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No.236 小児の新型コロナウィルス感染症の重症化とはなにか?


2022年2月12日


 オミクロン株に置き換わって以来、若い年齢層の感染者が急増しています。

厚労省の発表(2022年1月20日現在)では、20歳代が全体の31.7%、10歳以下は24.5%と若年層で急増しています。感染者の全体数が増え、加えて高齢者や糖尿病やCOPDなど合併症の多い中年層にも広がり結果として重症者数も増加しています。


 小児の感染者は比較的軽症で推移することが多いと云われていますが、総数が急増すると中には重症化することもあります。

 小児の新型コロナ感染症(Covid-19)の特徴や問題点は何か?欧州呼吸器学会では最近、知見をまとめた論文を発表しています[1]。ここでは、問題点を中心に判明していることを紹介します。ただし、現在、流行中のオミクロン株とは多少、異なる可能性があります。

 



Q. 小児Covid-19のアウトラインは?


・小児Covid-19の発症頻度は低い。


・しかし、神経疾患がある場合には重症化し、死亡リスクが高くなる。小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)や多系統性炎症症候群(MIS-C)は、感染後、3~6週間後にみられるが発症頻度は0.05%と極めて稀である。


・MIS-C発症例では、50%以上において急性および感染後に心筋機能障害、消化器、腎機能、皮膚症状などが生ずる可能性がある。


・現時点では、レムデシビル、ステロイドなどによる治療効果は認められておらず、治療は主に対症療法として実施されている。


・PIMS-TSの治療は川崎病の治療に準じて実施されているが治療効果を確認のための臨床治験の早期実施が望まれている段階である。


・パンデミック期間中に子供の身体面、メンタル面に長期的な影響が出る可能性がある。

 



Q. 発症頻度は?


・SARS-CoV-2による小児の感染頻度は国際的なデータでは1~2%と低率あった。23か国のデータでは19歳以下では3.38%と同様に低率と報告されてきたが、これらはデルタ株の感染データであり、これ以降のオミクロン株の詳細なデータは不足している。米国のデータでは2021年夏以降では小児が感染し、重症化したため入院が必要となった症例は10倍以上の頻度に増加した。


・小児における感染データは入院治療例に限られているので一般的な小児期の感染データは不明である。小児期の無症候性感染(無症状感染)は14.6~42%と報告されている。




Q. 新生児の感染リスクは?


・母親および新生児の感染リスクは同様であり、さらに免疫機能が低下した出産後では重症化のリスクが高い。英国、中国からの報告による母子の垂直感染リスクは2%と報告されている。


・妊婦の感染リスクは英国からの報告では、35歳以上の妊婦、心疾患、糖尿病を有する場合はエクモによる治療が必要となるリスクが高い。


・母乳からの感染があるかどうかについては現時点でのデータは不足しているが感染ルートとして乳房皮膚表面からのウィルス感染が疑われている。


・SARS-CoV-2のウィルス感染は組織にACE受容体を有する臓器では感染の受け皿になることが知られているがこれは胎盤組織、胎児組織にあるので胎児感染がありうる。ウィルスが、羊水および胎盤組織から検出されたという報告がある。




Q. 小児の感染症状は?


・症状では発熱(46~64.2%)、咳(32~55.9%)が多い。その他の症状には、息切れ、筋肉痛、鼻漏、頭痛、吐き気/嘔吐、腹痛、下痢、喉の痛み、疲労、嗅覚、味覚異常がある。成人見られる症状に加えて悪寒、戦慄が見られる。


・感染した小児の半数で、胸部レントゲン像(XP)で肺炎がみられている。これは必ずしも臨床的な重症像とは相関しないので全ての場合に胸部XP撮影は被ばくを避ける点から不要とされている。血液検査では特有な所見は報告されていない。




Q. 感染後の小児コロナの問題点は?


・パンデミックとなった英、イタリアでは頻度は極めて少ないが小児の重症例で川崎病やtoxic shock syndromeに近いPIMS-TSあるいは炎症性多系統症候群を起こすことが報告されている。


・PIMS-TSは、SARS-CoV-2感染後、3~6週後に発症する。これは多臓器にわたる障害を起こすことが特徴である。




Q. 合併症としてのPIMS-TSとはなにか?


・PIMS-TSの特徴:小児の多臓器障害として知られる。症状は、ショック、心不全となり集中治療室での治療が必要となる。冠動脈に炎症病変を来すことがあり、この場合には重症となる。発症機序は不明である。




Q. 小児PIMS-TSにみられる特徴的な病変とは何か?


・発熱、粘膜皮膚症状(結膜出血、粘膜紅斑、紅斑丘疹反応)、胃腸症状(腹痛、下痢、嘔吐)。


(図1)

上段:PIMS-TSにみられる結膜炎

下段:手掌および腹部皮膚の紅斑丘疹




Q. 全身症状の要点は?


神経学的な異常(混迷、頭痛、嗜眠傾向)、心臓病変を40~50%にみる。これらPIMS-TSの症状はSARS-CoV-2感染後、3~6週間遅れて発現する。

死亡率は1.8%であり、多くは発症後数週間で改善する。しかし、軽度の心筋障害や冠動脈瘤は低率(5.5%)であるが持続する。これらの治療法はまだ模索中の段階にある。


小児炎症性多系統症候群の定義

1.発熱、炎症と単一および多臓器障害がみられる

2.他の感染症を除外できること

3.新型コロナウィルスのPCR陽性あるいは陰性

4.図2に示すような症状を伴っていること


(図2)




Q. 小児のSARS-CoV-2感染症の予後は?


・ほとんどの子供は4週間以内に回復する。8週間を超える症状の持続はまれである。一般的に報告されている持続的な症状には、倦怠感、頭痛、睡眠障害、筋肉や関節の痛み、呼吸器系の問題、動悸、嗅覚や味覚の変化などがある。




Covid-19の感染は、ワクチン接種率の低い、若年者や小児に頻度が高くなっています。

小児の感染で重症化する頻度は低いのですが、川崎病とよく似た炎症性多系統症候群が起こる頻度が問題です。感染後、3~6週間後にみられるといわれ、急性期の症状が治まってきてから発症する点が分かりにくく、対処の難しい点です。


米国では、14万人以上の子供たちが、親または介護者を失ったと言われています。パンデミック期間中を乗り越えても広く子供の身体面、メンタル面に深刻な長期的な影響が出る可能性があり、心配されています。




参考文献:


1. Longbottom K. et al. Clinical features and acute management in children[In: Fabre A. Hurst JR, Ramjug S. eds. COVID-19 [ERS Monograph]. Sheffield, European Respiratory Society, 2021; pp.144-161

[https://doi.org/10. 1183/2312508X.10024320].


※無断転載禁止

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