2021年9月15日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、コロナウィルス(SARS-CoV-2)による急性の呼吸器感染症ですが、重症化し、血栓症をはじめ多臓器にわたる機能不全を起こすことが問題です。
同じウィルス感染症であるインフルエンザ感染症は、ワクチンがあり、治療薬もありますが高齢者では重症の肺炎を起こすことがあります。死亡統計では流行年には、多くの死者を出ています。インフルエンザは、散発的に真夏でも発症がありますが多くは晩秋から真冬の季節に流行があります。インフルエンザでは、ウィルス性肺炎の頻度は少ないのですが多くはインフルエンザ感染に伴う細菌性肺炎が問題です。
新型コロナウィルス感染症とインフルエンザ感染症を比較するとき、同じような細菌性肺炎を起こすのか。さらに治療面ではインフルエンザ肺炎のように抗生物質(抗菌薬)の投与が必ず必要であるのか。治療の根幹にかかわる問題点です。
COVID-19の治療では、米国学派(米国感染症学会)は基本的に抗菌剤の投与は不要とするのに対し、欧州学派は、抗菌剤を併用すべき、と治療に関わる基本的問題で差異があります。
ここで紹介する論文[1]は、フランスで36カ所の病院の集中治療室で治療を行ってきたCOVID-19と同じ施設で治療を実施したインフルエンザによる肺炎の治療を行ってきた患者を比較、検討したものです。編集者の解説[2]、その他の資料[3]を含めて紹介します。
Q. インフルエンザ感染とは何か?
以下は文献3による。
・主にA型またはB型インフルエンザウイルスによって引き起こされる急性呼吸器疾患である。冬季に、世界中で発生や流行で頻繁に発生する。
・感染者の呼吸器分泌物には、インフルエンザウイルスが大量に存在することが多い。その結果、感染は、大きな粒子の飛沫、くしゃみや咳を介して感染する可能性がある。
・インフルエンザウイルス排出の平均期間は5日間である。排出は通常6日または7日後に停止するが、特に子供、高齢者、慢性疾患の患者、免疫不全の患者では、最大10日以上続く場合がある。
・インフルエンザは、1〜4日(平均2日)の潜伏期間の後、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感の突然の発症から始まるのが特徴である。これらの症状と徴候は、空咳、喉の痛み、鼻分泌物などの気道疾患の症状を伴う。
・インフルエンザの主な合併症は肺炎であり、基礎となる慢性疾患を持つ患者の特定のグループで最も頻繁に発生する。
・肺炎の種類は、原発性ウイルス性肺炎(ウィルスによる肺炎)、続発性細菌性肺炎(細菌による肺炎)。または両者の混合として分類される。
・中枢神経系疾患はインフルエンザに関連している可能性がある。症状には、脳症、脳炎、横断性脊髄炎、無菌性髄膜炎、ギランバレー症候群などがある。
インフルエンザの他の合併症には、筋炎、横紋筋融解症、心筋炎、および心膜炎が含まれる。インフルエンザ感染と急性心筋梗塞の発症の間には関連性がある。
・インフルエンザウイルスは気管支上皮に影響を及ぼし、細胞のサイズの減少と繊毛の喪失に直接つながる病変を起こす➡気管支壁の傷害が広範に起こるので気管支肺炎を起こしやすい。
・2009年から2010年のH1N1インフルエンザA型パンデミックの間に、急速に進行する肺炎、呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群、および多臓器不全により死亡者が増加した。
Q. 現在の問題点は?
・COVID-19患者が肺炎で入院する際の重要な問題の一つは、感染が細菌性であるかどうか。したがって抗生物質を投与する必要があるかどうか、が問題となる。
・現在、COVID-19に実施されている診断は高感度PCR技術を利用している。ウイルス感染が存在するかどうかの判定はできるが、患者が細菌の重複感染を持っているかどうかのチェックは通常は実施していない。
Q. インフルエンザに伴う細菌感染の研究史は?
・1892年のインフルエンザ発生時にインフルエンザ菌を発見した(Pfeiffer)。
1918年までに、ヘモフィルス、肺炎連鎖球菌、および化膿性レンサ球菌がインフルエンザに伴って起こる細菌感染の起炎菌として広く認識された。
・1918年から1919年のパンデミックではインフルエンザで死亡した人の入手可能なすべての証拠を再調査し、「事実上すべての」患者における二次細菌感染の証拠を報告した。その結果、黄色ブドウ球菌が、1958年のインフルエンザの流行において重要な重複感染生物として追加された(Morensら)。
Q. 本研究、COVID-19、インフルエンザにおける細菌感染症の研究方法は?
・仏、36病院の集中治療室でCOVID-19あるいはインフルエンザとして治療を受けた1,050人を2群に分けて比較した。
細菌感染の有無と種類は、気管内挿管を実施するときの吸引痰、気管支鏡による気管支肺胞洗浄液、血液培養、尿中の肺炎球菌抗原、レジオネラ菌抗原検査を実施。
Q. COVID-19 とインフルエンザで細菌感染における差異は?
・細菌による肺炎はインフルエンザに多い。COVID-19 は9.7%、インフルエンザは33.6%、P<0.001。
・グラム陽性球菌による感染は、COVID-19では58%に対し、インフルエンザは72%。
・入院後28日目の段階でのCOVID-19で肺炎合併の死亡率は、Oddは1.57; 95% CI, 1.01–2.44;P = 0.043)。
・COVID-19とインフルエンザの間で細菌性肺炎の合併の有無による死亡率には差がなかった。
・細菌感染のうちグラム陽性球菌のうち肺炎球菌による場合は、COVID-19が21.8%に対し、インフルエンザでは32.1%であった。
・結論:COVID-19の治療では気管内挿管を実施した後、48時間の時点で細菌性肺炎は、インフルエンザと比較してCOVID-19では有意に頻度が少ない。
ウィルスによる急性呼吸器感染症であってもCOVID-19とインフルエンザでは、重症化したときに起こす細菌性肺炎の頻度と、起炎菌に差異があることが判明しました。
本論文の結論は、まことに簡単ですが、40人以上の研究者による共同研究であり、膨大なデータがもとになっています。最重症のCOVID-19とインフルエンザでは重症化の要因の一つである、細菌感染の寄与の仕方が異なることが判明しました。他方、ウィルス感染にという共通点も判明しました。
肺炎球菌ワクチンは、冬季に頻度が増す、インフルエンザに合併する肺炎を予防する働きがあります。COVID-19に対しても有用性が高いことが推測されます。
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