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No.359 腸内の細菌叢が間質性肺炎の悪化に影響する

  • 1 日前
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2026年6月12日

 

 あらためて言うまでもなく、身体の構造は全臓器がそれぞれにつながりを持ち働いています。つながりの仕方には強弱はあります。つながりを表現する「臓器相関機能」という便利な言葉があります。例えば、COPDには胃潰瘍が多いことは古くから知られています。喫煙習慣は両者を悪化させますが二臓器の相互に関連して病気が発症します。心臓と肺の関係では、心臓の機能が低下し、心不全になると肺はうっ血状態となり、呼吸が苦しくなり、痰が増えます。他方、重い肺炎では、同様に呼吸が苦しくなり、痰が増えますが、軽度であった心不全を一気に悪化させることがあることはしばしば経験します。遡って、連鎖を断ち切り、適切に治療し、予防するには、「臓器相関機能」を知っておく必要があります。特に高齢者の治療では臓器相関機能を重視した治療方針が大切です。


 病気が起こる機序は臓器別には、研究が進んできましたが、臓器相関機能の解明という点ではうまく説明がつかない身体現象は多くみられます。AIは期待される手段ですが、複雑な機器を開発、導入しても一人の人間の生命維持の不思議さを突き止めるのは容易なことではないことでしょう。

 肺と心臓は、生体のエネルギー・プラントという共通の役割を担っています。しかし、臓器相関という見地から「肺と腸の臓器相関」は、と問われると簡単には答えられません。

 ここで紹介する論文[1]は、特発性間質性肺炎と腸内のマイクロバイオームというテーマに焦点をあてています。




Q. 間質性肺疾患(ILD)の概略は?


・ILDは、肺実質内の炎症と線維化の程度が混在することを特徴とする。多様な肺疾患群である。


・ILD患者の約40%では、肺の炎症と線維化が進行し、肺間質内でコラーゲンが制御不能に沈着し、効率的なガス交換単位の喪失し、進行性の低酸素血症咳や呼吸困難の慢性症状、そして最終的には呼吸不全を引き起こす。

 ➡線維性ILDの形態は進行性肺線維症と呼ばれ、予後不良である。




Q.  腸内マイクロバイオームと健康とは?


・ヒトの腸内には約1,000種、約100兆個の微生物が存在し、腸内環境の維持や免疫系、代謝系の調節に関与している。 

 ➡微生物が産生する物質は腸内だけでなく、血液や神経を介して全身の健康状態にも影響を与えると考えられている。

 ➡腸内マイクロバイオームの解析は、病気の発症メカニズムの解明や予防・治療法の開発に役立つと期待されている。




Q.消化管における感染防御の機能とは?


・動物は消化管に入る細菌を制御する複数のメカニズムを持っている。大きく分けて、細菌の成長を阻害するもの(例:唾液リゾゾーム、胃酸、ディフェンシン分泌)と、物理的なバリアを作ることで宿主から分離するもの(例:粘液バリア)に分けられる。


・宿主による細菌増殖の制御は絶対的ではなく、腸も無菌ではない。大腸では、部位すなわち各セグメントにおける腸内細菌叢の存在、組成などは、抑制が優勢か、分離が優勢かによって決まると言われている。

 ➡この機能により腸内保管庫が形成される。細菌はこれらの腸管領域に固有のものである。

 ➡抑制と分離のバランスは、細菌が健康促進や病気を考える上での影響に依存する。例えば、動物種によっては微生物を使ってセルロースを消化するが、セルロースは消化できない場合は、代わりにセルロースを消化する細菌がこれらの動物の腸内に固有の細菌として働く。大腸内の細菌維持は大腸の健康や小腸では吸収できない栄養素の消化での働きの面で重要である。

 ➡ 結果として大腸内に高濃度の細菌が存在する。




Q. 特発性肺線維症とは?


間質性肺疾患(ILD)は、多様な肺の間質に起こる病変を含む病名である。慢性肺疾患である。ILDの病因は十分に解明されていない。


注:人体の肺胞の厚さは約1/1000㎜と言われるがその構造にわずかの間質構造と呼ばれる細い線維芽細胞とごく少量のコラーゲン、エラスチンからなる線維成分を含む。

ILDは、既存の間質構造を基盤に進むことが多いという意見がある。


特発性肺線維症(IPF)は、ILDの一つに分類される。治療が困難で、一般的に予後不良とされている。




Q. 微生物叢(マイクロバイオータ)とマイクロバイオームの違いは?


「マイクロバイオータ」は、ある環境に存在する生きた微生物そのものの集合を指すのに対し、マイクロバイオーム微生物の遺伝情報や代謝機能、環境との相互作用まで含めた全体像を意味する。マイクロバイオームは、生命活動のネットワークとして理解される。


・マイクロバイオームは、単なる微生物の集合ではなく、遺伝情報や代謝産物、微生物間の相互作用、環境要因まで含めた動的な生態系として捉えられている。




Q. 間質性肺疾患はマイクロバイオームの異常であるという論拠とは?


間質性肺疾患(ILD)の発症には、マイクロバイオームが関与している。

マイクロバイオームとは、特定の環境に存在する微生物の集団とその遺伝情報・機能全体を指す概念である(上記)

 ➡土壌や水中、人体の腸内や皮膚、口腔、呼吸器、生殖器などに存在する微生物コミュニティを指す。 構成する微生物には、細菌、真菌、ウイルス(バクテリオファージなど)が含まれる。単なる微生物の集合ではなく、遺伝情報や代謝産物、微生物間の相互作用、環境要因まで含めた動的な生態系として捉えられる。




Q. 間質性肺疾患(ILD)と免疫応答の関係は?


間質性肺疾患(ILD)では、免疫応答の著しい調節異常が認められる。マイクロバイオームは免疫応答の重要な調節因子であり、肺マイクロバイオームはILDにおける肺胞免疫および臨床転帰と相関している。


・肺マイクロバイオームに関する観察研究のほとんどは、IPF患者を対象に行われている。

 ➡これらの研究で一貫して観察されているのは、IPF患者では肺の細菌負荷が増加しており、死亡率を予測できるということである。

 ➡しかし、そのメカニズムの理解は不完全であり、他の形態のILDにおける肺マイクロバイオームの役割についての理解も限られている。

 ➡口腔咽頭および腸のマイクロバイオームは、ILDにおける肺マイクロバイオームおよび肺免疫に影響を与える可能性がある。




Q.間質性肺炎の発症機序に関するマイクロバイオームの影響とは?


