 慢性呼吸器疾患が怖いのは、息切れが強くなると外出を避けるようになる(home bound)、さらに強くなるとトイレに行くのがやっとになる(bed bound)。つまり、悪化することで寝たきりに近くなることが問題です。寝たきりに近くなると次第に手がかかるようになり多くは自宅での介護が難しくなり、医療費が次第に高額化していきます。治療の過程では、日常生活での能力(日常生活動作:ADL)が低下しないようにすることが目的の一つです。


 どのくらいのADLが保たれているのか、治療で良くなっているのか、悪化しているのか、効果を判定する検査が6分間平地歩行テスト(6MWT)です。私たちが、最も重視している検査方法の一つです。

 

 ここでは、米国胸部学会が患者さん向けに提供している6MWTの情報を紹介し[1]、さらに最近、欧州呼吸器学会から検査方法の注意について述べた論文[2]を紹介します。




Q.6MWTとは何か?


・簡単に実施できる運動テストあるいはストレス・テストである。


・6分間にどの程度の距離を歩くことができ、その間、息切れをどのように感ずるかを確認する。その間の酸素飽和度の変動をパルスオキシメータで調べる。




Q.6MWTの臨床的な位置づけは?


・米国胸部学会(ATS)が6MWTの標準方法を発表した(2002)。


・米国胸部学会(ERS/ATS)が合同で改訂し、呼吸器疾患の治療評価で重要なことを発表した(2014)。




Q.なぜ6MWTを実施するのか?


・6分間にどのくらいの距離を歩くことができるかを検査する。これにより運動能力を知ることができる。


・6MWTは、運動器具を必要としない簡単な検査方法である。


・障害物がない平地で実施する。


・健康な同性同年齢者でどのくらいの距離の歩行ができるかのデータがあるので比較できる。


・どのくらいの距離を歩行できるかで呼吸器あるいは心疾患の重症度と将来予測ができる。


・くり返し実施することにより良くなったか、悪化しているかの治療効果が判定できる。知ることができる。重い疾患状態でも検査が可能。


・距離と酸素飽和度を測定する。


・対象疾患は、呼吸器領域ではCOPD、間質性肺疾患、肺高血圧症などに用いられる。




Q.6MWTが実施できない場合とは?


・最近、1ヵ月内に心臓発作があった。


・狭心症など虚血性心疾患が疑われる場合。


・重症で治療が実施されていない血圧の上昇がある場合。


・頭がもうろうとしている状態、めまい、検査中に酸素飽和度が大きく低下する場合。




Q.6MWTから何を知るか?


・テスト開始前、10分間は座位か安静での状態観察を行う。


・テスト開始前に、現在の身体状態について簡単な問診を行う。


・血圧、脈拍、酸素飽和度を測定する。


・歩きやすい服装、靴であることを確認する。


・開始前に疲労感、息切れのレベルを確認する。




Q.どこで検査を実施するか?


・医療機関の中で実施する。


・検査の場所は平坦で硬いこと、滑りにくいこと


・検査中に検査担当者が話しかけをしない。


・パルスオキシメータを付けて歩行する。


・テスト中に息切れが強くなったり、疲労感が高度のときは中止する。


・終了時には、疲れやすさ、息切れの程度を聞き取る


・検査を2回実施することがある。2回目は学習効果で距離が延びることが多い。しかし、疲労感が加わる。


・テストは常に同じ場所で行う。杖など介助が必要な場合には同じものを使う。




Q.酸素を使用している場合は?


・通常、労作時使用で指示されている流量を守る。


・テスト中に酸素飽和度が高度に低下した場合には中止することがある。




Q.テストの準備は?


・歩きやすい服装と履物を準備する。


・日常的に使用している薬(吸入薬を含む)はそのまま使う。


・検査の1~2時間前の食事は良い。直後は控える。


・日常の生活で用いている装具などはそのまま使用する。




Q.6MWTで看護師など検査担当者と一緒に歩いたときと一人で歩いた時の影響は?


以下が発表論文[2]である。

当初は、パルスオキシメータの記録の問題から検査担当者が並行して歩行した。


・6MWTの実施で、一人で歩行した場合と検査担当者と歩行したときの差異を検討した。


・49人のCOPD患者、軽症から最重症まで。


結果:一緒に歩いた場合には、距離は平均-9.1m短くなる(-13.9~-4.3m)(p<0.0004)。

脈拍数、息切れの程度、下肢の疲労感、酸素飽和度に差はなかった。

患者の感想ではとくにどちらかの希望なし。


結論:患者が付き添いなしの一人で検査を受けた方がよい。



 6MWTは、パルスオキシメータがあれば実施できる簡便な検査方法ですが、反復して検査を行うことにより日常生活における治療効果を判定することができます。

 私たちのクリニックでは、重要な検査と位置づけ、中央に専用の廊下を作ってあります。

検査中に患者さんが、圧迫感を感じないようデザイナーがグリーン系でまとめてくれ、私は、密かに「松の廊下」と呼んでいます。慢性の呼吸器疾患の治療では、日常生活をできるだけ快適にしかも活動的であるようにすることが大切であり、そのための運動療法、栄養指導や日常生活での注意点を正確に知ってもらうことを重視し治療を進めています。




参考文献:


1. Heinicke G. et al. Six-minute-walking testing

American Thoracic Society, Patient education/information series.

Am J Respir Crit Care Med 2021; 204: P5-P6.


2. Riegler TF. et al. Accompanied versus unaccompanied walking for continuous oxygen saturation measurement during 6-min walk test in COPD: a randomised crossover study

ERJ Open Res 2021; 7: 00921-2020

https://doi.org/10.1183/23120541.00921-2020


※無断転載禁止


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