2020年4月21日
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)で重症となり集中治療室(ICU)に搬送されるのは全体の5%程度だと云われています。
治癒した時にはウィルスは身体から消えていき、これと伴に抗体ができ、もう二度と新型コロナウィルス感染症にかかることはないのではないか、というのが楽観的に考えたときの将来の予測です。
しかし、症状がすっかり良くなったときに、ウィルスは身体の中からいなくなるのだろうか、というのが疑問です。実際、PCR検査で陰性が確認されたはずなのに再度、陽性となったという例も報告されています。
ここで紹介する論文は、重症であった患者で、症状は良くなっても長期間、ウィルスを排出し続ける可能性があることを示唆した論文です。
Q. どのような研究方法か?
研究が実施された場所は今回のパンデミックの発端となった武漢市にある医科大学付属病院の集中治療室(ICU)。1月26日より2月25日までの期間にCOVID-19の診断が確定して治療中に重症化し、ICUに入室した16人を対象。
ICUに入室した直後から以下の方法でサンプルを採取した。以降、研究期間終了か、あるいはサンプルから2回、ウィルスが確認されない状態に至った時に終了とした。
それ以外は2,3日おきに以下の全てのサンプルを採取した。
上気道:咽頭、鼻の粘膜を綿棒で擦過。
下気道:喀痰あるいは吸引して得た痰。
瞼結膜:綿棒で擦過。
血液:血清、および血漿。
尿:
便:
中国CDCの勧告方法により各サンプルよりRNAを抽出。Covid-19を発症させたウィルス、SARS-CoV-2(現在流行している新型コロナウィルス肺炎のウィルスの名称)のRNAを得て、遺伝子検査で2つの特徴的な部分を備えているかを確認し、さらにこのウィルスの核膜の一部を検出し、両者が揃った場合にSARS-CoV-2あり、と判断した。
Q. 結果はどうか?
16人中、男性13人、女性3人。平均年齢 59.5歳(26歳ー79歳)。12人は他の地域からの搬送。4人は、同大学で発症を確認した患者。75%に1つ以上の合併症あり。胸部X線写真では全例に重症肺炎あり。15人は、COVID-19による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の診断。8人は中等度、7人は最重症。4人は非侵襲性(気管内送管なし)人工呼吸器装着、12人は侵襲性(気管内送管あり)人工呼吸器装着、5人はECMO(体外式膜型人工肺)装着。
9人は3月20日までの研究期間内にICUを出た。16人全員が生存退院。
ICUの平均入室期間は12.0日。
ICUでの治療中にSARS-CoV-2の陽性反応が出た症例は16人のうち以下の通り。
鼻腔:13人
咽頭:10人
喀痰、吸引痰: 全例が陽性
瞼結膜:1人
胃液:6人
便:11人
尿:4人
・喀痰での陽性者は症状が改善した28日目以降も陽性が持続。最長は56日目まで陽性だった。
・喀痰中のウィルス量は鼻咽腔よりも量が多かった。
・喀痰中での陽性は、RNAの定量で実施しているのでこれが即、感染能力があるかどうかは不明であるがこの現象は鳥インフルエンザで見られた現象と一致している。
・便からウィルスが排出されている結果も重要で感染経路の確認が難しくなる。
Q. なぜ多彩な臓器からウィルスが検出されるのか?
・著者たちは、SARS-CoV-2ウィルスが細胞の中の進入路となっているACE2に注目しており、この受容体を持つ細胞の全てでウィルス増殖が起こる可能性を推定している。
・あるいは、肺障害による血液中の酸素の低下、血液の循環の減少、高度の炎症で多臓器からウィルス検出が起こっているのではないかと推定する。
重症のCOVID-19は肺の障害が高度であり、ウィルスがもっとも排出されるのは咳と共に排出される痰であり、エアゾル化した微粒子の中に大量のウィルスが含まれています。
このことは防護服やマスクが極度に不足した医療現場で働く医療者を高度の危険にさらすことになります。症状が治まっていても最長、2か月近くまで痰にウィルスが見つかったという指摘も治癒という判定が難しく、COVID-19の抑え込みを難しくしています。
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