図1.間質性肺炎の発症機序に関するマイクロバイオームの影響。

出典:文献1より邦訳修正
出典:文献1より邦訳修正

口腔および消化器系と肺の間をつなぐマイクロバイオームの役割が重要である。


a) 口腔および消化器系(腸)と肺との関係 ➡口腔内のマイクロバイオームが肺内に微小吸引されることにより発症の原因となる。


b)腸―肺の関係は、消化器系のマイクロバイオームにより様々な要因が肺の病気の発症に影響を与える。


c)特発性間質性肺炎では、健常者と比較して細菌の増殖に伴いマイクロバイオームの影響力を増大させ、これに伴う負荷要因が高まり、肺内のマクロファージを刺激し、これが肺胞を構成する細胞を異常に活性化させ、間質性肺炎が進行する。

 

 

 

Q.健康な肺および病的(間質性肺炎)のマイクロバイオームの特徴は?

 

・健康な状態ではバイオマスが少なく代謝的に活性な微生物群集から構成されている。


・肺のマイクロバイオームの主な特徴は、微生物の多様性、構成、バイオマスまたは負荷がある。


・肺のマイクロバイオームは、微生物生態学の適応した島モデルに従うと考えられている。➡その主な特徴は これらの機能は、微生物の肺への侵入、肺内での微生物の増殖、および肺からの微生物の排除によって制御される。



 

Q.間質性肺炎におけるマイクロバイオームの特徴。


1)間質性肺疾患の中で特発性肺線維症(IPF)は頻度が高く、最も一般的な形態であり、予後が最も悪い。


2)増悪期には肺の細菌負荷が増加する。


3)安定期の患者でも細菌負荷が増加する。 肺の負荷は、特発性肺線維症(IPF)における死亡率の独立した予測因子である。


4) IPFでは肺のマイクロバイオームの構成が変化し、相対存在量が増加する。 ブドウ球菌と連鎖球菌は、気管支肺胞洗浄液中にこれらの菌種が検出される患者において、死亡リスクの相対的な増加と関連している。


5)口腔肺軸とは、口腔と肺の微生物群集の重複を指し、それは呼吸器系全体への拡散または微量誤嚥を意味する。


6)腸肺軸とは、腸内細菌叢(および短鎖脂肪酸などの関連物質)が肺の免疫に及ぼす影響を指す。

 

 


 間質性肺炎は、呼吸器疾患の中でもとりわけ治療法が難しい疾患の一つとして知られています。高度の息切れや空咳が特徴的な症状であり、進行すると肺からの酸素の取り込みが困難となり、血液中の酸素量が減っていきます。酸素療法は、これに対する治療法です。酸素は足りていますが、少し動いただけでの強い息切れや高度の咳き込みが患者さんを苦しめます。COPDや喘息は気管支の中を通る空気の通り易さがブロックされる状態ですが、間質性肺炎は、肺の容積が減少し、膨らんでくれない状態となります。

 古くは、ハーマン・リッチ症候群と呼ばれていましたが現在では間質性肺炎とまとめて呼ばれて、原因により細かく分けられています。分けられるようになってきたのは、免疫学を含め病理学的な進歩がありますが、他方で近年、HRCTと呼ばれる画像診断の進歩が挙げられます。

 別項でも紹介しましたが、間質性肺炎の新しい治療薬の進歩もみられます。


 私自身の思い出では、大学院時代の研究テーマが間質性肺炎の進行に関する超微形態学的研究でした。ブレオマイシンという抗がん剤の副作用で間質性肺炎が生ずることが話題となった頃でした。マウスに繰り返し、ブレオマイシンを注射し、間質性肺炎を作成し、その初期病変から全体の変化を解明しようとしたものでした。

 ここで紹介した論文にも少し出てきましたが、肺胞の中にある線維芽細胞と呼ばれる細胞が急に増えることにより細胞の周囲にコラーゲン、エラスチンと呼ばれる線維成分が急に増え、肺胞の壁が厚くなることが分かりました。また、その初期変化は、肺の一番外側、つまり胸膜(以前は肋膜とも呼ばれていた)の直下に見られることが判明しました。正常では細くわずかにみられる線維芽細胞の数が増え(増殖)、その周りに線維成分であるコラーゲン、エラスチンが増え、それらに囲まれるようになり線維芽細胞は細い元の細胞に戻っていきます。間質性肺炎については、いまでは、精緻な機序が判明していますが異常となった線維芽細胞の活性を抑え込むような治療薬は開発されましたが、細胞の周囲に増えたコラーゲン、エラスチンの線維成分を減らすような薬はありません。肺移植が残された治療手段ということになります。




参考文献:


1.Sheridan G. Mikhail, SG. et al.

The lung microbiome in interstitial lung disease. Breathe 2025 21(2): 240167; DOI: https://doi.org/10.1183/20734735.0167-2024


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