2020年1月20日
COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)は、頻度が高い病気の一つであり、その研究の歴史は半世紀以上も前にさかのぼります。
歴史は古い病気ですが、新しい治療となる画期的な発見が少ないのが悩みです。
最近、アレルギー症状が強い難治性の喘息に新しく開発された抗体薬が著効を示すことが注目されています。
抗体薬がアレルギー反応を担う好酸球の活性を抑えるので、喘息と近縁の関係にあるCOPDでも効果があるのではないか、と注目されています。
特にCOPDが一時的に悪化する「増悪」に好酸球が関与しているのではないか、もしそうならば、好酸球の活動を抑え込む治療でCOPDの増悪が治療、予防できるのではないかと考えられています。
多くの論文が発表されていますがここでは、COPDに関する臨床研究の第1人者のCelliらの意見を参考に紹介します。彼は抗体薬を使用することには慎重派の一人です。
Q. 好酸球とはなにか?
骨髄で作られる白血球の1種であり、アレルギー反応や炎症反応に関与します。染色を施した標本ではレンガ色に染まる特有の顆粒が細胞内に認められます。
喘息では、気道の広い範囲に好酸球による炎症を起こし、Tリンパ球で引き起こされる獲得性免疫を調節することが知られています。
肺の組織で増えた好酸球は、血液の中にも増えてきます。ただし、血液の中の好酸球は、総数でも組織の数百分の一に過ぎないのではないかと推定されています。
Q. 好酸球が気道の炎症を起こしていることをどのように知るか?
気道や肺胞に好酸球による炎症を起こしているかどうかは、痰の中に好酸球が細胞全体の3%以上、含まれているかにより推定します。
血液中にも好酸球が見られますが、正常では1-4%の範囲でこれよりも多ければ増加していると判定します。かつ喘息症状があれば両者が関係すると推定します。ただし、好酸球による炎症は喘息だけでなく好酸球性肺炎や肺腫瘍の可能性もあります。
Q. 好酸球とCOPDの関係は一定しない
・関係しているという報告が多いが一定ではない。
例えば、欧米人、3177人のうちの66%で好酸球が2%以上であったという報告、わが国の268人のうち19%で好酸球数 300以上(/cm3)あったという報告があり、対象の選び方により比率が大きく変わっています。
これは対象とする集団の取り方の違いによる可能性があります。
・好酸球が多いCOPDの増悪頻度はむしろ少なく、10年間の死亡率は少なかった。
・好酸球が多いCOPDではステロイド薬が効果的で抗体薬が効果的だった。
・好酸球が少ないCOPDでは併存症が多く、死亡リスクが高かった。
この論文の中でCelliらは、好酸球数が多いときにはステロイド薬、抗体薬が効果的である可能性を示唆していますが、決定的ではないと結論しています。
特に抗体薬が確かに効果的であるとする論文では統計的には効果であるとしても調査の対象としている例数が少なく、一般的な問題として広げることは難しく、研究途上にあるといえます。
結論的には、COPDで抗体薬を使う治療法を開始する場合の留意点として、
1) COPDと診断されており長い経過の中で好酸球の増加に一致して、重い「増悪」をくり返している場合
2) COPDが重症で好酸球が増えており、ステロイド薬の使用が経口薬、注射薬などで大量、頻回となり副作用が懸念される場合
3) 増悪を起こせば生命の危険が懸念されるような重症のCOPDの場合
などが現時点で好酸球が増えている場合のCOPDの新治療となる可能性があります。
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