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No.118 ウィルス感染で悪化する喘息


2020年11月14日


 喘息は気道の広い範囲に慢性の炎症が起こり、その結果、気道が過敏となり一時的に狭くなり空気が通りにくくなり、咳がでたり、息苦しさを繰り返す病気です。

 気道のウィルス感染が子供も大人も喘息を悪化させることは古くから知られています。

これらには、コロナウィルス、パラインフルエンザ、インフルエンザ、ヒトメタニューモウィルス、RSV, RV(ライノウイルス)など多数が知られています。いずれも細分化されており、例えばコロナウィルスでは、喘息を起こすものとして4種(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)が知られています。これらは新型コロナウィルス(SARS-Co-2)とは別種です。

RV (ライノウィルス)では、A,B,Cが知られています。RV-A,RV-B,RV-Cと記載されています。

 最近、注目を集めているのがRV(ライノウイルス)感染症と喘息の関係です。新型コロナウィルス感染症でも感染に伴うさまざまな細胞が複雑に関係して病像を作り上げる機序が次第に明らかになってきています。ここで紹介する、新しい論文はRV感染と喘息がどのように関連するかを細胞だけでなく遺伝子レベルまで解明しています。RV感染と喘息の関係についての大まかな関係について解説します[1-3]。



Q.喘息研究の歴史的な展開は?


・喘息が慢性の気道炎症で起こることは1800年代より知られ、好酸球が気道炎症の主役を担うことが知られている。


・その後、リンパ球の関与も知られるようになった。リンパ球にはT細胞とB細胞があり、T細胞は、産生するサイトカインの種類によりTh1とTh2に分類され、喘息はTh2に関係する疾患であることが判明した(II型気道炎症)。



Q.小児の喘息でRVが注目されてきた理由?


・小児ではエアロアレルゲン(特にチリダニ)による感作が急性喘息のリスクを高め、重症化の原因として知られてきた。


・ウィルス感染との急性喘息の関係はRV(ライノウィルス)で最も強い関係が指摘されてきた。


・RV感染を繰り返すこと、アレルギー性物質による感作はそれぞれ、独立して6歳までに喘息を発症させる。


・就学前の子供で最も急性喘息を起こしやすいウィルス感染は、RV-Cであることが判明した(2002年)。



Q.吸入ステロイド薬とRV感染の関係は?


・好酸球による炎症反応を特徴とするII型気道炎症は吸入ステロイド薬で改善することは知られているがRVによる感染そのものを抑制することが判明している。


・喘息ではT調節細胞(Treg)が少なく、免疫に対する反応性が低下しているが吸入ステロイド薬はこれを増強する効果がある。



Q.気道感染と喘息の関係は?


・喘息のリスクの高い人では、RV感染で血液中の好酸球が増加し、アトピー症状を起こしやすく、インフルエンザ桿菌やモラキセラ菌による感染を起こしやすい。



Q.気道のウィルス感染がどのようにして喘息を起こすか?


出典: Wark PAB. et al. Asthma and the dysregulated immune response to Rhinovirus. Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: 158-159.より一部改変


図説明:

・ウィルス感染により乳幼児期に激しい気道炎症を起こし、細気管支炎を引き起こす。

免疫力が低下している人(IRF7 lo)は、IL-6応答に障害がありウィルスの除去に時間がかかる。その間、より強い気道炎症を起こすが、反復して起こる感染症はライノウィルスーC(RV-C)などのウィルスで発症する。T細胞免疫応答の低下と気道炎症の再発は、T調節(Treg)の数と機能低下に関係する。


・気道炎症が制御されなければ気道には損傷と修復作用が繰り返し起こる。一部では、エアロアレルゲン、特にチリダニにより感作される。その結果、II型気道炎症が成立する。

これがあると抗ウィルス免疫表現型がさらに悪化させRV感染を反復して起こりやすくする。このようにして、喘息が成立し、RV-AとRV-Cにより引き起こされるII型気道炎症と再発性増悪が特徴となる。

RVはCOPDにおいても増悪の原因となることが最近、判明した。



Q.乳幼児期のウィルスによる呼吸器感染症の問題点とは?


・乳幼児期のウィルス感染ではRV(ライノウィルス)による場合が多い。喘息がすでにある場合には悪化要因となる。成人の場合でも悪化させる一般的な原因である。


・2歳未満の幼児では、RSV感染により細気管支炎、喘鳴を起こすことが多い。受動喫煙、肺機能の低下が喘息悪化の危険因子である。


・ヒトメタニューモウィルス(hMPV)の感染は乳幼児、5歳未満の小児の急性気管支炎として頻度が高い。この年齢層では、アレルギー性物質の感作による喘息が起こる。


・RVによる気道感染は子供、成人の両者で喘息の悪化を起こす最も一般的な原因である。ところが喘息の患者では健常者よりもRV感染が起こりにくいようである。ただし、いったん感染するとより深刻で長期にわたり喘息が悪化した状態が続く。



 慢性喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)では、治療の経過中に一時的に症状が悪化することはしばしばあります。多くはカゼが原因ですがこの論文は、ライノウィルス感染が特に問題となることを明らかにしました。

ライノウィルス感染の治療薬やワクチンはまだありませんが、吸入ステロイド薬が予防と治療効果があることを明らかにしたことは日常の治療の継続が大切であることを示すものです。

参考文献:

1. Anderson D. et al. Differential gene expression of lymphocytes stimulated with Rhinovirus A and C in children with asthma.

Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: 2020-209.

2. Wark PAB. et al. Asthma and the dysregulated immune response to Rhinovirus. Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: 158-159.

3. Kakumanu S, et al. Role of virus in wheezing and asthma: An overview. UpToDate, updated April 3, 2019.

※無断転載禁止

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