top of page

No.209 新型コロナウィルス感染症に伴う神経症状とはなにか?


2021年10月7日


 COVID-19を引き起こすウィルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウィルス2(SARS-CoV-2)と呼ばれています。

元々は、カゼのウィルスの1種であったコロナウィルスですがCOVID-19は、感染後にも長く全身症状を呈することがあり、Long Covidと呼ばれています(コラムNo.208, 参照)。

 Long Covidの症状として注目されている症状に神経症状があります。ここでは、神経学的な合併症で明らかになっていることを整頓し、紹介します[1]。




Q. Covid-19の神経症状とは?


・COVID-19患者の神経学的合併症は、入院するような重症者によく見られ、入院患者の80%以上で、経過中に神経学的症状を示す。


・頻度は地理的な場所と患者の特性によって異なる。

筋肉痛、頭痛、脳症、およびめまいが最も一般的であり、中国、ヨーロッパ、および米国の患者の約3分の1でみられる。


・味覚障害や無嗅覚症などの神経学的症状はあまり一般的ではないが、症状の正確な確認は、重症の認知機能障害または心肺機能障害のある患者では聴取が制限されていた可能性がある。


・脳卒中、運動障害、運動および感覚障害、運動失調、および発作はまれにみられる。


・重症患者では、重症度の低い患者よりも神経学的合併症の割合が高くなる。


・COVID-19感染の神経学的症状は、入院中の患者の約半数で発症する。筋肉痛、頭痛、および脳症が最も一般的である。


・脳症は、患者の約30〜55%で発症し、重症患者によく見られる。一般的な原因は、毒性代謝性脳症、投薬効果、脳血管障害のほか、非けいれん発作を認める。


・脳卒中は、入院患者の約1〜3%にみられ、より重症の患者ほど頻度が高くなる。

虚血性脳卒中、頭蓋内出血、および脳静脈洞血栓症を含む、脳卒中としてのサブタイプを認めることがある。


・従来の脳卒中メカニズムに加え、COVID-19に関連する虚血性脳卒中のメカニズムには、血液凝固亢進、炎症、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系機能障害、および心機能障害の可能性がある。

注)降圧剤として広く使用されているレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系薬剤は、当初はコロナ感染を誘導するのはないかと懸念されていたが、否定された後、最近ではなるべく使用を控えるに修正した論文がある[2]。


・COVID-19の患者ではギランバレー症候群およびこれに関連する症候群の症例が報告されている。


・COVID-19でみられる稀な神経学的症状には、髄膜脳炎、小脳炎、急性散在性脳脊髄炎、多系統性症候群、発作、全身性ミオクローヌス、および可逆性後頭葉脊髄症がある。




Q. Long Covidにおける神経学的症状とは?


・患者の一部では、急性感染後、数週間から数ヶ月持続するCOVID-19に起因する症状がみられる。入院を必要としない軽症の急性COVID-19症状を持つ患者においても、持続的な神経学的および全身的症状がみられることがある。


・4週間以上続く急性COVID-19感染後の持続的な症状の割合は、患者の5〜80パーセントの範囲であると報告されている。


・入院した重症のCOVID-19感染から回復した患者では、倦怠感、呼吸困難、筋肉痛が最も多い。

さらに、肺炎または低酸素血症がある軽症の急性COVID-19の患者でも、持続的な神経学的および全身的症状がみられることがある。


・COVID-19の入院していない180人の患者の調査では、50%以上が症状の発症後平均125日で少なくとも1つの持続的な症状があると報告されている。


・倦怠感と無嗅覚症が最も頻回に起こり、対症療法で経過した患者の24%で発生した。


・少なくとも6週間持続する神経学的症状を伴うCOVID-19の入院していない100人の患者の前向き研究では、最も頻繁に報告されたのは脳霧(brain fog),(81%)、頭痛(68%)、しびれ/疼痛(60%)であった。味覚障害(59%)、無嗅覚症(55%)、および筋肉痛(55%)がみられた。


・患者は、対照と比較して、生活の質(認知および倦怠感)領域、注意、および作業記憶の障害を示した。発病からの時間と回復との間に相関関係はみられず。




Q. 神経学的状態の患者の管理は?


・免疫抑制療法で治療されている神経学的疾患の患者は、COVID-19のリスクが高いため、治療を継続する必要がある。


・脳卒中を含む心血管疾患の病歴のある患者では、COVID-19により悪化するリスクが高い。これは、他の衰弱性の神経疾患を持つ他の患者にも当てはまる可能性がある。そのような患者では、予防措置を順守するように特にアドバイスされるべきである。




Q. 神経学的状態の患者へのワクチン接種は?


・一部の神経学的状態の患者は、COVID-19による重篤な病気のリスクが高い可能性があるため、禁忌のない患者では、 COVID-19のワクチン接種が必要である。


 Long Covidの診療体制は必ずしも整備されていないのが実情です。特に、神経症状を伴う場合には、受診先を決めることが難しく当惑している場合が多い印象を受けます。まず、かかりつけ医に相談することをお勧めします。その上で、必要ならば神経内科など専門領域に相談していただくのが良いと思われます。




参考文献:


1.Elkind MSV. et al. COVID-19: Neurologic complications and management of neurologic conditions. UpToDate

Literature review current through: Aug 2021. This topic last updated: Aug 03, 2021. https://www.uptodate.com/contents/covid-19-neurologic-complications-and-management-of-neurologic-conditions?search=Long Covid&source


2.Kerneis M. et al. RAS inhibition and COVID-19: more questions than answers. Lancet Resp Med 2021; 9:807-809.

DOI:https ://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00233-2


※無断転載禁止

閲覧数:18,713回

最新記事

すべて表示

No.285 新型コロナウィルス感染症後にみられる間質性肺炎とは?

2023年10月3日 新型コロナウィルスによる肺の感染症で入院治療が必要となる重症呼吸窮迫症候群(ARDS)となった患者数は全世界で約6億人と言われています。 重症のウィルス感染がきっかけで間質性肺炎を起こすことは、HIV、サイトメガロウィルス、Epstein-Barrウィルス感染症でも知られています。 新型コロナウィルス感染後に、脳の霧(brain fog)といわれる状態や、息切れ、胸痛、動悸な

bottom of page