2021年11月29日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、多くの慢性疾患がある場合に感染リスクが高くなることが知られています。
米国疾病予防管理センター(CDC)は、学術論文の裏づけに拠ってCOVID-19の感染リスクの高い疾患として以下を挙げています[1]。
・癌
・脳血管障害
・慢性腎臓病
・慢性呼吸器疾患は以下
間質性肺疾患
肺塞栓症
肺高血圧症
気管支肺異形成症
気管支拡張症
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・慢性肝疾患は以下
肝硬変
非アルコール性脂肪性肝疾患
アルコール性肝疾患
自己免疫性肝炎
・1型および2型糖尿病
・心疾患(心不全、冠状動脈疾患、心筋症など)
・メンタルヘルス障害は以下
うつ病を含む気分障害
統合失調症スペクトラム障害
・肥満(BMI≥30kg/ m2)
・妊娠と最近の妊娠
・現および既喫煙者
・肺結核
この中には夜間睡眠中に低酸素血症を繰り返す睡眠呼吸障害(SDB)は入っていません。SDBは、肥満、脂肪肝、糖尿病の合併症や喫煙者が多いことで知られています。
COVID-19が重症化すれば動脈血中の酸素濃度(分圧)が低下しますが、ここで紹介する論文は、睡眠中の低酸素血症が強い場合にはCOVID-19が重症化しやすいのでハイ・リスク・グループとして対応すべきである、と結論しています。
研究は、米国、オハイオ州にある臨床評価の高いクリーブランド・クリニックで実施されました[2]。
Q. SDBにおける問題点は?
・COVID-19感染後、CPAP(持続陽圧呼吸)療法を実施すると呼気のエアロゾル化が懸念されるため、同室者が危険な状態となる。入院ではCPAP治療の継続は難しい。
・COVID-19で入院が必要となるのは低酸素血症となったときであり、集中治療室で治療しても死亡率は40%-80%に達する。しかし、これは夜間睡眠中の低酸素血症があったかどうかは判断していない。
Q. 研究方法は?
・クリーブランド・クリニックで5,402人を対象としたケース・コントロール研究。COVID-19の診断検査(PCR検査)とSDBの検査を受けた人たちを対象。
1)SDBとSARS-CoV-2ウィルス陽性(すなわちCOVID-19)との関連を評価した。
2)後ろ向きコホートデザインを使用し、COVID-19の診断で入院した場合の予後調査(臨床転帰)と関連する事項を調査した。
・OSAに関する検査項目では、睡眠中の1時間に10秒間以上の呼吸停止回数(AHI)と睡眠中の低酸素血症、すなわち全睡眠中の酸素飽和度が90%未満である比率(TST<90)を指標とした。
・COVID-19の重症度はWHO基準である入院、酸素吸入、非侵襲性換気療法、人工呼吸器使用、エクモ使用、あるいは死亡、に分類した。
Q.結果は?
・SARS-CoV-2検査を実施した計約35万人のうち、男性、5402人(平均56.4歳)、女性、3,005人(平均55.6歳)は以前に睡眠時無呼吸に関する検査を受けていた。そのうち、1,935人(35.8%)が陽性者でCOVID-19と診断された。
・SARS-CoV-2が陽性対陰性の比率では、前者でAHIスコアが高かった(中央値、16.2 [IQR、6.1-39.5]対13.6 [IQR、5.5-33.6]。P<.001)
・陽性者でTST <90の増加がみられた(中央値、睡眠時間の1.8%[IQR、0.10%-12.8%] vs 1.4% [IQR、0.10%-10.8%]
・TST<90は、WHO指定のCOVID-19重症転帰スケールと関連していた(調整オッズ比、1.39; 95%CI、1.10-1.74; P = .005)。イベントまでの時間の分析では、入院率と死亡率が睡眠関連の低酸素症が31%高いことが示された(調整済みハザード比、1.31; 95%CI、1.08-1.57;p = .005)。
・睡眠関連の低酸素は、肥満指標のBMI、併存疾患、喫煙歴、および医療システムの場所を調整した後でも、WHO指定のCOVID-19悪化尺度スコアの増加と有意に関連していた。
Q.結論と考察は?
・ SDBと睡眠関連の低酸素症はSARS-CoV-2陽性の増加とは関連していないが重症化と関連している。すなわち、SDB患者がCOVID-19に感染すると予後が悪い。間P
・低酸素状態の増強は、炎症反応を増強させ、血液凝固能を高め、炎症性サイトカインを上昇させ、ウイルスの複製を促進することが報告されている。
・断続的な低酸素症は、交感神経活性化、内皮機能不全、全身性炎症、及び酸化ストレスに関与していることが知られている。
・最近の研究では、COVID-19における低酸素血症が炎症マーカーの上昇、すなわち、白血球数、好中球数、D-ダイマー・レベル、およびC反応性タンパク質(CRP)レベルの上昇と関連しており、ウイルス複製を促進することが判明した。
したがって、進行性低酸素症はCOVID-19疾患の増幅因子として作用する可能性がある。
・COVID-19における低酸素は、微小血栓症を含む、肺実質の炎症、低酸素性の肺血管収縮、及び肺損傷拡大など多くの影響を与える。
・低酸素血症(酸素吸入にもかかわらず動脈血酸素(SaO2)<90%)がCOVID-19の重症患者の死亡率と関連しているという観察結果と一致している。
・低酸素状態、すなわち、TST<90が0.5%以上の場合は、認知障害などを起こす可能性がある。また、これが12.8%を超える場合は左心室肥大などの心臓の構造異常に関係しているとされている。
日常診療は、エビデンスと呼ばれる科学的検証を受けた客観的事実にもとづき進められています。しかし、臨床研究から一定の結論を出すためには、かなり膨大なデータと長期間を要します。
本研究は、睡眠時無呼吸症候群がCOVID-19のハイ・リスクであるということからさらに進めて睡眠中に生ずる低酸素が危険因子であると主張したところに特徴があります。
COPDを含め、多くの慢性呼吸器疾患では、夜間の低酸素が強く起ることが知られています。従来の医療は、日中の生活に視点が置かれていましたが、夜間睡眠中の低酸素の持続時間がCOVID-19の重症度に関わっていることを明らかにした点を評価したいと思います。
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